政府の公式発表による経済指標の影に隠れている地下経済。本書では、大きく性風俗、貧困ビジネス、犯罪、闇サイトに分け、それぞれで行われている経済活動の実態と市場規模についてまとめられています。地下経済の規模は、ピーク時(1991年)は35.6兆円、2016年は26.5兆円。日本の名目GDPが約540兆円強なので、地下経済は約5%の規模があります(公務員人件費総額とほぼ同額)。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯地下経済の拡大による問題
①経済活動の実態を把握することが難しくなる。
②税務面においては、地下経済の拡大が課税ベースの縮小をもたらし、結果として政府の税収の減少、財政赤字の拡大につながる。
③政府の社会保障政策にも狂いが生じてくる。
④地下で経済活動を行う者と地上で経済活動を行う者との間に、経済的・社会的な不平等が生じる可能性がある。
⑤企業の生産活動が非効率になる恐れがある。
⑥地下経済で獲得した巨額の資金が多国間を移動することにより、為替レートが変動するリスクが高まる。
◯推計される日本の地下経済規模(主なもの)
①脱税額:7.7兆円〜14.7兆円
・個人:6.0兆円〜11.4兆円
・法人;1.7兆円〜3.3兆円
②暴力団の非合法所得:1.0兆円〜1.9兆円
・覚醒剤の販売:0.7兆円〜1.7兆円
③セックス産業の非合法所得:1.7兆円
・ソープランドのサービス料:0.6兆円〜0.7兆円
・ファッションヘルス、イメクラのもぐり営業:0.3兆円
・デリヘルの違法営業:0.5兆円
・違法外国人エステ:0.2兆円
・JKビジネス:800億円
④闇金融業者の非合法利益:0.7兆円
⑤医師への謝礼金:0.3兆円
⑥産業廃棄物の不法投棄:0.8兆円
⑦危険ドラック:1200億円
⑧偽ブランド市場:550億円
⑨違法賭博市場:300億円
⑩自動車の窃盗市場:230億円
⑪中国式白タク:220億円
⑫盗撮動画投稿:320億円
⑬転売目的の書店での万引き:470億円
⑭転売を目的としたドラッグストアでの万引き:290億円
◯メルカリに貧困ビジネスがはびこるワケ
・スマホを使って個人間で商品の売り買いを楽しめるフリマ(フリーマケット)アプリが、新たな「貧困ビジネス」の場として悪用されるようになっている。
・メルカリの場合、出品された商品を全てクレジットカードで購入できるようになており、何らかの理由で金策に追い詰められた人が、クレジットカードを使って現金を購入している可能性が高い。
・すでにクレジットカードの「キャッシング枠」で上限までお金を借りてしまって、「ショッピング枠」しか残っていない人たちが、「メルカリ」で現金を商品の扱いで購入していると考えられる。
・メルカリが現金の出品を禁止すると、今度は高額チャージ済みのSuicaが大量出品されて問題になった。例えば、6万円のSuicaが65,700円で販売されるといった具合。高額チャージ済みのSuicaの出品をメルカリが取り締まるようになると、今度は「旅行券」が額面以上の金額で出品されるようになた。クレジットカードの現金化について、まさにイタチごっこが続くような状態になっている。
◯労働マルチ
・「労働マルチ」に明確な定義が存在するわけではないが、会社から「一生懸命努力すれば、高収入や高待遇が得られる」との説明を受けて、果物や野菜、大福、お菓子、おもちゃ、カー用品などの訪問販売、飛び込み販売をするのだが、結果的に、会社にぼったくりといってもいいほど搾取されてしまう労働のことを指す。労働マルチの被害者の多くは20代の若者である。
◯「ぐるぐる病院」と貧困ビジネス
・「ぐるぐる病院」というのは、生活保護受給者が短期間で頻繁に入退院を繰り返させられることを意味する言葉。
・より正確には、90日間に居宅に戻ることなく2回以上続けて転院がある医療扶助の患者のことを刺し、こうした患者は専門用語で「短期頻回転院者」と呼ばれる。
・一番大きな理由は、患者の入院期間が長期化すると診療報酬が下がって、病院の収入が減ってしまうという経済的な事情。
・うがった見方をすれば、同じ病院で何度も入退院をしている生活保護受給者の患者がいれば、病院が高額の医療費を狙って意図的に「ぐるぐる病院」を行っていると捉えることもできる。
◯暴力団勢力の減少
・暴力団勢力(構成員+準構成員)は、2005年以降減少傾向で推移。2016年末時点の人数は39,100人にとどまり、統計を取り始めた1958年以降では初となる4万人割れを記録した。
・最近では、暴力団が表立ってみかじめ料を要求できなくなったため、半グレ集団を通じて飲食店からみかじめ料を徴収するといったケースも出てきている。半グレ集団というのは、暴力団に属さず、不良行為や犯罪を繰り返す集団のこと。
地下経済と一言で言っても、かなり種類が多く、本書を読んでいるだけでもかなり幅広く、日常生活から遠いようでも、生活圏内で行われているものもあるかもしれず、はっとさせられます。統計をみるとき、経済やお金の流れを考えるとき、公表資料にはない世界もあり得るのだということを発想として持っておくことも必要かと思います。
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