MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

『一倉定の社長学シリーズ④」<新事業・新商品開発>』(一倉定)

一倉定の社長学シリーズ④」<新事業・新商品開発>』(一倉定)(◯)

 著者(1918−1999)は、経営指導歴35年、我が国の経営コンサルタントの第一人者で、大中小約5,000社を指導。本書は、著者の社長学シリーズ(10冊)の第四弾「新事業・新商品開発」がテーマ。昭和53年の作品です。

 新事業・新商品という魅力的な言葉と、実際には失敗が非常に多い現実。数多くの現場体験を通じ、新事業や新商品の盲点を明らかにし、開発のための正しい態度や考え方、進め方を総合的に解説し、良き手引書となることを目指して書かれたのが本書です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯未来を築く

・我が社の将来の収益を得るための商品を、まだ現在の商品の収益力があるうちに開発しておかなければならない。これを怠って、商品が収益力を失ってしまってから、慌てて考えても間に合わない。どんな商品でも開発には少なくとも3年くらいはかかる。5年、10年かかる商品さえあるのだ。

 

◯不用意な新商品・新事業を戒める

・世の社長族は、新技術を開発することには熱心だが、「これをどうして売るか、どう事業化するか」ということを考えている社長は極めて少ない。どうも新技術開発、即ち新事業開発と思い込んでいるらしい。

・「下請加工業は一貫生産してはいけない」。一貫生産というのは、自社商品を持っている会社の話。自社商品なればこそ、一貫生産のメリットを得ることができる。いつ引き上げられるかわからない下請加工に、一貫生産など危険極まるものなのであって、絶対にやってはいけないこと。

 

◯やってはいけない事業を知る

・事業存続のためには、市場占有率の最低10%は必要。

・新商品や新事業を始めようとしたら、何をおいても市場の大きさ(総需要)を調べなければならない。

・総需要を推定したら、その10%を考えてみる。これが我が社の力から見て難しければ、力がつくまで見合わせるべき。反対に、10%が我が社の規模に比較して、ごく僅かならば、これまたやっても意味がない。その絶対額は知れたものだから。

 

◯マーケットこそすべて

・職人経営の恐ろしさは、市場の変化も顧客の要求も眼中にはなく、ひたすら能率・コスト・品質だけを追い続けること。能率主義を捨て、顧客主義に徹することこそ、企業存続の基本条件。

・新商品は「それを誰が買うか」を一番先に考える。顧客と思われるところに現物見本を持っていき、売れるかどうかを確かめてから、新設備なり新会社なりをたてる。まだ売れるか売れないか分かりもしないうちから、製造することを考えてはいけない。

・アイデアは結構である。しかし思いついたら事業化を考える前に、まず試作し、人々に試用してもらって、商品としての価値があるかどうかを確かめることから始めなくてはならない。

・「ブレーンストーミングによって新商品を生み出せる」と思うのは誤り。これは商品というものの本質を全く知らない人の言うことでしかない。商品というものは、顧客の要求から出発し、この要求を満たすものでなければならない。ブレーンストーミングから生み出される新商品のアイデアは、アイデアというよりは、単なる「思いつき」がその本質。

 

◯新商品開発にあたって

・商品というものは、品質と性能が絶対条件と考えなければいけない。コストは次の問題である。だから試作品ではまずコストを考えずに、考えられる最高の品質を追求するのが正しい態度。そして期待した品質が得られた後に、今度はコスト低減に取り組む。そのコスト低減も、あくまでも「品質を落とさない」ということを大前提にしなければならない。

・新商品開発の成功は、社長の優れた手腕と情熱があるから。それには時間と費用と忍耐を必要とする。それを決意し、やり遂げることができるかどうかは、一にも二にも社長にかかっている。

・ウィーナーのサイバネティックスの理論は、「結果は情報量に比例する」というもの。これは企業経営にそのまま当てはまる理論。企業の業績は社長の外部活動に比例する。世の社長たるもの、外部情報の重要性を深く認識してこれの収集に大きな関心と努力を傾けてもらいたいもの。

 

◯新商品開発体制

・未来事業と現事業を同一部門や同一人にやらせたら、未来事業などいつまで経っても進まない。未来事業は、それが新商品の開発であれ、販売促進であれ、マーケットの開拓であれ、現事業と完全に分離しなければならない。現事業と未来事業を兼任させるくらいなら、むしろ未来事業などという綺麗事はやめた方が良い。人がいないというなら、社長自らこれに取り組むべき。

・未来事業部門は、必ず社長直轄でなければならない。事業部制で事業部長に利益責任を負わせている限り、現在の収益を優先するから。

 

◯新技術を効果的に事業化する

・世の社長族の大部分は「たくさん出るものを扱いたい」という願望を持っている。「たくさん売りたい」からではあるが、この考え方の間違いは「マーケットが大きいと我が社の売上も大きい」という単純な図式を持っていること。確かにたくさん売れる可能性はある。しかし、問題は売上の絶対数ではなくて「占有率」にある。中小企業の生きる道は、小さなマーケットで大きな占有率を占めるところにある。当然のこととして、高級品となる。これが賢いやり方である。

 

 本書は、一冊13,000円(税別)しますが、発行元の日本経営合理化協会に登録(無料)すれば、同協会のホームページで一冊11,000円(税別)で購入することができます。高額な書籍ですが、非常に参考になるので、10冊読破に向けて読む進めています。著者が気になる方は、まずは復刻版三部作から入っても良いと思います(こちらは、各1,980円)。