モノづくりのこころ(常盤文克)
『モノづくりのこころ』(常盤文克)(〇)
テクノロジー企業経営の参考図書です。著者は、大卒後、花王に入社。研究所長を経て、社長、会長を務められた、バリバリのモノづくりの現場の方。
製造業で働く方の気持ちをに近づきたいと思い受講を決めた、テクノロジー企業経営ですが、まずは、講義での学びを深める第一歩として読んでみました。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇戦略は単純明快であるべきで、複雑すぎるときらめく旗は立てられない。「他社と似たような質だが、うちのレベルがちょっと高い」という程度ではダメで、他とは全く異なる質、つまり異質でなければ、きらめく旗にはならない。質を追求すれば結果的に量もついてくる。異質の追求とは、「他社にない、自社独特の技術に基づく独自の製品やサービス」を開発し、新しい市場を創出すること。これからのモノづくりは、もはや量を追う時代ではない。他社に真似のできない独自の質を持つ製品やサービスを次々に開発していく以外に残る道はない。
〇経営トップが取り組むべき課題は、何よりも事業分野の「選択と集中」を決断し、果敢に実行していくこと。コアになる部分、あるいは成長分野を残して他を捨てる。捨てる決心ができなければ、選択と集中も不可能である。
〇「死の谷」:基礎研究と応用研究の間に横たわる深い谷。基礎研究の輝かしい成果として得た技術が製品化にたどりつかず、死蔵されてしまうこと
→R&Dは、川上から川下までの流れのすべてを視野に入れてやっていくべき仕事。それを研究の部分だけでやっていこうとするから、いつの間にか視野が狭くなってしまう。
〇「ダーウィンの海」:研究開発の成果として技術を製品化に結び付けて大小の魚が生存競争をしている市場という海を泳ぎ切らねば生き残れないこと
→成長段階にあるベンチャー企業にとっては、「ダーウィンの海」に関する議論が重要になってくる。
〇「文理の壁」と「専門の壁」:文理相互の交流を深める双方向の教育システムを作る必要、専門分野を細分化しすぎる弊害を乗り越える全体を把握できる大きな科学の再構築が求められている。
〇個々人が属する集団に受容され、同時にその個と集団が共振を起こさねばならない。共振がなければ、知は単なる雑音に過ぎない。ITをベースにしたナレッジマネジメントでは知を機械的に扱いすぎていて、人の温もりの視点が欠けている。
〇知には本来囲いがない。仲間内だけで知をぐるぐる回していると、生物の同系交配のように、知は次第に濁ってくる。社内での知の交配、あるいは囲い込みは、知を劣化させてしまう。外に向けて窓を開き、新しい風を入れ、社内の知に常に揺らぎを起こすことが求められる。
〇「守・破・離」
①「守」:何度も何度も師匠の示す手本どおりに身体で覚え込ませる
②「破」:ある日、自分は師匠とは身体の形状が異なることに気づく。これだけ鍛錬したのに師匠とは描く線一本一本に微妙な息遣いの違いがあるのはそのせいか、と思い当たる段階
③「離」:自分の身体、つまりは個性的な工具に合わせた個性的なモノづくりに徹して生きようと思う段階に達する
〇(裏帯より)職人の手や足は工具と一体化している。工具もまた体の一部となって両者が一体になっている。仕事を通じて成長し、生きがいも人生の楽しみも仕事の中にある、という世界である。彼らには自分なりの美意識がある。それに対して妥協しない。いくら他人から褒められても自身が「駄作だ」と思えば、叩き壊してしまう。言葉には出さないが自分なりの哲学を持っていて、それをモノづくりと重ね合わせて生きている(本文より)
実務家の方のメッセージには、本当に説得力がありますね。
10~12月の講義では、どれだけ製造業の方の気持ちに近づけるかをテーマとして、現場感を意識した学びを深めていきたいと思います。