『サピエンス全史(上)』(ユヴァル・ノア・ハラリ)
「文明の構造と人類の幸福」というサブタイトルが付された、上下巻に渡る人類史の大作。裏表紙に記載された本書の紹介文を引用してみます。
「アフリカでほそぼそと暮らしていたホモ・サピエンスが、食物連鎖の頂点に立ち、文明を築いたのはなぜか。その答えを解く鍵は「虚構」にある。我々が当たり前のように信じている国家や国民、企業や法律、さらには人権や平等といった考えまでもが虚構であり、虚構こそが見知らぬ人同士が協力することを可能にしたのだ。やがて人類は農耕を始めたが、農業革命は狩猟採集社会よりも苛酷な生活を人類に強いた、史上最大の詐欺だった。そして歴史は統一へと向かう。その原動力の一つが、究極の虚構であり、もっとも効率的な相互信頼の制度である貨幣だった。なぜ我々はこのような世界に活きているのかを読み解く記念碑的名著」
(印象に残ったところ‥本書より)
〇歴史の道筋となる3つの重要な革命
①認知革命(約7万年間)
②農業革命(約12,000年前)
③科学革命(500年前)
〇思考力の代償
・脳は体の消費エネルギーの25%を使う(ヒト以外の霊長類は8%)。太古の人類は、大きな脳の代償を2通りのやり方で支払った。まず、より多くの時間をかけて食べ物を探した、そして、筋力が衰えた。
・ヒトは卓越した視野と勤勉な手を獲得する代償として、腰痛と肩こりに苦しむこととなった。
・女性は直立歩行するには腰回りを細める必要があったので、産道が狭まり、出産にあたって命の危険にさらされる羽目になった。その結果、自然選択によって早期の出産が優遇された。人間は未熟な状態で生まれてくるので、他のどんな動物も敵わないほど、教育し、社会生活に順応させることができる。
・人類はあっという間に頂点に上り詰めたので、生態系は順応する暇がなかった。サピエンスは、政情不安定な弱小国の独裁者のようなもの。自分の位置についての恐れと不安でいっぱい。多数の死傷者を出す戦争から生態系の大惨事に至るまで、歴史上の多くの災難はこのあまりに性急な飛躍の産物。
〇調理をする動物
・火の最大の恩恵は調理が可能となったこと。人類には消化できない食べ物も、調理のおかげで主要な食料となった。調理すれば嚙むのも消化するのもぐんと楽になった。調理によって長を短くし、そのエネルギー消費量を減らせたので、図らずもネアンデルタール人とサピエンスの前には、脳を巨大化させる道が開けた。
〇虚構が協力を可能にした
・7万年前に獲得した言語技能のおかげで何時間も続けて噂話ができるようになった。陰口を利くというのは、ひどく忌み嫌われる行為だが、大人数で協力するには実は不可欠。「噂話」説は冗談のように聞こえるかもしれないが、おびただしい研究に裏打ちされている。伝説や神話、神々、宗教は、認知革命に伴って初めて生まれた。
・噂話によってまとまっている集団の自然な大きさの上限は約150人。今日の人間組織の規模にも当てはまる。その限界を乗り越え、何万もの住民からなる都市や何億もの民を支配する帝国を築いた秘密はおそらく虚構の登場にある。膨大な数の見知らぬ人同士も共通の神話を信じることによって、首尾よく協力できる。
〇狩猟採集民の豊かな暮らし
・私たちの現在の社会的特徴や心理的特徴の多くは、農耕以前の長い時代に形成された。カロリーの高い食べ物を貪り食うという本能は、私たちの遺伝子に組み込まれている。
・最も重要なことは、水産食物や水鳥が豊富な海沿いや川沿いに人類が永続的な漁村を作り上げたこと。これは歴史上初の永続的定住地の誕生であった。
・人類全体としては今日のほうが古代の集団よりもはるかに多くを知っている。だが、個人のレベルでは、古代の狩猟採集民は、知識と技能の点で歴史上最も優れていた。狩猟採集時代に生き延びるには、誰もが素晴らしい能力を持っている必要があった。
〇農業革命
・農業革命のせいで、未来はそれ以前とは比べようもないほど重要になった。農耕民は未来を念頭に置き、未来のために働く必要があった。農耕が始まったまさにその時から、未来に対する不安は、人間の心という舞台の常連となった。
・至る所で支配者やエリート層が台頭し、農耕民の余剰食糧によって暮らし、農耕民は生きていくのが精一杯の状態に置かれた。こうして没収された食糧の余剰が、政治や戦争、芸術、哲学の原動力となった。
〇統一へ向かう世界
・神話と虚構のおかげで、人々はほとんど誕生の瞬間から、特定の方法で考え、特定の標準に従って行動し、特定のものを望み、特定の規則を守ることを習慣づけられた。こうして彼らは人工的な本能を生み出し、そのおかげで膨大な見ず知らずの人同士が効果的に協力できるようになった。この人工的な本能のネットワークのことを「文化」という。
現代の人類の当たり前と思うことが、遠い昔に形作られて染みついたものとったてきたという過程が分かる興味深い内容でした。「人類という言葉の意味は、ホモ属に属する動物であり、以前はホモ・サピエンス以外にもこの属に入る種は数多くあった。そう遠くない将来、私たちは再び、サピエンスでない人類と競い合う羽目になるかもしれない・・・」という一文にも興味をそそられます。