本書は脳科学者である著者が、100人に1人と言われるサイコパスの実態を解説した一冊。サイコパスとは?本書冒頭の「はじめに」よりを読んでいただくの一番早い。
ありえないようなウソをつき、常人には考えられない不正を働いても平然としている。ウソが完全に暴かれ、衆目に晒されても全く恥じるそぶりさえ見せず、堂々としている。それどころか「自分は不当に非難されている被害者」「悲劇の渦中にあるヒロイン」であるかのように振る舞いさえする。
残虐な殺人や悪辣な詐欺事件を犯したにもかかわらず、全く反省の色を見せない。そればかりか自己の正当性を主張する手記などを世間に公表する。
外見は魅力的で社交的。トークやプレゼンテーションも立て板に水で、抜群に面白い。だが、関わった人は皆騙され、不幸のどん底に突き落とされる。性的に奔放であるため、色恋沙汰のトラブルも絶えない。
経歴を詐称する。過去に語った内容とまるで違うことことを平気で主張する。矛盾を指摘されても「断じてそんなことは言っていません」と涼しい顔で言い張る。
見過ごせないのは、この種の人間を擁護する人が少なくないこと。「彼/彼女は騙されてああなってしまったのだ」「決して悪い人じゃない。むしろとても魅力的だ」といった行為的な反応が、テレビのコメンテーターから一般の方まで、少なからず出てくる。時には「信者」であるかのような崇敬を示す人までいる。
彼/彼女らが、高い確率で「サイコパス」。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯サイコパスの特徴
・外見や語りが過剰に魅力的
・恐怖や不安、緊張を感じにくく、大舞台でも堂々として見える
・挑戦的で勇気があるように見える
・お世辞が上手い人ころがし
・常習的にウソをつき、話を盛る。
・自分を良く見せようと、主張をコロコロと変える
・ビッグマウスだが飽きっぽい
・傲慢で尊大であり、批判されても折れない
・付き合う人間がしばしば変わる
・人当たりは良いが他者に対する共感性そのものが低い
①「他人に危害を加えないようにする」道徳心
②「フェアな関係を重視する」道徳心
③「共同体への帰属忠誠」に関する道徳心
④「権威を尊重する」道徳心
⑤「神聖さ、清潔さを大切に思う」道徳心
→サイコパスが極端に低いのは①と②。
→③〜⑤は意外と高い。
①欠陥仮説
恐怖や不安に関する感情が欠如しているために、特徴的な振る舞いが現れる。
②注意欠陥仮説
不安を感じないというよりも、注意力を目先にあるタスクだけに向けるため、関係ないことが視界から外れてしまう。
③性急な生活史戦略仮説
サイコパスが今日まで生き残ってこられたのも、彼らの持つ特徴が生き残ったり、子孫を増やしたりする上で有効なものっだったからではないか。
④共感性の欠如仮説
扁桃体という領域が機能不全であり、あるいは扁桃体と眼窩前頭皮質という部分の結びつきが弱いために反社会的に振る舞ってしまう。
◯サイコパスの脳
①脳の扁桃体の活動が低い。
→・サイコパスは道徳によって判断することはない。「合理的なのだから、それがたしい」と考える。
・叩かれても心理的ダメージを受けない(なぜみんながそんなことであれこれ言うのか分からない)
・冷たい計算はあっても、熱い共感はない。
・脳が恐怖を学習せず、恐怖や不安といった情動よりも理性・知性が働きやすい。
・恐怖から罰や社会的な文脈を学習して痛みや罪、恥の意識を覚えることができない。
→サイコパスとは逆に前頭前皮質と扁桃体の結びつきが強い人は、社会的不安障害(対人恐怖など)やパニック障害、うつ病になどに罹患しやすい。
・サイコパスの特徴のひとつに、衝動的で計画性がないということが挙げられる。これは今までおそらくADHDを合併しているためだろうと言われている。サイコパスは、ADHDと高確率で相関がある。
◯プレゼン能力だけ異常に高い人
・サイコパスが高いプレゼンテーション能力を持つことは確か。
・相手が喜ぶことを言って巧みに真理を操る、あるいは逆に相手の弱みを見つけて揺さぶる・・そうした話術は得意中の得意。
・サイコパスは急激な変化に対応し、変化を糧に成功する。
・混乱に乗じて不正行為をしてもバレにくいため、非常時・緊急時には向いている。
・経営管理やチームでの作業は苦手。
◯起業家のフリをしたサイコパス
・シリコンバレーの起業家に求められる気質は、サイコパスの性質と合致している。
①変化に興奮をおぼえ、常にスリルを求めているので、様々なことが次々起こる状況に惹かれる。
②自由な社風になじみやすい。杓子定規なルールを重視せず、ラフでフラットな意思決定が許される状況を利用する。
③自分で仕事をこなす技量よりもスタッフに仕事をさせる能力が重視されるリーダー職は、他人を利用することにかけては大得意なサイコパスにもってこい。
◯サイコパスは治療できるか
・サイコパスの治療は、そう簡単にはいかない。場合によっては、治療後の方が再犯率が上がる。近所の精神科に通うレベルではとうてい治すことは不可能。
・サイコパスには罰ではなく、見返りを与えることによってルールを学習してもらうしかないかもしれない。
・サイコパス向きの仕事を見つけ、それに遭遇することが最も現実的な手段。
◯サイコパス向きの仕事
・小説家、選挙プランナー、マスメディア、外科医、警察官、情報機関のエージェント、ジャーナリスト、証券トレーダー、投資銀行マン、登山家・冒険家、エクストリームスポーツ、格闘技・モータースポーツ・・・
◯サイコパスの多い職業トップ10
①企業の最高経営責任者
②弁護士
③マスコミ、報道関係
④セールス
⑤外科医
⑥ジャーナリスト
⑦警官
⑧聖職者
⑨シェフ
⑩公務員
一見してわかるわけでもなく、むしろファンまでできそうな魅力がある。一方犯罪率は高く、治療が難しい。100人に1人って結構多いですよね。自分に何ができるのかピンとこないこともあり、ここはまず事実を受け止めるところから。