MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

乱談のセレンディピティ(外山滋比古)

『乱談のセレンディピティ』(外山滋比古

 思いがけない発見、偶然の結びつき・・・「セレンディピティ」を起こす可能性を高めることはできるのか。前作に『乱読のセレンディピティ』という著書があるのですが、著者は、「乱読」、つまり読書では自分の枠を超えられないとし、「三人寄れば文殊の知恵」である対話の中からセレンディピティを起こすことができるのではないかという点から本書はまとめられています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯乱談

・乱読は一人でできる。乱談は一人ではできないし、二人でも難しい。三人よれば辛うじてできるが、なお不足。四、五人くらい仲間がほしい。

・乱談は筋が通っていては窮屈である。話が入り乱れて、収集がつかないのがおもしろい。

・同じようなことをし、似たことを考えている人たちだけでは、行儀が良くて、うまく乱れることが難しい。

 

◯乱読のセレンディピティ

・精読は、創造とか発見につながらない。多くの本を読めば読むほど知識は増えるけれど、その知識に縛られて、頭が自由に働かなくなってしまう。

・創造力、発見のできる頭を作るには、でたら目の読書が役に立つ。手当たり次第、読んでみる。

・乱読では、まとまった知識を得るのは難しい。専門家になることはできない。研究者にもなれないだろう。その代わり、本に書いていないことを考え出すことはできる。一般に嫌われる乱読の隠れた力である。

 

◯月光会

・専門の違う人たちが、思ったこと、考えたことを自由に述べ合うというのは、実際には、ほとんど考えられない。

・大学の学科の談話室などでおもしろい話の聞かれることがないのも、していることが同じようなものだからである。互いに警戒している。本音を口にすることは憚られるから、差し障りのない、世間話でお互いを騙し合っているのである。

 

文殊の知恵

・一人ではいけない。二人でも足りない。それが三人になると、知恵が出る。一人だけなら独り言。知的な独り言はあまりない。二人の対話は言葉の交換に終わりやすく、新しいものが生まれることはない。

・三人の話し合いは、新しい力が生まれる。相手が二人いる。それぞれが反応するから言葉が重層的になる。混乱するが、エネルギーをはらんだ混乱で、めいめいに強い印象を与える。おもしろい談話が生まれる。そのおもしろさは、本を読んで得られる満足感、気持ちの良い対話をした後の爽快感と違った生産的エネルギーを内蔵する。うまく引き出せば文殊の知恵である。

・一人の考えは、いわば点である。二人の話し合いは線と面を作ることができるが平面的であるのは是非もない。三人寄れば、立体的コミュニケーションが可能になって、点的思考や平面的思考では及びもつかない複雑、混然の豊かさを捉えることが可能になる。

 

◯専門を超える

・”独学”には限界がある。過去のことを知るには、本を読むのが最も有効である。しかし、読書は、後ろ向きの頭を作りやすい。本を読めば読むほど、人の考えを借りてものを考えるようになる。

・余計なことは考えず、ただ、浮世離れたことを話し合っていると、本を読んでいる時とは全く違った知的刺激を受ける。もともと人間はそうなっているのであろう。そういう”おしゃべり”で賢くなり、未知を拓いてきたのである。

 

  本書は乱談がテーマですが、もう一つのテーマ、「乱読」はどうか。私がなぜいろいろな本に手を出して読んでるのか。両利きの経営である、「知の探求」と「知の深化」のうち、幅を広げる「知の探求」をしていくためなのですが、その先の目的は、この「セレンディピティ」が起こせるかどうか。すなわち、全く関係ないと自分が認識していた認知の偏りを是正して、自分の中で新しいモノを生み出したり、自分の発想を豊かにしていくことです。そうすることで、単純に生み出せるモノの幅が広がるだけでなく、俯瞰目線が養われ、対応力が柔軟になる、相手の気持ちが理解しやすい、そして、そんなふうに自分が変化していくと、その先には心穏やかでいられる時間が増え、幸福感が増していきます。

 「意図的にセレンディピティを起こす行動」を生活習慣に取り込むことは、豊かな人生につながる必要な取り組みだと、本書を読んで改めて感じました。

f:id:mbabooks:20200814062556j:plain