MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ファイナンスの哲学(堀内勉)

ファイナンスの哲学』(堀内勉)

 本書は人間の人間的な側面とファイナンスを繋ぎ合わせうとうと試みた一冊。

 第一章では「財務諸表の理解」「資金調達の種類と方法」「投資と企業価値」。

 第二章では、10大概念として、「お金」「信用」「倫理・信頼」「利子」「利益」「価値」「市場」「成長・進歩」「時間」「資本・資本主義」について。

 最後に人間社会の思想、哲学の知見を踏まえてファイナンスが語られています。

 ファイナンス=難しそうという概念をできるだけとっつきやすくする取り組みを、表現の易しさや初級編のようにレベルを落とすという切り口ではなく、無機質な数字と人間を結びつけることでより興味深く読んでもらおうと試みられています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

ファイナンスと資本主義を本質的に理解するための10大概念

①お金

・日本人はとかくお金を忌むべきものだと捉えがちだが、元来、土地や地域社会に縛りつけられてきた人間が、お金におyって移動の自由や職業選択の自由を得たというプラスの側面も忘れてはならない。

・お金に使われることなく、お金をうまく使う人生を取り戻すことができるか、そこに我々の未来がかかっている。

②信用

・元来、貸したお金が返ってくると信用するということは、まだ見ぬ不確かな未来の存在を信じているからに他ならない。なぜ人は、目に見えないものを信じることができるのか。

③倫理/信頼

・「信頼」の基礎にあるは、職業人としての「倫理」である。

・経済学者の岩井克人は、企業のガバナンスの問題を研究する中で、英米法の「信託」から派生した「信任関係」という概念に行き当たり、これが企業統治の問題に対する一つの答えになるのではないかと考えている。

・これに対して、職業人としての倫理の観点よりは、性悪説に立って信賞必罰の観点から企業統治の問題を捉えるのが、昨今の世界的傾向であり「ガバナンスコード」の制定にもつながっている。

④利子

ファイナンス理論で言えば、利子は「貨幣の時間的価値と信用リスクの対価」であるが、なぜお金の貸し借りに利子がつくのかというのは、歴史的にはそれほど自明のことではなかった。

⑤利益

・商売をして利益を上げるというのは当然の営みであり、企業財務における利益とは「収益から費用をさしい引いたもの」に他ならない。しかし、市場が等価交換の場だとすれば、この利益は一体どこからくるのだろうか。

⑥価値

・価値という観点から、合理性には「価値合理性」と「目的合理性」の2つがあるが、資本主義という社会システムが回り始めると、「何のために?」という「価値合理性」が見失われ、「どうしたら?」という「目的合理性」が社会を覆してしまった。

ファイナンス理論的には、企業が生み出す付加価値の補足の方法は、さまざまに変遷してきている。また、企業だけでなく、国レベルのGDP国内総生産)においても、必要な価値を全て網羅しているのかという疑念が投げかけられている。

⑦市場

・市場の存在は、経済活動を円滑に回すための前提。金融市場におけるインサイダー取引などへの規制は、市場の公平性・透明性を担保し、市場の価格形成機能を維持しようとする仕組みである。

・資本主義は市場の存在を前提に発展してきたが、他方で独占の進行によって市場原理を歪めるという、二律背反的な側面を持っている。したがって、資本主義の先鋭化したものが独占であり、またいわゆる市場原理主義であるという矛盾した状況にある。

⑧成長/進歩

・資本主義の無限循環運動は、人間が本来持っている「成長」の意欲と密接に関わっていると考えられる。この成長意欲から、自然人における質的な成長という要素を取り去ったものが、法人(企業)の求める量的な成長の形ではないか。

⑨時間

ファイナンスや資本主義の根底には、重要な要素として「時間」の概念がある。則、同じ金額を手に入れるにしても、短時間で実現する方が価値があり、遠い将来に実現するものよりも、近い将来の方が価値が高い。

⑩資本主義

近代経済学における資本とは、土地、労働と並ぶ生産3要素の1つである。ピケティの『21世紀の資本』では、長期的には、資本収益率は経済成長率よりも大きく、資本家への富の集中が起こり、その富が公平に分配されないことによって格差が拡大し、社会や経済が不安定化するとされている。

 

 会計(アカウンティング)は馴染みがあっても、ファイナンスは縁遠い。ファイナンスは、投資家やCFO最高財務責任者)など企業価値を意識する一部の人のための難しい学問というイメージがあるかと思います。

 しかし、例えば個人レベルでライフプランを考えたときに、収入・支出・貯蓄のバランスをどう取るか、お金の運用をどうするか?など意外にファイナンス領域は身近なテーマでもあります。ファイナンス的感覚を知っているか知らないかで、時間に対する価値観も変わってくるのではないでしょうか。ファイナンスから縁遠い方ほど、学問というよりは人生にどう生かすかという観点でファイナンスをとらえてみてはいかがでしょうか。