MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

方丈記(NHK100分de名著ブックス)(著:鴨長明、解説:小林一彦)

方丈記(NHK100分de名著ブックス)』(著:鴨長明、解説:小林一彦

「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみにうかぶうたかたはかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖(すみか)と又かくのごとし」。この有名なフレーズ。教科書で読んだ方も多いのではないでしょうか。しかし、このフレーズのあと何が書いてあるの?鴨長明ってどんな人?そんな情報が手軽に手に入るのが、「NHK100分de名著シリーズ」。あらためて、このシリーズは素晴らしい。簡単に要点を短時間で知ることができる優れものです。著名な本だけれど、なかなか手に取らない本は、まずこのシリーズを読んでみて、そして自分に合いそうなら、本格的に読んでみるという使い方が便利です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯『方丈記』とは

鎌倉時代初期の1212年、隠者の鴨長明が記した文学作品。

・『枕草子』『徒然草』と並ぶ三代随筆の一つだが、いわゆる普通の随筆(筆の向くまま、気の向くまま思いついたことを縷々綴る)ではない。

・基本的に一つのテーマについて最初から最後まで書き通した一話完結の書。一話のみだからボリュームもない。400字詰めの原稿用紙でわずか20枚ほど。

・『方丈記』のテーマは、「自分」。自分の経験、自分の暮らし方、自分の人生観、自分の考え方、自分の感じたことなど、徹頭徹尾一人語りの形で自分について書いた「自分史」。

・世のはかなさを示す例として、長明自身が20〜30代にかけて経験した5つの大きな厄災をあげている日本最古の「災害文学」。

①安元の大火

②治承の辻風

③福原遷都

④養和の飢饉

⑤元暦の大地震

・『方丈記』の特徴は、「高僧伝」ではなく、「悟りきれていない人間」が書いた「自分史」であること。

・『方丈記』の大きな特徴は、極めて短い作品であるにもかかわらず、実に様々な読み方を受け入れてしまう、その不思議な懐の深さ。災害の書、自分史、断捨離本、住まいの書、仏教修行の書、スローライフの書など、読み手によってそれぞれ異なった読み方が可能。

 

◯長明の人生

・1155年ごろ、下鴨神社の正禰宜の子として生まれる。数え7歳で従五位下を授けられる。お坊ちゃんで順風満帆に行けば、次第にくらいが上がって、ひとかどの神職として名をあらわしたはず。

・ところが、18歳で父に死に別れ、禰宜のポストは長明から遠のく。祖母の家との縁も切れ、妻子とも離れて鴨川のほとりに暮らすことになり、「独居の人」としての人生が始まる。

・庵の大きさはさらに小さくなり、若い頃に住んでいた屋敷の100分の1にも及ばない一辺が一丈(約3メートル)の方形だったことから、「方丈」と名付けられた。

・音楽は琵琶にこり、琵琶奏者として腕前は相当なものだったと伝えられている。

・『新古今和歌集』編纂にあたり、「寄人」として迎えられる。「寄人」は当代一流の歌人であることの証明でもある。

 

◯隠遁に入った理由

・身分が低ければ、権力者の前でいつも小さくなっていなければならず、貧乏であれば、富裕な人と顔をあわせるたびに恥ずかしい思いをせねばならない。人家の密集地に住めば家事の類焼をまぬがれず、僻地に住めば交通の便が悪く、盗難の心配もあって物騒だ。出世して物持ちになるほど人心は貪欲になっていき、かと言って独身だと軽く見られる。財産があれば心配になるし、貧しければ恨みがましくなる。誰かを頼りにすると自分は失われ、そのものに支配されることになる。だれかの面倒を見ると愛情に縛られる。世の中の常識に従えば窮屈だが、自由気ままを通すと、見た目は狂人とそっくり同じに映る。結局この世には、休まるところはどこもない。どんな仕事をして、どのように生きても、ほんの一瞬も、この社会では心安らかに暮らすことができない。

 

◯方丈の生活

・もし私の言うことを疑うなら、魚と鳥とのありさまをご覧なさい。魚は水の中に住んでいて、魚でないものは「魚はあんなところで幸せなのだろうか」と思うけれども、魚自身はそれが幸せなのだ。鳥は林に住むことを願うが、鳥でないものは、「あんな暮らしがいいのか」と思う。けれども、鳥は林に住むことを願うが、鳥でないものは「あんな暮らしがいいのか」と思う。けれども鳥はそれが幸せなのだ。それと同じように、私はこの方丈の生活がこの上なく幸せなのだ。しかし、この境地は、味わったことのない人にはわかるはずもない。

・自分を貶めた人々に、「おかしいな、ゴールにたどり着いていたら負け組だったはずのあいつの方がいい人生を送っているじゃないか、あいつの方が幸せそうじゃないか」と思わせるために、長明は、この『方丈記』を書いたと言っていいと思う。私は負けていないと長明は言いたかった。『方丈記』は全てを悟って無常感を説く修験者の書ではなく、実は非常に人間くさい世捨て人の本なのです。

 

玄侑宗久(作家・僧侶)「風流」の境地へより

鴨長明という人は、じつに集中的に不幸な体験をした人である。23歳で「安元の大火」、26歳で「治承の辻風」、同じ年に「福原遷都」、27歳で「養和の飢饉」、31歳で「元暦の大地震」というのだから立て続けである。しかもこれらは全て、ごく近い京阪地区での出来事なのだからすごい。

・これほど災害に遭い続ければ、たいがい価値観も変わるだろうと思う。まして人生行路も、決して順調ではなかった。由緒ある神社の神官の息子に生まれたものの、親族の妨害にあって神官への道は閉ざされる。やむなく和歌や管絃の道に励み、34歳のとき『千載和歌集』に一首が採用になるのだが、この和歌管絃の道こそが、その後の長明のプライドと楽しみと糧になっていく。

・最近は「免震」構造が地震への対応策として注目されているが、あらゆる災害に有効なのは、いわば心の「免震」、あるいは免震的な生き方である。壊されてもあまりショックを受けないような生活環境と心構えを、あらかじめ作ってしまうのである。それが50歳からの、大原での暮らしぶりであったに違いない。

・モデルにしたのは『維摩教』の主人公維摩が住んだとされる方丈である。そこは一丈四方の狭い空間であるにもかかわらず、心に執着のない維摩が住むと無限の広さを持つようになる。

 

◯面白く読める自分史

①「書き出しの文章」で読者を引きつける。

②自分の生きた時代と、「同時代の社会的事件」をリンクさせる。

③人生の中で出会った「良い言葉」を効果的に用いる。

④家の図面を描くように「全体の構成」をきっちりと練る。

 

 まず、著者に興味を持つこと。古典はそこからスタートしてみたいなと思い、「100分de名著シリーズ」を手に取りました。やってみて正解でした。概略を抑えつつ、著者の生涯を辿ってみる。そして、愛着が湧いたところで、本格的に読んでみる(「100分de名著」に次ぐ2冊目を読む)。とても効率的です。これにテレビで動画を見てから「100分〜」を読むとさらに効果的。印象の残り方が違います。生まれながらに与えられた環境を活かすことはできなくても、自分で自分の生きる道を見つけて掴み取った、鴨長明だからこそ、伝わってくるものがあります。

NHK「100分de名著」ブックス 鴨長明 方丈記

NHK「100分de名著」ブックス 鴨長明 方丈記

 

f:id:mbabooks:20180420203907j:plain