MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

武器になる哲学(山口周)

『武器になる哲学』(山口周)(◯)

 本書はビジネスパーソンが学ぶべき50の哲学・思想のエッセンスが凝縮された一冊です。哲学・思想を学ぶことは、①状況を正確に洞察する、②批判的思考のツボを学ぶ(Whatの問い、Whyの問い)、③アジェンダを定める(課題設定能力)、④二度と悲劇を起こさないために重要です。人、組織、社会、思考の観点からまとめられており、とても興味深い良書でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

ルサンチマンニーチェ

ルサンチマンとは、「弱い立場にあるものが、強者に対して抱く嫉妬、怨恨、憎悪、劣等感などのおり混ざった感情。

ルサンチマンを抱えた個人は、その状況を改善するために次の2つの反応を示す。

ルサンチマンの原因となる価値基準に隷属、服従する

 ルサンチマンを生み出せば生み出すほど、市場規模も拡大する。ラグジュアリーブランドや高級車は、毎年のようにコレクションや新車を出してくるが、これは「ルサンチマンを常に生み出すため」と考えてみるとわかりやすい。

ルサンチマンの原因となる価値判断を転倒させる

 ルサンチマンの原因となっている劣等感を、努力や挑戦によって解消しようとせずに、劣等感を感じる源となっている「強い他者」を否定する価値観を持ち出すことで自己肯定する、という考え方。

 

◯ペルソナ(ユング

・ペルソナとは、一人の人間がどのような姿を外に向かって示すかということに関する個人と社会的集合体の間の一種の妥協である。つまり、実際の自分の在りようを保護するために外向きに形成された「お面」ということ。

・恐ろしいのは、自分自身が「自分らしくない」言動をとるようになっていても、そのことに当の本人が全く気づかないこと。

 

アンガージュマンサルトル

実存主義というのは、「私はどのように生きるべきか?」という「Howの問い」を重視する立場。

アンガージュマン=エンゲージメント

・外側の現実は私たちの働きかけ(あるいは働きかけの欠如)によって「そのような現実」になっているわけだから、外側の現実というのは「私の一部」であり、私は「外側の一部」で両者は切って離すことができないということ。だからこそ、その現実を「自分ごと」として主体的に良いものにしようとする態度=アンガージュマンが重要になる。

 

◯認知的不協和(レオン・フェスティンガー)

・私たちは、「意思が行動を決める」と感じるが、実際の因果関係は逆。外部環境の影響によって行動が引き起こされ、そのあとに発言した行動に合致するように意思は、いわば遡求して形成される。つまり人間は、「合理的な生き物」なのではなく、後から「合理化する生き物」。

・周囲から影響を受け、考えが変わり、その結果として行動に変化が生じると私たちは信じている。人間は主体的な存在であり、意識が行動を司っているという自律的人間像。しかし、社会の圧力が行動を引き起こし、行動を正当化・合理化するために意識や感情を適応させるのが人間。

 

◯イドラ(フランシス・ベーコン

・「誤解」にはパターンがある。4つのイドラ(偶像)。

種族のイドラ(自然性質によるイドラ)

 錯覚のこと。

洞窟のイドラ(個人経験によるイドラ)

 独善のこと。

市場のイドラ(伝聞によるイドラ)

 噂や伝聞により真実だと信じて惑わされること。

劇場のイドラ(権威によるイドラ)

 高名な哲学者の主張など、権威や伝統を無批判に信じること。

・イドラについて知っておくことは2つ

①自分の主張の根拠となる認識が、4つのイドラのどれかによって歪められていないか?

②他者の意見に反論する際、主張の根拠のとなっている前提が、これら4つのイドラによって歪められていないか?

→人間の知性は、これらイドラによって一旦こうだと思い込むと、すべてのことを、それに合致するように作り上げてしまう性向を持つ。

 

 ご紹介はほんの一部ですが、どの観点も哲学としての考え方と、それが現代社会でどのように存在しているかという実社会の結びつきがイメージでき、今も昔も変わらない普遍の事象なのかなと感じることができます。

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