ガンジー 奉仕するリーダー(ケシャヴァン・ナイアー)
『ガンジー 奉仕するリーダー』(ケシャヴァン・ナイアー)(◯)
インド生まれの米国のコンサルタント。グロービスで学んだ企業家リーダーシップ(特に、ネルソン・マンデラの回)を思い出させる内容でした。リーダーシップ論の事例としてガンジーの生き方、考え方を用いて解説した内容で、ガンジーの考え方を学びながらリーダーシップ論、そして現代社会での活かし方を考えるきっかけになる一冊。内容、読みやすさ、ボリューム感ともレベルの高い一冊でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯ガンジーが求めていたもの
・一点の過ちもない完璧さではなく、裏表のない全一性だった。・ガンジー自身も当然過ちを犯したが、自分の過ちを認めることを恐れなかった。真実に関してはゆずらなかっったが、その他については臨機応変に対応した。
・ガンジーほど、私生活でも公の生活でも、たった一つの行動基準を守り抜こうとした人物はいないだろう。
リーダーシップをより高い基準に導く6つの基本的取り組み。
①ゆるぎない価値観を築き上げる
・ガンジーの基盤にあったのは間違いなく宗教的なものであった。根本をなす基本的な考えは、「自分自身に対するように他人に対せよ」。
・2つの絶対価値:1)真実、2)非暴力
・思考に真実がなくてはならないし、言論にも行動にも真実がなくてはならない。
・生活で守るべき2つの原則:1)肉体労働を行う、2)不可触民制度の撤廃
②理想を追求し、現実に向けて全力投球する
・ラスキンの書から得た3原則
1)個人の中にある善は全てのものの中に潜んでいる善である
2)あらゆる仕事は同じ価値を持っている
3)労働の生活は生きるに値する生活である
・理想を目指す旅路には終わりがない。それは、常に改善の余地があるから。理想があまりにも遠くに思えても、がっかりしてはいけない。その遠さは、自分の不完全さではなく、自分の潜在力を示すものだと思えば良い。
③理想を見失わないための羅針盤を持つ〜道義心を鍛える
・それは苦心して鍛えることで身につく資質、または状態。
・鍛えられた道義心を持っていないと、単一基準へ続く道かと見誤ってご都合主義の坂道に足を取られ、滑り落ちてしまいかねない。
・自分に問うことのできる質問のうち、最もシンプルな質問は、「私は自分がして欲しいように他人にしただろうか?」
④執着心を減らし、権力や特権に振り回されない
・ガンジーが最初に決意したのは、世俗的な所有物の全てを放棄すること(自主貧困)。
・自分の生活を簡素化し、生活の水準を下げた。家族と生活共同体に移った。洋服をやめてインドの衣類を身につけるようになり、さらに簡素化して腰巻だけとした。
⑤自分のすべてを明らかにし、隠し事を減らす
・秘密とは罪であり、暴力の兆しである。従って、なんとしても避けなくてはならない。
⑥勇気こそが、真のリーダーシップへの道
・道徳的な勇気は、自分のうちにある善と一体感を持つことから出てくる。その一体感が大きければ大きいほど、大きな勇気がこんこんと湧いてくる。何が正しいのかという自分の信念と自分自身が合一すれば、その正しいことを行う勇気が生まれる。
◯真のリーダーは、「奉仕の精神」から
リーダーシップの中核に奉仕を位置づけるための5ステップ
①自らの「責任」に焦点を合わせる
・ガンジーは不当な法に対しては非暴力と真実の抵抗を示し、投獄も厭わなかった。その結果、「自分についてきなさい」と他人に言える道徳的威信がガンジーに備わった。
②奉仕するリーダーシップの価値観を根付かせる
・個人の奉仕は、普遍的な奉仕となってはじめて、行うに値する奉仕となる。
③自ら最前線に立ち、身を以て奉仕に打ち込む
・1946年、ガンジーはインドの暴動に引き裂かれた地域に赴くため、政治権力の場から姿を消した。77歳の時である。行程は極めて過酷なものだった。1日15時間から18時間も活動し、60日間で116マイルを歩いて46の村々を訪れ、被害者を慰めた。
④相手が真に求めているものを理解する
・ガンジーは、自分が奉仕しようとする相手と同じ経験をすることで、自分の目で観察する以上のことを行った。ガンジーは、不可触民と一緒に生活し、不可触民の仕事を自分でも行った。ガンジーは貧しい村人に混ざって生活した。カルカッタに赴いて暴動を鎮めようとした時は、あばら屋でイスラム教徒と生活をともにした。
⑤権力と奉仕の調和をはかる
・ガンジーは、権力や富、才能と奉仕との調和をはかるために、「信託」という考え方を提案している。ガンジーは、人類のための信託者として生涯を送った。ガンジーの才能や権力、影響力はすべて、自分の利得のためではなく、人類のために用いられた。
◯決断と行動の基本原則を尊重する。
社会の指導者としての役割に、道徳的次元を組み入れるための4ステップ。
①統治(ガバナンス)の原則を打ち立てる
・3つの統治原則
1)決定と行動の評価に道徳的基準を含める
2)目的と手段が一体であることを理解する
3)個人を敬う
②決断の一貫性を追求する
・ガンジーの「すべての事実に直面しよう、対処しよう」とする態度をみれば、ガンジーが真に考えていたこと、つまり農民のために役立ちたいという気持ちがはっきりと伝わる。従って、農民も政府側も、ガンジーのプロセスが裏表のない全一的なものであることを信じることができた。
③意思決定の基準を変える
・「塩の道」。ガンジーがなぜ不服従運動の目玉として塩税を選んだのか。これは実際に素晴らしい選択であった。なんの技術もなくても誰でも、自分用に塩を精製することで抗議運動に参加できる。塩は政府が専売していたので、抗議活動を行ってもインド人のビジネスにはなんの打撃も与えない。それに塩は誰でも使うものであるから、この抗議活動は感情的にも訴える力があった。
・ガンジーは、インドの持つ最大の強みの一つ、その膨大な人口をうまく用いた。
④道徳上の原則を守って、実行に移す
・独立は立派な目的である。しかし、それを達成するためにどのような行動をとるにしろ、ガンジーの真実と非暴力の評価をパスしなくてはならなかった。ガンジーは、政治的に勝利を収めるために、道徳的原理を犠牲にすることはしなかった。
英国での弁護士資格の取得から南アフリカで22年間の生活、そして帰国後の独立運動。10回以上逮捕されても信念を貫き、「刑務所を満杯にすることで反インド人的法律が動議にもとることを明らかにしよう」と非暴力に加わるようにインド人に呼びかける行動力。自分を律する精神。自分の人生を生きたというより、インド国民の人生を生きたガンジーのリーダーシップ論は一読するに値すると思いました。