『「言葉にできる」は武器になる。』(梅田悟司)
著者は、電通のコピーライター。言葉を扱うプロが、どうやって伝わる言葉を生み出しているのか。言葉は意見を伝える道具であって、まず自分の意見を育てるプロセスこそが重要である。世の中の風潮が、コミュニケーション・ツールとしての「外に向かう言葉」(テクニック)の比重が高まり過ぎていることを危惧して、伝わる言葉の原点に立ち戻ることを提言した一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇伝わり方のレベル
①不理解・誤解⇒②理解⇒③納得⇒共感・共鳴
・人間は、相手の言葉に宿る重さや軽さ、深さや浅さを通じて、その人の人間性そのものを無意識のうちに評価している。そのカギが「内なる言葉」。相手の胸に響く言葉を生み出すために必要なのは、実際に書いたり、話したり、入力したりする「外に向かう言葉」そのものを磨くことではない。
〇「内なる言葉」と向き合う
・言葉にできないということは、「言葉にできるほどには、考えられていない」ということと同じ
・最も基本的であり重要なのは、一人の時間を確保し、自分自身の中から湧き出る「内なる言葉」と向き合うこと。ある出来事が起きた時に、どのような内なる言葉が生まれ、どのように物事を捉え、考えが進んでいくのかを自分自身が把握すること。
■悲しいことが起きた時、何を感じているのか
■楽しいことが起きた時、何を感じているのか
■過去を振り返る時、何を感じているのか
■未来を思う時、何を感じているのか
■困難に直面した時、何を感じているのか
■成功を収めた時、何を感じているのか
■仲間が困っている時、何を感じているのか
■仲間が成功を収めた時、何を感じているのか
〇なぜあの人の言葉は胸に響くのか
・言葉に重みが生まれる最大の理由。それは、言葉を発信する側の人間が、自信の体験から本心で語っていたり、心から伝えたいと思うことによる「必死さ」「切実さ」に因るところが大きい。その結果、どんなに平易な言葉であっても、意図が十分に伝わることで、人の心を惹きつけて離さなくなる。つまり、思いが言葉の重みを生む。
〇頭にあることを書き出す(アウトプット)
・書き出す言葉は、単語でも、箇所書きでも、文章でも構わない。
・ノートではなく、A4サイズの1枚紙に書くことを勧める(すべてを机に広げられる、次々書ける、順番を入れ換えられる、大きな文字で書ける)。附箋でもいい。
・文字の大きさは自信の大きさに比例する。
〇「T字型思考法」で考えを進める(連想と進化)
・なぜ?⇒考えを掘り下げる
・それで?⇒考えを進める
・本当に?⇒考えを戻す
〇同じ仲間を分類する(グルーピング)
・書き出した紙をいくつかの塊に分類していく
・方向性を横のライン、深さを縦のラインとして整理する。方向性を意識しながら、その中の順番を入れ替えていく。
〇時間を置いて、きちんと寝かせる(客観性の確保)
・求めずして思わぬ発見をする「セレンディピティ」
〇真逆を考える(逆転の発想)
・否定としての真逆(できる⇔できない など)
・意味としての真逆(希望⇔不安 など)
・人称としての真逆(私⇔相手⇔第三者 など)
〇違う人の視点から考える(複眼思考)
・様々な人の立場に立って考える手順。特定の誰かを思いうかべることで、その人になりきって、ある課題や物事をどのように考えるかを想定してみる。
〇自分という壁からの解放
・常識の壁
・仕事モードの壁
・専門性の壁
・時間の壁
・前例の壁
・苦手意識の壁
⇒このような壁を俯瞰してみると、そのすべては「自分という壁」であることが分かる。つまり、人は常に自分という壁の中でしか物事を考えることが出来ない状態にある。その壁を超えるためには、他人の視点から考えることが最も効果的。
〇技術面
①例える(比喩・擬人)‥得意分野の話に喩える
②繰り返す(反復)
③ギャップをつくる(対句)‥「負けるが勝ち」など
④言い切る(断定)‥断言は人々を導く「旗」。「と思います」が意思を弱める。
⑤感じる言葉を使う(呼びかけ、誇張、擬態)
⑥たった一人に伝わればいい(ターゲッティング)‥「あなたに伝えたいことがある」
・「あなたに」⇒伝えるべき相手は明確か?
・「伝えたいことが」⇒心から湧き出てくる思い、本心であるか?
・「ある」⇒断言しきれる内容か?
⑦常套句を排除する(自分の言葉を豊かにする)
⑧一文字でも減らす(先鋭化)
⑨きちんと書いて口にする(リズムの重要性)
⑩動詞にこだわる(文章に躍動感を持たせる)
⑪新しい文脈をつくる(意味の発明)‥「〇〇って、△△だ」
⑫似て非なる言葉を区分する(意味の解像度を上げる)
きっと、コミュニケーション・テクニックの話かと思って読んだら、全然違って、自分の言葉力を高めるための思いを磨くためのプロセスについての本でした。孫さんのプレゼンの本を読んだときに、プレゼン練習はしない。徹底的に考え抜いたら、質疑も応えられるし、伝えたいことは伝わるという話と重なるところがあり、結局は、どれだけ自分が考え抜いているかというところに至るんだなぁと改めて確認できました。