『「イヤな気持ち」を消す技術』(苫米地英人)(◯)
嫌な思いをしたときにトラウマになってしまう人と、あっさりとその体験を乗り越える人。この違いは、脳の使い方にある。本書は、認知科学者(機能脳科学、計算言語学、認知心理学、分析哲学)である著者による、自分の記憶をコントロールするための脳の使い方が解説された一冊。心の持ち様、捉え方など表現の仕方はいろいろあると思いますが、脳の専門家による解説は、科学的であり、腹落ち感があります。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯独りよがりの信念が強い怒りを生み出す
・相手のことを許せないと思うのは、「自分は相手にこれだけのことをやってきたのだから、自分の思いどりになって当然だ」と考えているから。「正しく生きてきた私がそんな目に遭うわけがない」、その信念が自らの力で立ち上がる邪魔をしている。
◯同じ失敗をしないために記憶はある。
・次に同じ様なことが起こりそうなときに、避けなければならない。生命のリスクが嫌な出来事を記憶させるようにしている。
◯海馬と扁桃体がイヤな記憶を増幅させる
・記憶を出し入れする仕組みは、側頭葉ではなく、海馬と扁桃体と呼ばれる部分の働きによって生み出されている。
・一般に海馬は、しばらくの間だけ覚えておけば良い情報を一時的に貯めておく場所として知られている。他に、側頭葉に出来事を投げん痕で長期記憶させたり、側頭葉から長期記憶を引っ張り出したりするゲートの役割がある。
・扁桃体は、海馬に働きかけ、それが出し入れする記憶を増幅させたり、弱めたりする機能を持っている。
・イヤな記憶に囚われるのは、海馬と扁桃体が増幅の連携プレーを繰り返す結果、そのイヤな記憶が前頭前野に認識のパターンをつくるから。
◯ブリーフシステムで未来を予測する
・なぜ人間はイヤな記憶、辛い記憶に悩まされるのか。
①人間が持つ信念の問題
②大脳辺縁系の海馬と扁桃体のやり取りによって、失敗の記憶が増幅されるという問題
・個々人が強く信じて疑わない固定的な考えは、全てその人の信念。
・ブリーフシステムによって、未来のことを予期したり、予想したりしている。その予期や予想に従って、人はあらゆる選択と行動を行なっている。
・個々人の心理的特性は、その人のブリーフシステムによって決まり、それが人格という誰の目にもわかる形で外部に現れる。
◯トラウマ回避の方法
・海馬が思いっきり増幅して引っ張り出すレベルを意図的に鈍感にしてやることが、辛い体験や悲しい記憶を忘れるために有効な方法。
→その体験を繰り返し、慣れること(生命の危険ではないと判断するとその情報に鈍感になる)→学校でいじめにあった子供も、学校に行っていじめられない状況がしばらく続けば、党拒否はなくなる。転校は登校拒否を治す一番有効な手段。
・他にも、前頭前野から介入させる方法がある(状況を正しく認識させる)。人間はIQが高まった状態に自分を持っていくことで、大脳辺縁系優位の攻撃性を抑えることができる。夜ベッドに入って怒りや不安などの感情が昂ってしまうときは、それがなぜ生まれるのか、それはまっとうな感情なのかという点を自分に問いかけ、前頭前野を働かせること。
◯自我が自分を不幸にする
・自我とは、宇宙のすべてのものを重要性の順番で並び替える関数のこと。
・その人の知識が重要度を決め、人は重要度の高いものしか認識しない。目の前の世界は、その人が重要だと思うもので成り立っている。
・イライラの原因は、自分で重要度を高めているものが多すぎるということ。
・「重要ですよ」という刷り込みが何年、何十年も行われ続けると、それが人間の前頭前野のパターンを作り出す。
・自分が重要だと思っている情報が外から刷り込まれているということは、自我も他人によって作られているということ。
◯自我を変えるにはテレビを捨てる
・自分にとって重要な情報を変えれば良い。
・テレビを見ない生活を1ヶ月も続けていると、自分にとって重要なことが、どんどん変わっていくことを実感できる。あれもこれも欲しいと思っていたのに、まったく欲しくなくなった。クヨクヨすることがなくなった。大変だと思って悩んでいたことが、取るに足りないことだと思えるようになった、などなど。
・他人の煩悩を自分の煩悩のように勘違いし、それをきっかけにして自分でその重要度を高めるという悪循環が鎮まるので、イヤな記憶やつまらない記憶が溜まってやりきれない思いがするということもなくなる。
本書では他にも、トラウマやうつ病から抜け出す方法が、脳科学的にそしてコーチングの観点からも述べられています。