MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

徒然草(NHK100分de名著ブックス)(著:兼好法師、解説:荻野文子)

徒然草(NHK100分de名著ブックス)』(著:兼好法師、解説:荻野文子)
 平安・鎌倉の名随筆の一つとして清少納言の『枕草子』、鴨長明の『方丈記』と並び称される本書。解説者が面白い表現をされています。「兼好は蟻を高みから見ている人」「清少納言は蟻の一匹として周囲を見回している人」「鴨長明は蟻への関心を捨てた人」。兼好が自分の目に映る日常の断片について、その時々の感想が述べられています。全243段がまさに徒然に順不同に書かれていますが、本書では、①人付き合い、②上達の極意、③世間を見抜く、④人生を楽しむの4つの切り口で整理されており、全体をつかみやすい内容になっています。

 

(印象に残ったところ)

◯心地よい人付き合い

・その人の人間関係を見れば、その人となりや価値観がよくわかる。

・必ずしも意見が一致しなくとも良い、食い違うところがあっても良い。むしろ大事なのは、「自分はそうは思わない」などと反対意見も遠慮なく言い合えること。

・付き合う相手を選ぶのならば、「身分の高い人」は気兼ねするから避けたい。「若い人」も年齢差があれば考え方も行動も違うので御免こうむりたい。兼好はあまり体が丈夫でなかったようなので、「身体の強い人」とも店舗が合わなかった。「勇猛な武将」も同じような理由で除外したかった。

・兼好の男女観が独特であることは確か。兼好は筋金入りの独身主義者なのですが、日本古来の小説や随筆を見渡しても、兼好ほどその辺りの意見をはっきり言い切った人はいないように思える。

・人間関係は、近すぎても壊れ、離れすぎても壊れる。時々、いつもと逆の距離感で接することによって、絶えず新鮮な関係を保とうということ。

・『徒然草』の底流を貫いているものは、「この世に常なるものはない」という無常観。「さよならだけが人生だ」という言葉があるが、親しかった人もいつかは自分から離れてしまうもの。そのように生きながら別れることは、死に別れることより悲しい。

・面倒だからほどほどにして避けようとしていたのではない。むしろ、どのようにすれば面倒にならずに付き合えるかを考え続けていたのではないか。

 

◯上達の極意

・どのみちであっても、専門家というものは、たとえ未熟であったとしても、熟練の素人と比べたときに、必ず勝っている。それは、いつも油断なく慎重で軽率なことをしないのと、ただただ勝手気ままにするのとは、違うからである(第187段)。

・兼好4つの主張

①優先順位をつけよ

②恥を捨て人前に出よ

③真似でも行動せよ

④環境を整えよ

・人間というのは、遊んでいる気はなくても、知らず知らずのうちに一番肝心で苦しい本題から逃げていることがあるもの。しかし、人生は短い。そのような逃げを自分に許していたら、時間はどんどんなくなってしまう。

 

◯世間を見抜け

・嘘つきの3分類

①バレるのもかまわず、口からでまかせを言い散らしている無邪気な嘘つき

②人から聞いたホラ話を、鼻をピクピクさせて得意げに語る嘘つき

③もっともらしい態度で、ところどころをぼかしながら、よくは知らないふりをして、それでいて辻褄を合わせる話を作る嘘つき

・嘘を知ったときの人の行動(第194段)

①言われるままに素直に騙される人

②嘘を信じ込み、さらに自分で意識的に嘘の上塗りをして周囲に広めていく人

③右から左に流して、気にも留めない人

④信じるでもなく、かといって信じないでもなく、考え込む人

⑤本当だとは思わないが、そういうこともあるかもしれないと思って放っておく人

⑥相槌を打ち、微笑みながら、わかった様子で聞いているけれども、実は何もわかっていない人

⑦本当かなと疑いながら、自分の方が間違っているのかなと悩む人

⑧嘘であろうが本当であろうが、構わずに笑って楽しんでいる人

⑨嘘であることはお見通しだが、知らぬふりで黙っている人

⑩その人がなぜ嘘をついているのかという嘘の本意を理解して、協力して話を合わせてあげる人

・「落とし穴」。自分の勝っていると思うことは、むしろ忘れた方がいい。自分は凡人とは違うとか、高い教育を受けているとか、人より身分が高いとか、奢りが心に芽生えた途端に、足元をすくわれる。

 

◯人生を楽しむために

・人の命は定めがないからこそ、素晴らしい。

・兼好は鴨長命ほど深刻ではなく、この世は無常であると言いながらも、どこか明るい。

・老境も案外悪くない。年をとった人は、気力が衰え、心が淡白で執着しない。感情的に動くことがない。心がおのずから静かなので、無益なことをせず、身をいたわって心配事がなく、他人の迷惑にならないように考える。年をとって知恵が若い時に勝っているのは、若い時に要望が老いた時より勝っているのと同じである(第172段)。

 

 個人的には、上達の極意が結構好きです。第150段で、「うまくできないうちは、なまじっか人に知られまい、内々で十分に習ってから人前に出るようにしたら、大変奥ゆかしいと思われるだろう」と述べています。下手だと人からどう見られるか。人の顔色、自分の評価を気にしてしまうのは、今も昔も変わらないこと。でも、さっさとやりなさいと。そうすることが上達への近道。これも今も昔も変わらないこと。こうやって本質に触れることが自分の人生の選択を明確にし、人生が豊かになるきっかけとなる。古典の良さだと思います。

NHK「100分de名著」ブックス 兼好法師 徒然草

NHK「100分de名著」ブックス 兼好法師 徒然草

 

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