『悩みが消える「勇気」の心理学 アドラー超入門』(永藤かおる)(◯)
アドラー心理学の全体がまとめられた良書です。アドラー心理学の本もたくさん読みましたが、本書は入門編・復習編として、秀逸のわかりやすさでした。アドラー心理学のいいところは、横の関係で関わり、良いところに着目し、自分の力で選択し、関わる人との関係をよくすることが、全体の幸せに繋がって行くという好循環思考である点。最初に学んでからまだ1年半ですが、日常生活にもかなり取り入れることができてきて、自分の状態がいいことを実感できたり、成果が出たりと、自分も好循環の中で過ごせていることを感じます。
アドラー本は理解が難しいものが多かったのですが、本書は、文体のほか、図やチャートのまとめがとてもわかりやすく、最初の1冊としてお勧めです。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯人の悩みはすべて人間関係である
①会社に行くたくない ⇨職場に苦手な人がいる
②グループの中で浮いてしまう ⇨うまく付き合えない
③子育てがうまくいかない ⇨親子関係に自信がない
④引きこもりから脱出できない ⇨無力さを認めて欲しい
⑤痩せたい ⇨他人と比較して醜い自分が嫌だ
⑥自分の意見が言えない ⇨嫌われるのが怖い
◯5つのライフタスク
①仕事のタスク
お金を稼ぐことだけでなく学生の場合は学業、専業主婦にとっては家事や育児など。
②交友のタスク
友人との関係をいかに良好なものにするか
③愛のタスク
カップルや夫婦などのパートナーシップや、親子関係などごく親密な間柄
④セルフタスク
自分自身との付き合い。健康・趣味・遊びなど。
⑤スピリチュアルタスク
自分を超えたより大きな存在(大自然、神仏、宇宙)との付き合いのこと
◯ライフスタイル(性格)を構成する3要素
①自己概念(自分をどういう人間だと思っているか)
②世界像(世の中の様々なことを「◯◯である」と認識すること)
③自己理想(自己概念、世界像について「こうありたい」「こうあって欲しい」と感じていること)
◯劣等感
①劣等性(客観的に推し測れる身体的な特徴。事実としてあるもの)
②劣等感(自分の心で劣等と感じていること。自分が感じるもの)
③劣等コンプレックス(自分がいかに劣等であるかをひけらかすこと)
◯アドラー心理学の全体像
1.共同体感覚(最終的に目指すところ)
家族や友人グループ、職場などへの貢献感、つながりや絆の感覚
2.5つの柱
①自己決定性
人間は運命を想像できる力があり、自分で今後の行動を決定できる。
②目的論
過去の出来事にとらわれず、未来の目標を見据えて行動する。
③全体論
人の心は矛盾していない。人間は皆掛け替えのない存在である。
④認知論
人は誰しも自分の主観で物事を見る。
⑤対人関係論
人が行動するときは、常に相手役がいる。
3.勇気付け
自分や他者に困難を克服する活力を与えること
◯勇気をくじく人の特徴
①恐怖で動機付ける
②悲観的なマイナス思考を持つ
③原因志向でいる
④聴き下手である
⑤重箱の隅をつつく
⑥皮肉っぽい
⇨勇気に満ちてくると、自然と共同体に対して貢献しようと思えるようになる。
◯不適切な行動の4つの目標
①注目(騒がしい⇨良いところに注目する)
②権力闘争(親分風を吹かせる⇨言い争わない)
③復習(仕返しをする⇨報復を避ける)
④無気力(すぐに諦める⇨専門家を呼ぶ)
◯勇気の3つの要素
①リスクを引き受ける能力
②困難を克服する努力
③協力できる能力の一部
◯ほめると勇気づけの違い
①状況
・ほめる:相手が自分の期待していることを達成したとき(条件付)
・勇気づけ:あらゆる状況で(無条件)
②関心
・ほめる:与える側の関心で
・勇気づける:受ける側の関心で
③態度
・ほめる:上下関係で褒美を与える態度
・勇気づけ:ありのままの相手に共感する態度
④対象
・ほめる:「人」に与えられる
・勇気づけ:「行為」に対して与えられる
⑤波及効果
・ほめる:他人との競争に意識が向かう。周囲の評価書きになる。
・勇気づけ:自分の成長、進歩に意欲が向かう。自立心と責任が生まれる。
⑥継続性
・ほめる:その場限りの満足感を刺激する。一時的な効果。
・勇気づけ:さらに向上しようとする意欲を生む。継続性が高い。
◯自己決定性
・あなたは、どんな状況でも「運命の犠牲者」ではなく、「運命の主人公」。どんなことが起きても、それをどう捉えるか、どう考えるか。決定は自分自身の手にかかっている。
◯目的論
①アプローチ
・原因論:原因・結果アプローチ、”解説”にはなるが、”解決”にはならない。
・目的論:目的・手段アプローチ
②志向
・原因論:過去志向(過去の原因が現在に支配的な影響を及ぼす)
・目的論:未来志向(未来の目標が現在を規定する)
③意思
・原因論:個人の主体性は希薄かなし(意思は問われない)
・目的論:個人の主体性あり(意思が問われる)
④意識
・原因論:被害者・犠牲者意識(自らの環境の被害者・犠牲者とみなす)
・目的論:当事者意識(創造的な当事者としての意識が持てる)
◯全体論
・人の心は矛盾しておらず、分割不可能。それぞれの要素は補い合っている(すべては繋がっている)。
◯認知論
・人は過去の体験や、自分の好み、つまり自分だけのモノサシによって物事に意味付けしてしまいがち。指摘理論で誤った思い込み(ベイシック・ミステイクス)に陥ってしまう可能性がある。
①決めつけ(起こってもいないことなのに、勝手に決めつけてレッテルを貼る)
②誇張(物事を悪い方に拡大解釈して大げさに誇張する)
③見落とし(一部の悪い面だけを見ているので、ほかの良い面を見ようとしない)
④過度の一般化(特定の現象を全般に当てはめてしまう)
⑤誤った価値観(理不尽で非理論的な価値観に陥る)
◯対人関係論
・人間のあらゆる行動には相手役が存在し、その相手ごとに目的が存在する。
◯「ダメ出し」と「ヨイ出し」
・ヨイ出しをするメリットは、「人は注目されたことを伸ばす傾向がある」
・感謝は勇気づけの中でもすぐに始められる方法。感謝にはブーメラン効果がある。
・「すみません」がクセになっているなら「ありがとう」に替えて、感謝を伝える。
・プロセスを重視して勇気づける。
◯失敗の受け止め方と対処の仕方
①チャレンジの証
②学習のチャンス
③再出発の原動力
④大きな目標へ取り組んだ勲章
⑤次の成功のタネ
◯課題の分離
・自分がコントロールできないことに思い悩むのは意味がない。自分がコントロールできることに集中する。
◯注意は「Iメッセージ」で
・勇気くじきを避けつつ相手の行動変容を促すためには、「YOUメッセージ」ではなく「Iメッセージ」で伝えるのがコツ。
・注意するときに気をつけること
①目的
1)思わしくない行動や習慣を改めさせる
2)相手を成長させる
3)やる気を起こさせる
②上記を踏まえ自分が冷静になる
③勇気くじきを避け「Iメッセージ」で伝える。
◯大きく肯定、小さく否定
・拡大表現
「いつも」「とても」などの副詞や肯定的な形容詞で勇気付けを拡大。
⇨「毎日欠かさず」、勉強する姿に、「とても」感動したよ!
・限定表現・可能性表現
話題をある事柄のみに限定し、内容を限定するような副詞・形容詞を使う。
⇨君は「◯日と◯日に」掃除をサボっているね。。。
⇨みんな君の行動を不快に思っている「かもしれないよ」。
◯共同体感覚
・共同体感覚とは「共同体に対する所属感・信頼感・共感・貢献感を総称した感覚・感情」
・共同体感覚を持つ人の5つの特徴
①共感(仲間の関心に自分も関心を持っている)
②所属感(自分は所属グループの一員だという感覚を持っている)
③貢献感(仲間のために積極的に貢献しようとする)
④相互尊敬・相互信頼(関わる人たちと相互に尊敬・信頼し合う)
⑤協力(進んで協力しようとする)
◯精神的な健康の6つの条件
①自己受容
・自分に欠点があったとしても自分を受け入れている。
・自分の長所も短所も知っている。
②所属感
・自分の居場所があると感じている。
・居場所に安心感を持っている。
③信頼感
・他者を信頼している。
・信頼している他者と協力しようとする。
④貢献感
・進んで他者の役に立とうとしている。
⑤責任感
・自分の権利行使に伴う責任を取る。
・他者にも自分と対等の権利を認める。
⑥勇気
・困難を克服する活力を持っている。
・不完全さを受け入れる勇気がある。
頭がかなり整理される一冊でした。アドラーが初めての方は、「アドラー心理学の概要・イメージを掴む」ことに力点を置くのに適しています。アドラーの既学習者は復習と人に伝える際に役立つと思います。一方、実践となるとセミナーなどで学んで肌感覚をつかむことが大切だと思います。一度理解し、この世界に触れると、人生がとても豊かな方向に向かって角度が上がるのが体感できると思います。