MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

イノベーションへの解(クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー)

イノベーションへの解』(クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー)(◯)

 『イノベーションのジレンマ』の続編。ビジネスにおける成長をどのように産み出せば良いのか。破壊的イノベーションがうまくいかずコモディティ化が進んでしまう仕組みを解いた上で、どのように対処していけばいいのかという点に着目た一冊。まずは、『イノベーションのジレンマ』を読んで、その記憶が残っているうちに本書を読むとつながりが感じやすく、一連のものとして捉えることができると思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯『イノベーションのジレンマ』と『イノベーションへの解』

・『イノベーションのジレンマ』:利益を最大化させる資源配分メカニズムが特定の状況下では優良企業を滅ぼすことを説明する理論をまとめた本。

・『イノベーションへの解』:新事業を狙い通りに発展させ、破壊される側ではなく破壊者となって、ライバルの実績ある優良企業を最終的には破滅に追い込まねばらならないマネジャーに指針を与える、様々な理論をまとめたもの。

 

◯成長率

 現に成長を遂げつつある企業でさえ、成長のペダルをどんなに早く漕ごうとも、十分なスピードは得られない。それは、「企業の予測成長率を株式の現在価値に織り込む」という、投資家の厄介な性向のせい。たとえ中核事業が力強く成長していても、株主の予測より早いペースで成長しない限り、市場平均を上回るリスク調整後リターンを将来的に実現できない。株価を引き上げるためには、市場予測を上回る速さで成長する必要がある。

 

◯非対称的モチベーション

 破壊的イノベーションには、業界リーダーを無力にする効果がある。大手企業には、持続的イノベーションを支えるために設計された精緻化された資源配分プロセスがあるため、構造上破壊的イノベーションに対応できない。常に上位市場に向かうよう動機付けられている一方で、破壊者にとって魅力的な新市場やローエンド市場を防御する意欲はほとんどない。

 

◯破壊的ビジネスモデル

 そのビジネスモデルをそのまま上位市場に持ち込み、性能の高い製品を製造して高い価格で販売できれば、価格の上乗せ分のほとんどが利益になる。逆に企業が高コストのビジネスモデルを下位市場に持ち込んで、低い価格ラインで製品を販売しようとしても追加売上が利益になることはほとんどなく、間接費として吸収されてしまう。実績ある企業が破壊的イノベーションを通じて成長するためには、後に上位市場に移行しても利益を得られるような、上方に余裕のあるコスト構造を持った、自律的な事業部門の中でそれに取り組む必要がある。

 

◯2種類の破壊

①新市場型破壊

・第三次元に新しいバリュー・ネットワーク(時間と性能の2次元が、顧客が製品やサービスを購入し使用する、特定の用途市場を定義する。この競争と消費が行われる平面のこと。)を生み出す破壊。

・「無消費」、つまり消費のない状況に対抗するものとして捉えている。

・新市場型破壊製品は従来品に比べればずっと手頃な価格で入手でき、しかも使いやすいため、それまで消費者ではなかった新しい人々がこの製品を手軽に購入して利用するようになる。

②ローエンド型破壊

・本来のバリュー・ネットワークのローエンドにいる、最も収益性が低く、ニーズを過度に満たされた、つまり「過保護にされた」顧客を攻略するものである。

 

◯不十分な成長から生じるデス・スパイラル

①企業が成功する

②企業は成長ギャップに直面する

③良い金は成長を待ちきれなくなる

 急成長することで成長ギャップを縮めることに貢献しないプロジェクトは、どんなものでも戦略プロセスの資源配分ゲートを通過できない。新成長事業を生み出すプロセスが脱線するのはここ。良い金は悪い金になる。なぜなら、企業はこれを機に次々と誤った決定を下さざるを得なくなるから。高い目標を無理矢理に約束させれば、規模を統計的に実証できる市場、つまり確立した明白な大市場にイノベーションをやみくもに押し込む戦略を宣言させることになる。このかさ上げされた成長プロジェクトへの資金供与が承認されると、もうマネジャーは前言撤回して、無消費に対抗する創発型戦略に従うことはできなくなる。

④経営陣は一時的に損失を容認する

⑤損失が拡大し縮小を促す

 

◯成長エンジンを作動させておくための3つの具体的な方針

①早く始める

②小さな規模で始める

③早期の成功を要求する

・新成長事業を本業が健全な間に、つまり成長を気長に待てるうちに、定期的に立ち上げること。

・事業部門を分割し続ける。規模が小さければ、小さな機会への投資で十分な利益を得られるために、成長を気長に待てる。

・極力、既存事業の利益で補填しないようにする。利益を気短に急かすこと。

 

◯経営陣関与の理論

・中間管理職にとって意味のない実行計画が上層部に検討されることはまずない。上級役員は自分たちが会社を動かしていると思っているが、実際はそうでないことがほとんど。

・現実には、組織の最上層の役員は、様々な意思決定に、時間的にも空間的にも立ち会うことができない。そのため、持続的イノベーションの状況では、上層部が関心を払わずともうまく機能する意思決定プロセスが成功のカギとなる。

 

 ポイントが多すぎるため、とても書ききれないのですが、上位市場と下位市場、持続的イノベーションと破壊的イノベーション。株価に成長見込みが織り込まれてしまう中でさらに株価を上げるために市場規模が大きく一時的に利益が確保できる上位市場へ移行しがちであること。組織的な意思決定を行う際に、組織の価値観が働き、その中で、破壊的イノベーション(下位市場や無消費者をも顧客に取り込む)が崩されてしまい、上位市場へ対処できる仕様に変えられ、結局は泥沼の競争に陥って赤字転落し、撤退するという流れ。ここを断ち切るには組織を分割して、目標成長率と目標金額という率と額のバランスを取れる組織体制にすること。すごく全体のデザインがわかりやすい内容でした。経営戦略を学ぶなら、一度は目を通しておきたいシリーズだと思います。

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)

イノベーションへの解 利益ある成長に向けて (Harvard business school press)

 

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