『私たちはどこまで資本主義に従うのか』(ヘンリー・ミンツバーグ)
社会主義に勝利したと言われる資本主義だが多くの国で民間セクターの力が過度に強まりバランスを失っている。この状況に対して、重要な役割が期待されるのが、NGO、社会運動、社会事業などから構成される多元セクター。政府セクター、民間セクター、多元セクターの三本の脚に支えられたバランスの良い社会を提言する一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇共産主義に勝利した資本主義
・共産主義体制は極度にバランスを欠いていた。しかし、資本主義はその後極端に民間セクターの力が強まり過ぎている。市場の「見えざる手」は、議会を牛耳る「目に見える鉤爪」に取って代わられた。米国は救いようもなく誤った利己主義に蹂躙されている。
・企業が自由に行動できる経済が、企業が自由に行動できる社会に変容したとき、自由を失うのは市民。
・資本主義とは、モノとサービスを提供するための民間企業の設立と資金調達を可能にする仕組みを表現する言葉だった。それが、人間が目指すべき最大の目的であるかのように考えられるようになった。
・1952年には税収の32%を企業が納めていたが、2010年には9%に減っている。自由企業称しながら政府の補助金をむしり取ろうとしたり、莫大なロビー活動により特権的な地位を強化したりする企業。今日の米国は、大企業に「代表あって課税なし」が認められている。
〇左右の対立が生み出したもの
・共産主義の害が明らかになったという理由で、資本主義が好ましいことになる訳ではない。極端な教条主義に陥れば、共産主義も資本主義も、いずれも救いようのない欠陥を露呈する。
・ほとんどの有権者は、あらゆる問題を左か右か、白か黒かに単純して見ている。
・左右両極端を行き来する政治もいらないし、妥協による中道政治もいらない。いずれもアンバランスな状態を強化する。今必要なのは、政治に対する見方を根本から変えること。
〇3つのセクター
①政府セクター:国民に尊敬される政府に土台を置く。
②民間セクター:責任ある企業を基盤とする。
③多元セクター:強力なコミュニティを舞台に形成される。
・多元セクターが政府セクターおよび民間セクターと対等の地位を占めれば、社会がバランスを維持するために貢献できるだけでなく、いま絶望的に欠如しているバランスを取り戻すプロセスを主導できる。
〇多元セクター
・多元セクターを構成するのは、政府や投資家によって所有されていないすべての団体。法人格を持っているような正式な組織もあれば、そうでない団体もある。協同組合、非政府組織(NGO)、労働組合、宗教団体、大学、病院、社会運動、社会事業など。
・3つのセクターすべてが適切な役割を果たせば、「融通がきかない」「あさましい」「閉ざされている」状態に陥ることは避けられる。それぞれがほかの2つのセクターと協力しつつ、ほかの2つのセクターを抑制することが必要。
〇バランスのとれた民主主義へ
・「収奪的資本主義⇔排他的ポピュリズム⇔国家独裁」のサイクルから、「責任ある企業⇔多元的な包含⇔市民参加型の民主主義」のサイクルへ。
・成長のための成長を追求する量的発想から質的発想への転換。深い学びを可能にする教育、人間味のある医療、健康的な食生活など、特に重要な要素の「質」を基準に考えるようにしてはどうか。
・目先の利益追求から、多くの新規雇用を生んでいる営利企業や社会事業のための中規模な資金調達にももっと注目が集まってもよいのではないか。
・大きすぎて潰せないという免罪は正しいことか。
・知的財産権が過度に幅を利かせる状態には終止符を打ったほうが良いのではないか。
・水面下のロビー活動の問題点が認識されるようにすべき。
感じていても言いにくいことについて、あえてズバッと切り込んだ、著者らしい内容だと思いました。一旦崩れたバランスを戻していくのは、相当難しく、極端に行きついて、多くの人が切羽詰らないと動かないのかもしれません。そうなる前に、バランスが修正されていくような理想的なことができるのだろうか。将来にツケをまわさないためにも考えるべきテーマだと思いました。
私たちはどこまで資本主義に従うのか―――市場経済には「第3の柱」が必要である | ヘンリー・ミンツバーグ, 池村 千秋 | 本 | Amazon.co.jp