MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

帝王学 「貞観政要」の読み方(山本七平)

 『帝王学貞観政要」の読み方』(山本七平)(〇)

 平安時代からリーダー学の教科書として、北条、足利、徳川氏らに読み継がれた、『貞観政要』は、唐の基礎を確立し、24年間帝位にあった太宗について書かれた書物です。

 「草業(創業)と守文(維持)といずれが難きや」という問い。政子や家康のように一種の危機感を持って守文を考えるかどうか、権力を持ったとき暴君になり得るかもしれないという自覚をもって自らを制御できるかどうか、諌議大夫を置いてその言葉に謙虚に耳を傾けられるか。

 そんなトップリーダーの心の持ち方について、書かれた『貞観政要』を解説したのが本書です。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇何かの権限を持つと人間はどうしても情報遮断の状態になるか、自ら不知不識のうちにこの状態を招来して、一方向の情報しか来なくなってしまう。これが滅亡、失敗、失脚の第一歩。

 「兼聴」:多くの人の率直な意見に耳を傾け、そこからこれはと思う意見を採用すること。多人数であってもイエスマンだけならそれは「偏信」にすぎない。名君になるか暗君になるかは、リーダーの心構え次第。

 

〇能力・才能がなければ抜擢してはならない。一族や大功のあった元勲は礼遇と秩禄だけで優遇すべき。高齢を愚鈍になったものは隠居させて、賢者登用の道を塞がせない。

 官吏は少ないほど良い(定員法を制定)。才能がある者には少ない官を兼任させ、どうしても才能がある者が見つからない場合は、欠員にしておいたほうがむしろ害がない。

 

〇世の中にはあらゆる問題があり、それが千変万化する。それに応じてこちらも変化すべき。そこで権限移譲して、多くの部下に討論・協議させ、宰相に対策を立てさせる。自分一人ですべては決裁できない。ただし、例え決裁して詔勅を出した後でも、万が一、穏便でないものがあったら必ずその意見を申し述べるべき。

 

〇人の意見は一致しないのが普通。互いに相手の面目を潰しては気の毒だと思って、明らかに非があると知っても正さず、そのまま実施に移す者がいる。一役人の感情を害すことを嫌がって、たちまち万民の弊害を招く。これこそ、亡国の政治。

 

〇その国を興隆に導いた要因が裏目に出ると、それがそのままその国を亡ぼす要因となる。日本の場合は、「和」(塩野七生氏)。

 

〇太宗のように意見をずばずば言わす方針を取っていても、時とともに部下はだんだん言わなくなる。無事平穏となると、その平穏な状態を乱したくないから、相手を怒らせそうなこと、気分を悪くしそうなことなどは、反射的に避けてしまう。帝王は孤独である。

 

〇人材を見極める基本(正しい意見、直言する部下を集める)

 ・一定の地位にある者は、人材登用・抜擢の仕方でその人を見る

 ・富んでいる者は、その財の使い方、人への与え方でその人を見る

 ・余暇では何を好んで行うかを見る

 ・学んでいれば、その言う意見を見る

 ・困窮しているなら、そうなっても何を受けないかを見る

 ・卑賤のひとなら、その人が何をしないかを見る

⇒それらを見たうえで、その能力をよく調べて任用し、短所をかばい、長所を用いる。

 

 本書を読んで感じたことは、トップとトップに準ずる経営陣とは、明らかに一線を画した立場にあり、自ずと考えるべきことが異なってくるということ。

 次に、草業(創業)の時から守文(維持)の時へ移っていく中で、知らず知らずに平穏の中に危機のきっかけが生まれてくるため、人の心を戒め、安穏とさせない舵取りが必要になってくるということ。

 例えトップの立場になくとも、特に平穏だと感じているときこそ、そうした観点を持って自らの任にあたることが必要だと思いました。

帝王学―「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

帝王学―「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

 

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