『セキュアベース・リーダーシップ』(ジョージ・コーリーザー他)(◯)
「セキュアベース」とは、フォロワーを思いやり、守られているという感覚と安心感を与え、思いやりを示すと同時に、ものごとに挑み、冒険し、リスクを取り、挑戦を求めるいようとエネルギーの源となる人物、場所、あるいは目標や目的のこと。
本書は、セキュアベースの「安心感」と「挑戦」という魔法の組み合わせをどうすれば提供できるのか、また、地域や肩書きや仕事の内容に関わらず、どうすれば「セキュアベース・リーダー」になれるのかを解説した一冊です。
行動だけではなく、まず何よりも「人としてのあり方」を求めるリーダーシップスタイルでもあります。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯安全とリスクのパラドックス
・セキュアベースの人物は良い聞き手であり、シグナルに気づき、相手のニーズによく注意を払い、早急に解決策を押し付けることはしない。また、特定の立場を支持することはせず、質問をうまく用いて考えさせるようにする。相手の代わりに考えることはしない。救出もしない。その人が自分でできることを代わりにやることはない。相手が自分で取り組むように仕向け、その経験を意味のあるものにできるように力を課す。
・人の絆と目標との絆のバランスを取ることは、職場で役割を果たし、高い自尊感情を持ち、高い業績をあげるうえでの基盤となる。人、あるいは目標との絆を欠いていると、拒否される恐怖、成功あるいは失敗の恐怖が大きくなり、全力を出しきれなくなってしまう。恐怖による強い無力感から、ストレッチ目標にも手が届かなくなる。セキュアベースは、成功の可能性に集中させ、不安感から人々を守り、行動する勇気を起こさせる。
◯セキュアベース・リーダーの9つの特性
①冷静でいる
・根幹となるもので、他の特性よりも先に身につける必要がある。
②人として受け入れる
・問題と向き合う前に人と向き合う。問題と人とを切り離す。
・特性を伸ばすヒント
1)自分を律する
2)社員としての役割を超えて、その人とその人の個性を知る
3)失敗を学びに変える
4)問題とその人自身を切り離す
③可能性を見出す
・短期的な能力ではなく、10年、あるいは20年先を実現するような、その人の最も奥深い可能性に目を向ける。
・特性を伸ばすヒント
1)チームや組織の全員の可能性についてビジョンを作成する
2)高い期待を持つ
3)自分を超える可能性を持っている人を採用する
④傾聴し、質問する
・自由形式、つまり「はい、いいえ」で答えられない形式の質問を用いて対話する。
・特性を伸ばすヒント
1)積極的に話を聞く練習をする
2)自由回答式の質問をする
3)沈黙と間を使う
4)話をする環境にも気を遣う
⑤力強いメッセージを発信する
・一つの文章やジェスチャーで、人々に深いインパクトを与えることができる、的確な言葉を思いつく術をマスターしている。
・特性を伸ばすヒント
1)言葉だけでなく、非言語のメッセージにも気を遣う
2)その一瞬を逃さない
3)力強いメッセージをはっきりと、簡潔に、ゆっくりと伝える
4)力強いメッセージを書く
5)力強く短いメッセージをノートに書き溜めておく
⑥プラス面にフォーカスする
・他の人たちの心の目をマイナス面ではなくプラス面に向けさせる。
・特性を伸ばすヒント
1)自分自身の心の目をチェックする
2)自分の脳をだます
3)前向きになるように影響を及ぼしたい人を3人選ぶ
4)他者をビジョンに巻き込む
⑦リスクをとるように促す
・相手を「人として受け入れる」ことや「可能性を見通す」ことの先にあり、この2つの概念を直接的な行動に置き換えたもの。
・特性を伸ばすヒント
1)リスクをとるロールモデルとなる
2)失敗に公正かつ明確に対応する
3)リスクをとるチャンスを一貫して提供しているかを意識しよう
4)自分の状態に注意する
⑧内発的動機で動かす
・人から最大限の力を引き出すには、「内発的動機」が重要だと理解しており、外発的動機には頼らない。
・特性を伸ばすヒント
1)どのように部下を動機づけているかを振り返る
2)一人の人間として部下を理解する
3)「所属」と「達成」という2つの欲求を満たす
⑨いつでも話せることを示す
・忙しすぎて会えないような人ではない。
・特性を伸ばすヒント
1)フォロワーと過ごす時間の長さではなく、その質を大切にする
2)歩き回って指揮を執る
3)短いやり取りを行う
4)本当に近づいていいことを示す
◯信頼関係サイクル
・絆のサイクル
「愛着(安心感)」⇨「絆の形成(関心)」⇨「別離(準備)」⇨「悲しみ(自分らしさ)」⇨「愛着(安心感)」
①「愛着(安心感)」
・近くにいたい、繋がっていたいという欲求。
②「絆の形成(関心)」
・愛着が絆となるのは、それがエネルギーの源になるとき。また、深い関わり合いや感情、共感、そして、共通の目標を目指す一体感などになるとき。
③「別離(準備)」
・誰か、あるいは何かを手放すことであり、悲しみのあとに訪れる「何か」のために準備をすること。
・痛みが生じるからといって、絆が壊れるのを避けるべきではない。別離は絆のサイクルにおいて、自然で不可欠な部分。子供は成長するために親から離れる必要がある。良い上司は優れた部下に対してより良いチャンスがあればそれを掴むよう勧める。
④「悲しみ(自分らしさ)」
・自分の枠組みが広がり、未来の自分を受け入れ、新たな愛着を経験する準備ができる。
⑤再び始める
・きちんと悲しむことができなければ、絆をうまく結べないと理解しておく必要がある。
◯「心の目」で見る練習
・セキュアベースは、他者の心の目を3つの方法で形作ることができる。
①プラス面にフォーカスする手本となること
②自己理論(自分についての見方)に影響を与えること
「人が何を信じるかで、何を達成できるかが決まる。自己理論によって、何を達成できるのかの限界が決まってくる」
③自己統制(自己コントロール)の向上に積極的に力を貸すこと
心の目のフォーカスを、辛さや苛立ちの先にあるメリットに向けさせる
・状態と心の目
「状態は、コミュニケーションにおいて最も重要な部分。しかし、どこにおいても見過ごされがちな部分でもある。あなたの状態がコミュニケーションの質を左右し、思考の質をも左右する。心理的、感情的な状態が、究極的にはあなたのリーダーシップ能力を決定づけ、周囲の出来事に対応する能力を決定づける」
◯4つのリーダーシップ・アプローチ
・「思いやること」×「挑ませること」の2軸・4象限で考える
①勝利を目指す
・思いやる(強)×挑ませる(強)
・心の声:「一緒に大きなことを成し遂げよう」
・テーマ:勇気
②負けないことを目指す
・思いやる(強)×挑ませる(弱)
・心の声:「安全第一。あまりリスクを取らないようにしよう」
・テーマ:繭
③支配を目指す
・思いやる(弱)×挑ませる(強)
・心の声:「人の助けなんていらない。一人の方がずっとうまくできる」
・テーマ:支配
④回避を目指す
・思いやる(弱)×挑ませる(弱)
・心の声:「放っておいてほしい」
・テーマ:クローゼット
◯対話を妨げる要因
①価値低減
相手を何らかの方法で過小評価したり、軽んじたり、けなしたりすること。価値低減の反対は、自分や他者や状況を「十分に認める」こと。
②消極性
自分の中に閉じこもっていたり、反応を示さない。消極性の反対は、「意見や考えを表明する」こと。
③再定義
議論や対話の焦点を変えて、自分が議論をコントロールしようとしたり、自分にとって不都合なことを避けようとすること。再定義の反対は、「質問に率直に答え、感じたことや考えたことを言う」こと。
④過剰説明
直接的で、明確で、シンプルな話をするものではなく、あまりにも細かな部分まで話すこと。過剰説明の反対は、「言いたいことを簡潔に、はっきりと、思いやりのある言い方で言う」こと。
◯深い対話のための実践的なスキル(準備)
①私の状態はどうか
②私が成し遂げたい結果は何か
③どんな選択肢を提供するか
④どんな譲歩ができるか
⑤どんな質問をするか(これが最も重要)
「安心感」と「挑戦」という2軸をいかに両立させていくには、自分についても他者についても、心理面についてアプローチする必要があり、コーチングを実践していく上でも、気づき・学びは深かったです。もう一度読み直したい一冊でした。
セキュアベース・リーダーシップ ――〈思いやり〉と〈挑戦〉で限界を超えさせる
- 作者: ジョージ・コーリーザー,スーザン・ゴールズワージー,ダンカン・クーム,東方雅美
- 出版社/メーカー: プレジデント社
- 発売日: 2018/09/27
- メディア: 単行本
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