ピーターの法則(ローレンス・J・ピーター)
『ピーターの法則』(ローレンス・J・ピーター)(◯)
これはおもしろい本に出会いました。ちょうど今、新装再販されています(訳語の内容は、私の購入した2003年版とほとんど同じとのことです。「ピーターの法則」とは、「階層社会では、ずべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに達する」こと。「ピーターの必然」として、「やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ、無能レベルに達していない人間によって行われている」という事実。「階層社会学」という領域を探求する著者がまとめた「無能」に関する一冊。やがてポストに対し、無能に達してしまう事実に対して、創造的無能で幸せな人生を送ることが書かれています。いろんな法則が出てきて、「確かに〜!」が多い一方、「自分もヤバくはないか?」と危機感も煽られる、示唆にとんだ内容です。
(印象に残ったところ・・本書より)
・職業にまつわる何百何千もの無能の事例を分析した結果から導き出した結論が、ピーターの法則。
・全ての個人にとって、最後の最後の昇進は、有能レベルから無能レベルへの昇進となる。全ての個人は、その人なりの無能レベルに行き着くまで昇進し、その後はそこにとどまり続けることになる。
・やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。
・仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われる。
◯強制上座送り
・強制上座送りは、疑似昇進。一見昇進に見えるが、生産性の低いポストから、別の生産性の低いポストに移されただけ。
・以前より大きな責任を負うことになったか?以前より多くの仕事をこなすことになるか?
・うまくいくと
①自分が行った人事の失敗をカムフラージュできる。
②部下の勤労意欲を保つことができる(あの人でも出世できるのだから自分にもチャンスがある)
③自分のいる階層社会を維持できる。
・大きな組織の上層部には、立ち枯れた木々のように無能な人々が積み上げられている。
◯水平移動
・水平移動も擬似昇進の一種。階層を昇るでもなく、しばしば給料も据え置かれたままで、無能な社員が新しく長ったらしい肩書を与えられて、社内の隅っこ部屋に仕事場を移されるというもの。
・大きな組織ほど水平移動が容易に行える。
・部下が一人もいない「管理職の空中浮遊」。
◯ピーターの本末転倒
・「その規則は私どもの管轄ではないので、私の口から言うわけにはいきません」
・相手が知りたがっている答えを知っているのに、なんだかんだと理由をつけて教えてくれないお役人は珍しくない。
・病院が、事故で怪我をした人をすぐに治療せず、まず山ほどの書類に必要事項を記入させる。
・「起きてください!睡眠薬を飲む時間ですよ」
・書類がちゃんと埋まっているかに執拗にこだわる役人が多い。
・有能な上司はアウトプットで部下を評価するが、無能な上司は組織の自己都合という尺度で、部下が有能かどうかを判断する。つまり、組織の規則や儀礼を支える行動こそが有能の証とされる。
・ピーターの本末転倒人間は、自主的に判断を下す能力がない。常に組織のルールや上司の指示に従うだけで、決断はしない。ただし、不幸な昇進によって、自分で決定を下さなくてはならなくなったときが年貢の収めどき。
◯階層的厄介払い
・聡明で生産性の高い人物が全く昇進できないどころか、クビになってしまうという現象。
・大抵の階層社会にあっては、有能すぎる者は無能な者よりも不愉快な存在。スーパー有能人間は、解雇されてしまうことが少なくない。スーパー有能人間は階層社会を崩壊させ、それゆえ「階層は維持されなければならない」という「階層社会第一の掟」に違反するから。
◯親の七光り人事
・中には息子をいきなり管理職に登用してしまうオーナーもいないわけではない。どうせいつかは息子を後釜に座らせ、会社の全権を譲り渡すのだからと考える。
・親の七光り人事の方法は主に二つ。
①今いる社員を「水平移動」や「強制上座送り」によって解雇ないし異動し、後釜に座る人間のために空きをつくる。
②登用される人間のために、新しい役職、それもインパクトのある肩書きの役職を新設する。
◯引きと昇進
・「引き」とは、従業員が血縁や婚姻関係や親交によって、階層内の上司と繋がりを持つことを言う。
・「引き」を手に入れるには、
①パトロンを見つける(階層内であなたより上位にいて、あなたの昇進に力になってくれる人)
②パトロンに動機を与える。
③はい出せ!はい上がれ!
あなたは飛び込み用プールの踏切台に登ろうとしている。ハシゴを途中まで登ったところで、先に登り始めたのに怖気づいてしまったダイバーが上方にいて、行くてを遮っています。彼は両目をつぶって手すりにしがみつき、降りようとも、登ろうともしません。あなたには彼を追い越す方法がありません。こうなってしまうと、踏み切り台からどんなに励ましの言葉をかけたところで何の助けにもなりません。
⇨あなたがいくら努力しても、またパトロンがどんなに必死にあなたを引き上げようとしても、あなたのすぐ上のポストが、無能レベルに達した「特大つけもの石」なる人物でふさがれてしまっていては、どうにもならない(ピーターの難所)。
⇨仕事の世界で階層を昇っていくためには、特大つけもの石の下から逃れて、難所のない昇進ルートに軌道修正する(ピーターの急がば回れ)。
④見切りは早めに!
パトロンがもう今より上にいけないとなったら、引かれ昇進者は新たなパトロンの引きに頼るしかない。「新しいパトロンに勝るものなし」。
⑤複数のパトロンを持て!
「複数のパトロンによる引きの総量は、それぞれのパトロンによる引きの合計に、パトロンの数を乗じたものに等しい」(ハルの定理)
◯押しで勝負する人への警鐘
・押しは、勉強や職業訓練、あるいは自己啓発への並々ならぬ関心という形をとって表れることがある。
・しかし巨大組織では、年功序列が幅をきかせているので、効果はほとんどない。
・勉強や自己啓発に熱心なことは、むしろマイナス効果をもたらすという見方もできる。つまり、新たに有能な分野が開拓されれば、無能レベルに達するまでに、余計に多くのステップを踏むはめになる。
・引きがあてにできるなら、押してはいけない。
◯無能ゆえの奇妙な行動
①電話依存症
「同僚や部下と満足に連絡が取れない」と愚痴をこぼすことによって、自らの無能について言い訳しようとする。
②書類恐怖症
デスクの上に書類や本があると耐えられない。
③書類溺愛症
目を通すこともない書類と本の山で机をぐちゃぐちゃにしてしまう。
④ファイル偏執症
書類の整理や分類をとことんやらないと気が済まない狂気的な症状。
⑤巨大デスク症
同僚よりも大きな机を持つことに異様な執着を示す。
⑥デスク恐怖症
仕事場から一切の机を撤去してしまう。
⑦自己憐憫症
感傷的な自己憐憫や現在に対して否定的で過去をやみくもに賛美する情(蛍の光コンプレックス)。
⑧フローチャート狂信症
どんな些細な仕事も、そのフローチャートに従って処理されるべきだと言い張る。
⑨難癖症
部下を常につ安定にしておくことによって、自分の危うさを覆い隠そうとする。
⑩シーソー症候群
自分の地位にふさわしい決断が全くできない。際限なく思案する。下や上への丸投げ。
⑪外見偏屈症
仕事には全く関係のない部下や同僚の身体的特徴をあげつらい、バカらしい偏見を持って接する姿勢。
⑫惰性的バカ笑い症
仕事を放ったからして冗談を連発する癖が止まらない人。
⑬建造物執着症
建造物に対して異様なまでに執着を見せるという症状。
⑭頭文字・略称愛好症
頭文字と数字を使って(英語さん文字の略称など)話すことに並々ならぬ執着を示す。
⑮万能会話・万能スピーチ
・印象に残る言葉がふんだんに散りばめられているものの、実際には聴衆に合わせて、所々言葉を入れ替えれば、あらゆる状況で使えてしまう内容空疎な代物。
◯無能レベルでの健康と幸福(すり替えの術)
①無限準備
仕事に着手する一つ手前の段階で時間を稼ぎせっせと動き回る。
・行動を起こす必要性を確認する(石橋を叩いて渡る、急がば回れが座右の銘)
・代案を徹底的に検討する
・専門家に助言を依頼する
・順序立ててことを運ぶ
②わき道スペシャル
・どうでもいいことを頑張れば、大事なことは誰かがやってくれる。
③イメージ一人旅
・イメージは何倍もの実績に匹敵する(ピーターの気休め薬)。具体論より概念。
④徹頭徹尾我関せず
・自分の任務を遂行しているそぶりさえ見せようとしない。
⑤戦線縮小方式
・大半の仕事をあっけなく捨てて、注意と努力をたった一つのささやかな任務に集中する。
とまぁ、「無能」に関すること、無能に安住して幸せに暮らす人。。。様々な視点から語られている本書は、現実を見ているともいえ、考えさせられるところがいっぱい。こういう切り口の本は少ないので、一読の価値があると思いました。
- 作者: ローレンス・J・ピーター,レイモンド・ハル,渡辺伸也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2003/12/12
- メディア: 単行本
- 購入: 8人 クリック: 111回
- この商品を含むブログ (82件) を見る