『結果を出すリーダーはみな非情である』(冨山和彦)(〇)
まえがきに、『君主論』(マキャベリ)の日本企業ミドルマネジメント版とあるように、本書は、現実経営で実行力となるリアルなリーダーシップ、リーダー力の鍛錬、習得の要諦がまとめられています。企業再生の最前線で活躍を続けられている著者の経験が机上の理論ではないリアルさを醸し出している一冊です。
■ひとことまとめ
責任与党は「矛盾」にさらされている。最後は「理」だが「情」も忘れずに。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ミドルマネジャーという立場
課長というのは、ある意味でペーペーの社長より逃げ道が多い。他人に責任転嫁して過ごすのか、自分で引き受けてストレス耐性を高めるのか、将来のリーダーとしての成長の伸びしろは大きく変わってくる。ミドルマネジメントになったら社長になったつもりで判断をし、行動しておかないと、将来社長になったときに何も決められなくなってしまう。トップリーダーを目指し、真のミドルリーダーとして自分を本気で磨くか、管理職など目指さずに現場スキルの職人芸で勝負するのか、はっきりとさせたほうがいい。
〇おカネは大事
課長クラスのミドルリーダーも、人間とカネの問題、すなわち仕事と報酬の関係性、さらには、そこに介在する価値観の多様性を直視し、経営することから逃げてはならない。
〇論理的な思考力、合理的な判断力
論理で片付かない問題かどうかは、論理的に考え尽くさないと分からない。訓練無しに論理的に判断できる人はいない。
〇リアリズム
冷静な事実や人間性の現実を理解すること、それはすなわち、リアリズムの追求。経営の世界はリアルな世界。人とカネをめぐる生々しいせめぎあい。リーダーがリアリズムと合理主義に徹することが絶対と言っていい必要条件。リアリズムと合理主義に立脚しない理想主義や情緒主義によって多くの人間が殺されてきたのが人類史のリアル。ダメな経営者は圧倒的に情に流される人。一方、情に背を向けて合理にひたすら突っ走る人もうまくいかない。情理と合理がぶつかり合う局面では、悩みつくしたうえで、最後は何とか折り合いをつけていくしかない。サンクコスト、サンクタイムに目を奪われないこと。
〇コミュニケーション
トップのコミュニケーションには、組織の空気を少しずつ変えていく根気強さ、しつこさが必要。相手を論破しようなどと、ゆめゆめ考えてはいけない。論理的に相手を凌駕すれば、むしろ禍根を残す。日本のように恥の文化の国においては特に良くない。
〇戦略・組織論を押さえる
・そのビジネスが儲かるか、儲からないかを決定している最も大きな要因(経済構造)を押さえる。
・戦略を考える前提要素は、①経済構造、②市場環境、③競争ポジション。
⇒現実には、この3つがすんなり整合していないことが多い。3つの前提要素に矛盾が生じている場合の意志決定はシンプル。「何かを捨てる」しかない。
・意思決定は常に引き算の議論。何を優先させるか、どちらに進むか、何を捨てるか、あれかこれかの世界。
・戦略的思考は、血も涙もない結論を導く。ある種の摩擦から生まれるコストや混乱を最小化して実行に移すこと。それが本当の経営。優先順位をひっくり返して、血も涙も流れない範囲で目的設定をするから、意思決定が歪む。
・白か黒かで語るのは、無責任野党だからこそできること。責任与党は常に矛盾にさらされている。本気で改革やマネジメントをしようと思う人は、野党の批判など適当に聞き流す図太さがないとダメ。
まさに現場リーダーの声。「責任与党は矛盾にさらされている」という言葉の「矛盾」に表れているように、きれいごとはないんだなと、あらためて思います。一方、非情に突っ走ってもうまくいかない。「情と理」、最後は「理」かもしれないが、そこに至るプロセスでリーダーのコミュニケーションや人間性という「情」が求められる立場。そこを目指すかどうか、ミドルマネージャ―に問いかけてくれる良書だと思います。