『バリュエ―ションの教科書』(森生明)(〇)
森生先生の最新刊。ファイナンスⅠあたりで復習とファイナンスⅡに向けた準備として読むとちょうどよいレベル感の良書だと感じました。約240ページで考え方がシンプルに説明されており、とても読みやすい印象です。冒頭のPBR(株価純資産倍率)、ROE(株主資本利益率)、PER(株価収益率)の整理と簡潔さが特に秀逸で是非とも押さえておきたいところです。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇バリュエ―ションの中核にあるシンプル公式
☆PBR(株価純資産倍率)=PER(株価収益率)×ROE(株主資本利益率)
PBR=P(株式時価総額)/E(利益)×E(利益)/B(簿価株主資本)
・ROE:株式資本から効率的に利益を上げているか
・PER:将来の成長性とリスク(安定性)の指標
〇企業価値
・企業価値とは、のれんの創造にほかならない
・価値を創造している会社では、純資産の時価と簿価の差分だけB/Sの左側にそれを埋める資産価値が存在する。
・企業ののれん価値創造力は、純資産の時価と簿価の比率であるPBRで表現できる。
〇「PBR=PER×ROE」の補足
・企業価値=事業資産と事業負債を使って生み出されるキャッシュフローの現在価値
・のれん価値を含めての企業価値を創造するにあたり、資金の調達方法は借金でも出資金でもどちらでも構わないというスタンス
・よ上司さんはすべて有利子負債(借入金)の返済に回して、B/Sを筋肉だけの塊にシェイプアップする。それが「ネット有利子負債」という処理。
②ROEの分解式としてのデュポン式とその応用
・ROE=利益/株主資本
=利益/売上高×売上高/総資産×総資産/株主資本
・株主資本利益率=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジ
・資本効率=会社の収益性×資産効率性×負債の有効利用
③答えは市場に聞くしかない
・企業価値について、誰もが納得すべき「理論的公正価格」が1つ存在する、という考え方自体を捨てたほうが企業価値算定の本質を理解しやすくなる。
〇すべての投資価値算定はDCFから
・企業価値とはその企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの現在価値
・企業価値算定のカギ
①企業がどれほどキャッシュフローを年間生み出していて、その将来の成長の絵をどう描くのか(g)
②その将来キャッシュフローを現在価値に直すために、どのような割引率(ディスカウント・レート)を用いるのか(r)
・キャッシュフローの現在価値
PV=C/(r-g)
・PERは、(r-g)の逆数である。
PER=1/(r-g)
〇投資家が気にすべきは、フリーキャッシュフロー
・FCF=営業CFー本業の維持更新のために必要な投資額
=税引後営業利益+減価償却費ー設備投資±運転資金変動分
〇M&Aによく登場する指標、EBITDA倍率
・企業が本業から経常的に生み出す実力ベースのキャッシュ創造力
・計算が簡単かつ安定的で他社と横並びにして比較しやすい
〇コングロマリット・ディスカウント
・多角化してさまざまな事業を傘下に抱えている会社の市場株価評価は低めになりがち
・多角化は1つの持ち株会社の傘下に事業会社をぶら下げることの合理性の説明席にが面倒な組織形態
〇CAPM(株主資本コスト)
・CAPMの公式では、株式投資家がその要求リターンを3つの問いに答える形で導き出していると想定している。
①リスクがない投資にそのカネを投じれば、いくらのリターンが得られるのか
②株式市場というリスクある投資市場にそのカネを投じる場合は、無リスク投資で得られるリターンよりどれほど高い「プレミアム」を要求すべきか
⇒株式市場プレミアム(配当とキャピタルゲインで得られているリターンは、同期間国債に投資し続けた場合に得られるリターンを実績値でどれほど上回っているか)
③株式市場全体ではなく個別の株式に投資する場合、それは株式市場全チアに投資するリスクより高いか低いか
⇒β(当該株式の株価は株式市場全体(TOPIX)の変動に対してどういう傾向をもっているか)
ファイナンスは、基本的には教科書で勉強することになりますが、やはり実務に携わっている人に疑問点を聞いたときに、グッと理解が進みますね。教科書は網羅的ですが、実務では意外と特定の指標しか使わなかったり、「それは決めの世界」「こちらの意志によってブレはある(逆算?)」など、実務が見えると身近に感じられ、学ぶ意欲が湧くのではないでしょうか。そういう意味では、実務家を捕まえておくことが学びの秘訣かもしれません。