MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

徒然草(著:兼好 校訂・訳:島内裕子)

徒然草』(著:兼好 校訂・訳:島内裕子)

 子供の頃に教科書で読んで以来。コーチング仲間が紹介してくれた第150段のことばに惹かれ、今回全243段を読んでみました。やはり、今の自分に刺さったのは、150段の名人論でした。徒然草は、「つれづれ」というだけに、本当に様々なことが綴られており、時代背景を感じること、今も変わらないと感じること、読み手の感じ方も様々だと思います。徒然草は多くの出版がありますが、この「ちくま学芸文庫」は、原文・訳・評の3本立てで構成されており、とても読みやすく思いました。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇第150段(訳全文)

 何かの芸能を身に付けようとする人は、「上手にならないうちは、なまじっか他人に知られないようにしよう。こっそり、よく習っておいて、そのうえで、人前に出たならば、たいそう奥床しいだろう」と、世間ではよく言うようだが、このように言う人は、一芸も上達しない。まだ、まるっきり下手で未熟なうちから、上手な人たちに交じって、馬鹿にされても恥と思わず、平気で過ごしてさらに努力する人は、生まれつきの天才的な才能はなくとも、たゆまず、ないがしろにせず年月を送ってゆけば、生まれつきは才能があっても一生懸命に練習しない人よりは、ついには上手になり、人徳も付き、世間からも許されて、並ぶ者なき名声を博すことになるのだ。

 天下の名人と言われる人でも、最初は下手であるという評判があったり、ひどい欠点があったりしたものである。けれども、その人が、その道の教えを大切にし、よく守って、気まま勝手にしなければ、世間の人からお手本と仰がれ、万人の支障となることは、どの道でも変わりはないはずである。

 

〇第92段(訳全文)

 ある人が、弓を射ることを習う時に、二本の矢を手に持って、的に向かった。すると師匠が言うには、「初心者は、二本の矢を持ってはならない。後の矢をあてにして、最初の矢を射る時に、いい加減な気持ちが出てしまうからである。毎回、絶対に失敗のないよう、最初の矢で必ず的を射なければならない、と思いなさい」と言った。師匠の前で、たった二本のうちの一本を、疎かにしようと思う人はいないだろう。けれども弛む心を本人は気づかずとも、師匠は気づいているのである。この教えは、すべてに通じると言ってよい。

 道を修行しようとする人は、夕方には翌朝があることを思い、ついつい先延ばしにしがちである。ましてや、一瞬の間にも弛み怠る心が、自分にあるということがわかろうか。本当に、「ただ今の一念」、つまり、この一瞬のうちに、しなければならないということを、すぐさま実行することが、なんと困難なことであろうか。

 

〇第167段(抜粋)

 本当に、ある道に通じている人は、自分ではっきりと自分自身の至らなさを知っているから、常により高い境地を目指して努力し、最後まで自慢するようなことはない。

 

〇第193段(抜粋)

 自分の分野・領域以外のことに関しては、争ってはならないし、相手のことをみだりに批判したり否定したりしてはいけない。

 

 習い事に関する考え方、心得としてとても参考になるくだりでした。徒然草を引用して紹介してくれたコーチング仲間のセンスの良さに驚きました。さすがコーチです。こうした心に残る言葉を貯めておくことは要諦を伝えるときに重要ですね。

徒然草 (ちくま学芸文庫)

徒然草 (ちくま学芸文庫)

 

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