第7巻「悪名高き皇帝たち」。初代皇帝アウグストゥスの後を継ぐ4人の皇帝の物語。カエサルが企画し、アウグストゥスが構築し、ティベリウスが盤石にしたローマ帝国は、その後、カリグラ、クラウディウス、そして暴君で有名なネロが続く。領土拡大で膨らんだ軍事力は財政問題をもたらし、軍事・政治・財政のバランス感が問われる中、各皇帝の力量が問われた時代です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇ティベリウス(14~37年)
・後継者には自分の血を引き継ぐものが就くとしたアウグストゥスにしてみれば、ティベリウスはゲルマニクスが公定に就くまでの中継ぎにすぎなかった。
・税制に対する考えは、税の値上げだけはしないの一点で一貫していた。財政再建を優先し、必要性に迫られて行った公共工事は、①アウグストゥス神殿、ポンペイウス劇場の全面改修のみ。
・帝国のメンテナンスという面では、どこをどう手直しすれば、システムを保持しつつその機能性も維持できる能力と、それを実行できる決断力が必要。この面でのティベリウスは、事実上はカエサルから始まったローマ帝国の3番手を務めるのに、まことに適した人材であった。
・27~37年の死去までの間、カプリ島からローマ帝国を統治し続けた。
〇カリグラ(37~41年)
・24歳で皇帝就任。カリグラくらい、すべての人に歓迎されて皇位に登った人はいない。
・人気取りのための様々な施策。売上税1%の廃止では、カリグラの廃税宣言には、これに代わる財源については、一言も触れていない。このようなことは考えもしなかったのであろう。
・全てを所有する人にとっての最大の恐怖は、現に所有しているものを失うこと。カリグラはそれを失わないために全力を集中するようになる。まず最初にやったことは、養子にしていたゲルメスを殺させた。既に7本の水道が水を供給しているローマに新たな水道を建設することを公表。メッシーナ海峡沿いの避難港建設、ローマの火災を全額国家が保証、これが国家財政破綻の一因になる。
・皇帝一家の家具調度品、宝飾品、使用人奴隷までを競売に出す。
・ブリタニア進攻はさしたる根拠もない思いつきにすぎない。
〇クラウディウス(41~54年)
・カリグラの暗殺後に50歳で皇帝就任。
・カリグラが廃税にした売上1%税を復活。必要な出費は削らなかったが、不必要と考えた出費は容赦なく削減。
・ブリタニア遠征は、皇帝就任後2年から開始。国家財政の立て直しが効果を表し始めた時期と一致していた。
・皇帝ティベリウスによる防衛システムの確立が着実に効果を表し、クラウディウスもライン河とドナウ河の防衛システムを忠実に踏襲している。
・クラウディウスが偉かったのは、軍事力の増強をしようと思えばでき、それを使っての領土拡張に出ようと覆えばできたのに、そのようなことには全く関心を示さなかったこと。
〇ネロ(54~68年)
・16歳の就任当時の支持率は、カリグラに勝るとも劣らない高率であったネロの統治は、「ネロの5年間の善政」から始まる。
・14年間にわたる統治の中で行った経済政策は、①国庫の1本化、②間接税全廃の提案、③通貨改革。
・一線も交えずにアルメニア王国の首都を占領。無欠入城を果たす。
・ネロには問題解決を迫られた場合、極端な解決方法しか思いつかない性癖があった。ポッペアと結婚するために、アウグストゥスの血を引いたオクタヴィアと離婚することについて、母のアグリッピーナが断固として反対したが、ネロは母殺しで解決を図る。オクタヴィアは離婚しただけでなく、流刑に処し、島流しにしただけでなく、殺させてしまった。
・東方で指揮系統を二分するという誤りを犯し、軍はパルティア王に降伏。
・ナポリの野外劇場で歌手デビュー。
・ローマの大火で陣頭指揮。再建では壮大な規模の都市部の改造を企画。国費を使ったがドムス・アウレリアという私邸を意味する言葉を使ったのが誤り。放火犯として罪を転嫁するのにキリスト教徒だけに的を絞った。200~300人が単なる処刑よりも残酷な見世物に。
・元老院は、ネロを捨て、アウグストゥスの血とは無関係のガルバに乗り換えることにした。
人気取りに偏れば財政は悪化し、財政規律を図れば不平を呼ぶ。蛮族から領土を守り、食の安全を図るという帝国の基礎は、一筋縄にはいかない統治の難しさが伝わります。また、若くして皇帝に就任した人は、軍事・政治・財政の経験・知識がないことや私欲の問題が表面化し、やがては混乱を招くのも、カリグラとネロから感じること。異なる皇帝が就任した時は、期待に胸を膨らますが、やがてその皇帝の力量が発揮されて現実の世界に引き戻されるのも現代と同じように思います。