MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

自省録(マルクス・アウレーリウス、訳:神谷美恵子)

『自省録』(マルクス・アウレーリウス、訳:神谷美恵子)(◯)

 古典の中でも名著と言われている本書。哲人であり、第16代ローマ皇帝である著者(121年〜180年)は、五賢帝の一人として統治の手腕についても高く評価されています。そんな著者がタイトルの通り、内省を通じて書物にまとめたのが本書です。少しトーンは違いますが、中国唐の第2代皇帝太宗と側近の対話録である『貞観政要』が思い出させるリーダーのための在り方本と言っても良いと思います。私にとっては、一度で読み解くには難しいところもありましたが、それでも心に響く、印象に残るところも多い一冊でした。特に、第1巻の他者から学ぶ姿勢は、「我以外皆我師」という言葉を思い出す、素晴らしい姿勢だなと思いました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯第1巻

・祖父ウェールスからは、清廉と温和(を教えられた)。

⇨この後、父、母、曽祖父、家庭教師・・・と17人から学んだことが順に紹介されていきますが、いつくか私の印象に残ったところを!

・ルスティクス(162年の執政官)からは、自分の性質を匡正し訓練する必要のあるのを自覚したこと。詭弁術に熱中して横道にそれぬこと。理論的な題目に関する論文を書かぬこと。けちなお説教をしたり、道に精進する人間、善行に励む人間として人の眼をみはらせるようなポーズをとらぬこと。修辞学や詩や美辞麗句をしりぞけること。家の中を長衣(トガ)姿で歩きまわったり、その他同様なことをしないこと。手紙を簡単に書くこと。たとえば彼がシヌエッサから私の母に宛ててかいた文面のごとし。また腹を立てて自分に無礼を加えた人々に対しては和解的な態度を取り、彼らが元へ戻ろうとするときには即座に寛大にしてやること。注意深くものを読み、ざっと全体を概観するだけで満足せぬこと。饒舌家たちにおいそれと同意せぬこと。エピクテートの書きものを知ったこと。この本を彼は自分の書庫から出してきてくれたのであった。

プラトーン学派のアレクサンドロスからは「私は暇がない」ということをしげしげと、必要もないのに人に言ったり手紙を書いたりせぬこと。また緊急な用事を口実に、対隣人関係のもたらす義務を絶えず避けぬこと。

 

◯第3巻

・公益を目的とするものでない限り、他人に関する思いで君の余生を消耗してしまうな。なぜならばそうすることによって君は他の仕事をする機会を失うのだ。(中略)突然人に「今君は何を考えているのか」と尋ねられても、即座に正直にこれこれと答えることができるような、そんなことのみを考えるよう自分を習慣づけなくてはならない。

 

◯第4巻

・「全体」の中から自分に割りあてられた分に満足している人、自分自身の行為を正しくし、態度を善意に満ちたものにすることで満足している人、このような善い人の生活がうまくいくかどうか君もやってみよ。

 

◯第6巻

・名誉を愛する者は、自分の幸福は他人の好意の中にあると思い、享楽を愛する者は自分の感情の中にあると思うが、もののわかった人間は自分の行動の中にあると思うのである。

 

◯第7巻

・自分の内を見よ。内にこそ善の泉があり、この泉は君がたえず掘り下げさえすれば、たえず湧き出るであろう。

 

◯第10巻

・他人の過ちが気に障るときには、即座に自ら反省し、自分も同じような過ちを冒してはいないかと考えてみるがよい。例えば金を善いものと考えたり、または快楽、つまらぬ名誉、その他類似のものを善いものと考えるがごときである。このことに注意を向け、さらに次のことに思い至れば、君はたちまち怒りを忘れるであろう。それは「彼は強いられているのだ。どうにもしようがないではないか」という考えである。あるいは、もし君にできることなら、その人間を強制するものを取り除いてやるがよい。

 

 政治でもビジネスでもプライベートでもそうですが、立場によってその人の在り方が出るところがあると思います。著者や『貞観政要』の太宗ののように、トップの立場に立った時にどのような振る舞いをするのか。その根っ子には、何を大切にして、どう考えるのか。現代を生きる私たちは、その力をどのようにして身につければ良いのか。そこで出てくるのが「内省」であり、そして歴史・書物に学ぶという姿勢なのかと改めて考えました。

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