『企業とは何か』(P.F.ドラッカー)
1946年に発売された本書。GMの依頼を受け、1年半に渡りGMを企業の中から調査研究したうえで、産業社会の基本にかかわる問題提起がまとめられています。2005年版日本語訳のあとがきにおいて、「本書ほど企業に大きな影響を与えた本はなかった」と言わしめた内容。当時の経営スタイルに一石を投じた内容です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇事業体としての企業の問題
①経営政策にかかわる問題
経営政策には、状況の変化と問題の発生に対応する柔軟さがなければならない。
②リーダーシップに関わる問題
日常の企業活動に不可欠のスペシャリストをいかにして経営政策を策定することのできるゼネラリストに変えるか。
③経営政策とリーダーの評価の尺度に関わる問題
企業たるものは、社会の代表的組織として社会の信条と価値に応えなければならない。
〇リーダーシップに関わる問題
・そもそも組織とは、人の長所を生かし短所を補うべきものである。天才やスーパーマンなしでやっていけるべきものであり、信頼できるリーダーを確実に生み出していくべきものである。
・中央のリーダーシップが強くなければ組織は機能しない。同時に現場のリーダーシップが十分強く、かつ十分に自立して責任を負うことが無ければ組織は機能しない。したがって、あらゆる組織にとって権力の配分が大きな問題になる。
〇企業特性に起因する問題(リーダーシップに関わる問題)
①ワンマン支配の危険
②調和志向の危険
③業績評価のための客観的な尺度の欠如
④スペシャリストとゼネラリストのアンバランスの危険
〇仕事を意義付ける
・大量生産産業では、仕事に働きがいを見出すうえで必要な、仕事の意義づけが行われていない。そこに働く者は、いかなる意味ある製品も作ってはいない。何をなぜ行っているかを知らない。仕事は賃金以外にいかなる意味もない。市民性がないゆえに、市民としての充足もない。
・経営陣は、働く者に対し避けることのできない責任を負う。しかし産業社会における一人ひとりの人間の位置と役割に関わる問題の解決は、社会保険や福利厚生という恩恵によってはもたらされない。必要なことは、人間としての尊厳を与えることである。
〇働く者の参画
・提案制度の価値は一般論として万人の認めるところである。ところが実際には、平時にうまくいっていた提案制は多くない。原因は2つ。
①生産方法についての部下からの提案に対する職長の反発
②さらに難しい問題として、生産性の向上による雇用の喪失への危惧
〇賃金の決定要因
賃金は労使いずれの考えとも関わりなく、生産性、製品価格、競争状態など純粋に経済的な要因によって規定されなければならない。賃金は、客観的に決定されるべきものである。争議の対象とすべきものではなく、対象とするに及ばないものである。賃金については客観的な基準は一つしかない。生産性である。
〇社会的組織としての企業
企業が社会の代表的組織であること、人間からなる組織であること、秩序あるものとしての社会に関わるものであること、われわれの全員が消費者、労働者、貯蓄者、市民としてその繁栄に利害を有することこそ、われわれば学ぶべき最も重要な教訓である。
〇独占的支配
独占はそもそもの定義からして反社会的行為である。独占企業そのものにせよ独占的な産業にせよ、すべて独占的なるものは社会の安定と経済において効率の敵であることを明確にしておかなければならない。したがって、電力産業のように生産上あるいは流通上の制約によるやむを得ざる独占においては、消費者利益の視点からの規制を不可欠とべきである。
〇生産調整と生産低迷の峻別
景気変動への対処としての生産調整と、陳腐化や非効率化による生産低迷とを峻別しなければならない。後者こそ独占の害であり反社会的行為である。前者は効率的な生産のためのものであり社会的行為である。
〇利益とはリスクに対する保険料
利益とは、資本主義経済、社会主義経済、原始経済のいずれにおいても、それらリスクに対する保険料であり、経済活動の基盤となるもの。リスクに対する相応の用意のない社会は自らを食いつぶす貧困化する社会である。同時に、利益とは生産の拡大に必要な資本設備のための唯一の原資である。経済発展の鍵は、働く者一人当たりの投資を増大させることにある。
かなり壮大な内容です。第2次世界大戦直後の当時、依頼を受けたGMの幹部からは成果物と提案に対してかなりの反発があったようです。現在とは経営者の価値感も違ったようですが、時は過ぎ、本書を読んでも違和感のない時代を迎えています。本当に大切なことを考え、それに合わせて現状を変えていくことの大切さが伝わります。