MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

新事業開発の戦略と組織(山田幸三)

『新事業開発の戦略と組織』(山田幸三)

 研修の課題図書で読んだ一冊。2000年発行の本書は、研修や授業の教科書というイメージがぴったりの内容で、企業が新事業開発をする際の進め方や組織の作り方がまとめられています。特に、ボトムアップ型の3Mの事例と、トップダウン型のヒューレット・パッカード(HP社)の比較は、経営理念や組織文化と整合性が取れていることの大切さを感じる対比であり、とても参考になりました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

ボトムアップ重視の事業開発(3Mの事例)

・3Mは、基本的には、スタートスモール・キルスモールの原則:小さく始めてダメなら早く撤退する)をもとに、できるだけ多くのプロジェクトに分散して投資し、実績が出なければ早めに止めさせるという戦略をとっている。

・3Mがアイデア重視の姿勢をとってきたと指摘すると同時に、ほとんでのアイデア;プロジェクトが採算に乗るとは期待していないことも率直に認めている。

・組織の底辺から生み出されるアイデアや技術を商品化して事業化できるシステムとして社内ベンチャー制度を構築している。

・3Mにおける新事業の展開は、①技術的なアイデアを豊富に生み出す研究開発組織、②自律性の高い小規模な事業部、③事業部単位の販売組織を基盤とする。

・技術者が自己の就業時間の15%までを自由に自らのアイデア実現のために使える「15%ポリシー」、新製品のアイデアを尊重する価値規範の「11番目の戒律」、過去4年間に開発され全く新しい製品が前売上高の30%を占めることが求められる厳格な新製品比率などのユニークな工夫によって、底辺から出てきたアイデアや技術の商品化、事業化に資するような技術シーズと顧客ニーズをうまく融合させる巧妙な仕組みを構築している。

 

トップダウン重視の事業開発(ヒューレットパッカード:HPの事例)

・HPは事業部の自立性が高く、大規模企業であるにもかかわらず、社内企業家の自主的なベンチャー活動にも寛大な企業であるとされている。

・HP の社風の特徴として、①エンジニアが小さいプロジェクトチームを作って、自らの夢の実現を図ることが許容される、②上司の命令に絶対服従するよりも、市場で好業績を収める方が信用を勝ち取れる、③技術管理職レベルにおびただしい数の新たなアイデアが支援できるスポンサーがいる、という3つの特徴を挙げている。

・トップ主導によって戦略的に事業展開したことが特徴。創業者2名は、共に社長就任直後に新たな経営ビジョンと事業の方向性を明確に打ち出し、戦略主導で新事業を推進していく。それぞれの新たな経営ビジョンのもとで、トップとしての主導性を発揮し、社内資源重視であった組織の改革や新たな顧客を対象とする市場への進出を実行した。

・自社技術を重視する風土のもとで、外部化からの技術の導入を決断することはそれほど容易ではない。プリンター事業の成功の基礎にも、他社の技術を導入して事業開発を進めるというトップ主導の戦略的な方向づけを見出せる。

・HPの新事業開発は、トップを中核とした戦略主導による事業開発であると同時に、新事業の基礎となる風土づくりを長期間継続していることも特徴であると言える。

 

 自社で新事業開発を進めるなら、どのようなやり方で進めると良いのか、自社の企業文化やリソースの中で悩むところですが、正解というものはなく、より長い目で見たときに、いかに業務に組み込めるか、言い換えれば、自然と新事業開発ができるような環境をどのように作るかという点を考えること。企業は永続していくものと考えれば、単発で終わらないような仕組みづくりをいかに作り上げていくかという、俯瞰かつ長期的目線で考える訓練にもなると思います。