MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

一倉定の社長学シリーズ③<販売戦略・市場戦略>(一倉定)

一倉定の社長学シリーズ③<販売戦略・市場戦略>』(一倉定)(◯)

 著者(1918−1999)は、経営指導歴35年、我が国の経営コンサルタントの第一人者で、大中小約5,000社を指導。本書は、著者の社長学シリーズ(10冊)の第三弾「販売戦略・市場戦略」がテーマ。昭和52年の作品です。

 著者がコンサルタントに関わった企業に見られる、販売に関する認識不足は大きく3つ。①販売は営業でやるものという営業部門依存型、②世の中は我が社を中心に回っているという「天動説」(例:代理店は契約しているのだから当然我が社の商品を売ってくれるはずだという思い込み)、③市場競争は占有率競争だということが分かっていない。

 本書では、この3つの誤りを指摘しながら、正しい販売戦略は何かということがまとめられています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯天動説

・販売というものは、他社に任せるものではなくて、自らがドロドロになって売るもの。

・天動説をとっている会社では、根本的に誤った2つの考え方を持っている。

①流通業者は我が社に忠誠を誓っている。

②消費者は我が社の商品に絶大な支援を惜しまない。

 

◯占有率

・中小企業の行く道は、小さな市場で大きな占有率を占めるところにあり、これでこそ高収益が期待できる。この場合でも、販売力が物をいうことには全く変わりない。ただ市場が小さいだけに、効果的な販売網を作りやすい。

 

マーケティングとは

・変転する市場と顧客の要求を見極めて、これに合わせて我が社を作り替えることこそ、事業経営。

・顧客の要求とは何であるかをつかむこと。顧客の要求を満たすために、我が社はどうしなければならないか、何を捨て、何を築いてゆかねばならないか。

・その質問に答えるために必要な基本理念。

①真の顧客は誰なのか

②顧客は何を買うのか

③顧客はどういう買い方をするのか

④顧客の好みはどう変わってゆくのか

⑤顧客は何に不満を持っているのか

⑥販売もうとそのチャネルはいいか

⑦販売促進活動は妥当か

 

◯価格政策

・あなた方の会社は、いくらの工賃を稼いだらやっていけるのか。それは賃率(チャージ)〜単位時間あたりの加工高〜にしていくらになるのか。まず計算し、それを実現するには、どうしたら良いかを徹底的に考え、明確な方針を持たなければならない。

・まず1ヶ月あたりの人件費(含賞与)、経費、減価償却費、営業外収益と費用の見積もりを出し、これらの合計額に必要利益を加えた、これが必要加工高である。これを実質の総工数で割って、一人一時間あたりの必要加工高を算出した。これが必要賃率である。損益分岐賃率は、必要加工高から必要利益を引いたものを総工数で割ればいい。

 

◯販売網の整備

・一番先は基礎固め。そして、手近なところ、多くの場合には地元から始め、経費を生かしながら確実に進めなければならない。忘れてはならないのは、市場原理「占有率」である。一口に言えば、地域占有率を確保しこれを広げていくこと。

・間違い方は大別して2種類。①大問屋を狙う、②きめの細かい問屋網を作ること。

・問屋に我が社の商品を売ってもらいたいなら我が社自身の販売努力で、問屋の売上の1%を突破することが第一。この「1%の原理」を下回ると、問屋にとっては魅力のない商品だから、あまり力を入れない、となる。

・スクラップ・ダウンのスピードと業績向上のスピードは比例する。

 

◯販売促進(クレーム対策)

・クレームが発生した時に、責任者を叱ってはならない。クレームを叱ったら、社員は社長に対してクレームを報告せずに、自分たちだけで揉み消そうとするようになる。

・誰しもわざわざクレームがつくように仕事をしているわけではない。みんな一生懸命やっているのだ。叱ることはやめるべきである。大切なことはクレームを叱ることではなくて、クレームを解決することであり、クレームによる我が社の信用低下を防ぐこと。

・お客様のクレームは直ちに報告せよ。クレーム自体の責任は追及しないが、クレームを報告しなかったことに対しては責任を取らせるし、指示されたクレーム対策を直ちに取らない場合の責任は追及するという指導こそ本当。

 

◯蛇口作戦(問屋への対応の仕方)

・問屋に払うマージンは、高速道路の通行料金と同じ性質。高速道路通行料というのは「道路利用料」である。だから、利用料を払ったからといって高速道路公団の職員が自動車を運転してはくれない。問屋にマージンを払ったとて、それは販売網利用料であっても、販売手数料ではない。問屋が販売してくれるはずがない。我が社の商品の販売は自ら行わなければならない。このことが理解できないのは「天動説」にとらわれているから。

・代理店に販売網利用料を払い、その販売網を利用して自ら売る、という態度こそ本当。小売店の売上増大こそ、販売促進。販売促進とは、小売店の数を増やすことではなくて、販売金額または販売数量を増やすこと。蛇口から流れ出る油の量を多くする効率的な方法は、蛇口を大きくすることと、蛇口を開いている時間を多くすること。そのためには、小売店に対して販売促進をかけること。この蛇口作戦をさらに進めると、直接消費者に働きかけることになる。心の販売促進は、ここまで徹底しなければならない。

 

 上記以外のテーマとして、販売体制の整備、市場戦略、占有率の原理(ランチェスター理論)など、興味深く、実践的なテーマが取り上げられています。事例も豊富です(これがとても価値があります)。

 本書は、一冊13,000円(税別)しますが、発行元の日本経営合理化協会に登録(無料)すれば、同協会のホームページで一冊11,000円(税別)で購入することができます。高額な書籍ですが、非常に参考になるので、10冊読破に向けて、現在4冊目が終了するあたりを読んでいます。著者が気になる方は、まずは復刻版三部作から入っても良いと思います(こちらは、各1,980円)。