『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(入山章栄)(◯)
現在読書会を行っている『世界標準の経営理論』(約800ページ)の抜粋要約版のような本書。発売順では、本書⇨『世界標準の経営理論』ですが、私の場合は、本書が積読に眠ってたため、読む順番が逆になりました。結果、めちゃくちゃ読みやすい。詳細な『世界標準の経営理論』を読んでいるだけに、本書は頭の整理・復習用として最適でした。一般的には、時系列に本書から読み始めて、興味が湧いたら、『世界標準の経営理論』で深掘りするのがスタンダードだと思います。著者の文章はとても読みやすいと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯経営学への誤解
・厳密である、知的に新しい、役に立つという3つの目的を同時に達成するのはそもそも難しい。今後は、「役に立ちそうな経営法則を地道に厳密に検証する」ことを積み重ねるべき。
・経営学に答えや正解を求めるのは間違い。経営学をうまく使うには、答えそのものよりもあくまで、「思考の軸・ベンチマーク」として捉える。
◯ポーター とバーニー
・マイケル・ポーター のSCP戦略。代表的なフレームワークは「ポジショニング戦略」。「差別化戦略」と「コストリーダーシップ戦略」。
・ジェイ・バーニーのリソース・ベースと・ビュー(RBV)。企業の競争優位に重要なのは、製品・サービスのポジションではなく、企業の持つ経営資源(人材・技術など)にある。
・ポイントは、SCP VS RBVという前に、そもそも両戦略は適用範囲が限定的。実は両者を比較することに意味すらないのかもしれない。
◯3つの競争の型
①IO(産業組織)型
・産業構造が比較的安定した状態で、その構造要因が企業の収益性に大きく影響する業界。
・IO型競争をしている業界で有効な戦略は、ポーター のSCP戦略。
②チェンバレン型
・IO型よりも参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型。差別化しながら競争することが前提になるので、RBVが有効。
③シュンペーター型
・競争環境の不確実性の高さ。リアルオプション戦略で、とにかくまず、少額でもいいから投資をしたり、小ロットでもいいから製品・サービスを市場に出してみる。『リーン・スタートアップ』はリアルオプションに近い考え方。
◯両利きの経営
・「知の深化」と「知の探求」
・深化させることの方がはるかに効率が良い。他方で知の探索は手間やコストがかかる割に、収益には結びつくかどうかが不確実で敬遠されがち。
・知の深化への傾斜は、短期的な効率性という意味ではいいが、結果として知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが停滞する(コンピテンシー・トラップ)。
◯「チャラ男」と「根回しオヤジ」が最強コンビ
・企業・個人が新しい知を生み出すには、なるべく自分から離れた遠い知を幅広く探索し、それを自分が持つ知と組み合わせることが求められる(知の探索)。知の探索には、幅広い人々からの多様な情報が効率的に流れるネットワークにいる方が有利
⇨チャラ男(いろんなところに顔を出す、名刺コレクターなど)の方が有利。
・重要なのは、創造性に求められる要件と、創造性から実現への橋渡しの要件が全く逆であること。
・いざ創造的なアイデアを出したら、それを社内で売り込むため、むしろ強い人脈を多く持つことが求められる。
⇨根回しオヤジの方が有利
・この両者が組むと、アイデアの創出⇨実現がうまくいく。
◯組織の学習力を高める「タバコ部屋」
・組織の学習効果、パフォーマンスを高めるために大事なのは、「組織のメンバーが同じことを知っている」ことではなく、「組織のメンバーが「他のメンバーの誰が何を知っているのか」を知っておくこと」である。
◯ダイバーシティ経営
・ダイバーシティには2種類ある。
①タスク型の人材多様性(能力・経験など)
②デモグラフィー型の人材多様性(性別・国籍・年齢など)
・組織に重要なダイバーシティとはあくまで「タスク型の人材多様性」
・組織のメンバーにデモグラフィー上の違いがあると、同じデモグラフィーを持つメンバーとそうでないメンバーを「分類」する心理的な作用がどうしても働き、同じデモグラフィーを持つ人との交流だけが深まる。結果として「組織内グループ」ができがち。そして、いつの間にか組織内グループの間で軋轢が生まれ、組織全体のコミュニケーションが滞り、パフォーマンスの停滞を生む。
・「ダイバーシティ経営ブーム」のご時世で「女性・外国人が加わることがそのまま組織の活性化につながる」とか、ましてや「企業価値が上がる」と安直に考えるのはリスク。
本書も内容は濃いので、全部を紹介することはできませんが、特にダイバーシティのくだりは、安直に考えがちで、本当に危険だと思います。思考の軸を持つ大切さを感じます。