MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

一倉定の社長学シリーズ⑤<増収増益戦略>

一倉定の社長学シリーズ⑤』<増収増益戦略>(◯)

 著者(1918−1999)は、経営指導歴35年、我が国の経営コンサルタントの第一人者で、大中小約5,000社を指導。本書は、著者の社長学シリーズ(10冊)の第五弾「増収増益戦略」がテーマ。昭和54年の作品です。

 原価計算について、全部原価計算(本社等の固定費を売上等に応じて各事業部に配賦する方式)では儲かるか否かの計算を誤っており、真に必要な数字を自らに必要性に応じて使っていかないといけない。そこで、直接原価計算として、売上ー変動費限界利益限界利益ー固定費=利益という観点から計算する。

 長らく金融機関に勤務し、数多くの事業計画を拝見し、未来について経営者と議論してきた経験からすれば、至極当たり前の考え方ですが、どうも現実の世の中は違うようで、著者のシリーズの中では、特に熱いメッセージが読み取れる一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

損益分岐点

損益分岐点=固定費÷(1ー変動費比率=限界利益率)

・単位あたりの原価計算は予め計算できないことを知らなければならない。

変動費とは、売上の増減に比例して増減する費用であり、固定費とは、売上の増減に関係なく、期間に比例して発生する費用である。

 

◯生産性

・生産性=成果に対する費用の割合

・生産性=成果÷費用=付加価値÷内部費用=算出高(アウトプット)÷投入高(インプット)

・成果=売上ー外部価値(外部仕入れ)

・生産性を高めるには、①分子を大きくする、②分母を小さくするの2つ。ところが、従来のマネジメントや会計学の考え方は、すべて「分母を小さくする」ことに関心の焦点を合わせている。分母を小さくすることは、いつかは行き詰まってしまう。

・生産性向上の「決め手」は、分子を大きくすることにある。これには上限はない。次元の低い能率と、合理化と、原価は社員に任せて、次元の高い収益性に取り組むのが社長の役割。

・賃金と合理化と原価は、すべて企業の内部にある。しかし、収益は企業の内部にはない。企業の収益は外部にしかない。

 

◯時間あたり収益性

・損益分岐賃率=単位期間の一切の固定費÷(単位期間の直接工の総工数×出勤率×操業度)

・必要賃率=(単位期間の一切の固定費+必要利益)÷(単位期間の直接工の総工数×出勤率×操業度)

・実際賃率=特定期間(または商品)の付加価値の実績÷特定期間(または商品)に投入された直接工の総工数実績

・賃率とは、直接工の生み出す単位時間あたりの付加価値。

 

◯商品価格の決定

・基礎計算に基づいて、いろいろな条件を組み合わせて価格を決定するために必要なことを考えてみると、主なものは以下の通り。

①商品の機能

②顧客のメリット

③市場価格

④競合商品の状況

⑤流通マージン

⑥その他

 

◯収益性の分析

・自らの事業経営に必要な情報を手に入れるために部門別に分けるのであって、部門別の責任体制を作り上げるためにやることではない。決して部門の責任者を追求してはならない。会社の中でうまくいかないことは、何もかも社長の責任。

・本社費の割かけ(配賦)で大切なこと。それは、必ず事前割り掛けでなくてはならない。「売上高に比例させる」とは、一見妥当な方法に見えるけれども、これが現実には数々のトラブルのもとになる。この方法だと、売上高を上げると割掛金が大きくなり、売上高が少ないと割掛金も少ないのである。こうした割掛けを受けた部門では面白くないのは当然。一生懸命になって売上を上げれば上げるほど、割掛金が大きくなる。売上が少ない部門は、少なくなればなるほど割掛金も少なくなる。こんな不合理はないという。つまり、一生懸命働いて会社に貢献すると、割掛金という罰金が多くなる。反対に売上を落として会社に対する貢献度が少なくなると、割掛金を減らすという実質上の報奨金が出るのである。

 

 上記のほか、固定費の管理、増し分計算について、我が社の実態の捉え方、マーケティング分析、危険度分析など、興味深いテーマが目白押し。いずれも事例や実際の数値の計算を通じて、どのように考えれば良いのかが具体的に紹介されています。

 本書は、一冊13,000円(税別)しますが、発行元の日本経営合理化協会に登録(無料)すれば、同協会のホームページで一冊11,000円(税別)で購入することができます。高額な書籍ですが、非常に参考になるので、10冊読破に向けて、現在4冊目が終了するあたりを読んでいます。著者が気になる方は、まずは復刻版三部作から入っても良いと思います(こちらは、各1,980円)。