MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

「上から目線」の構造(榎本博明)

『「上から目線」の構造』(榎本博明)

 「させていただく」「していただく」という表現の多用。なぜそこまでへり下るのかといえば、「上から目線」に敏感な人が増えているから。「上から目線でものを言われた」などと反発されるのを恐れるあまり、ついつい不自然なほどに「いただく」を多用してしまう。本書は、こうした人の心理にある「上から目線」に焦点を当てて、「上から目線」が気になる現代人の心理構造を解き明かした一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯部下のご機嫌伺いに潜むパーソナリティの構え

・部下や後輩から「上から目線」を指摘されたりしたら、それはもう心穏やかではいられない。自分の価値の源泉は、」能力や人格そのものではなく、人から気に入られるかどうかなのだから、人からの人気によって自分の価値が決まる。故に、みんな人から良く思われたいという気持ちが強い。上司や先輩としても、部下や後輩からよく思われているかどうかは、大いに気になるところ。

 

◯人を見下す人物にありがちな傾向

・「上からですね」と反応しがちな人は、見下され不安が強い。人を見下す傾向のある人は、人が自分を見下すのではないかといった恐れを抱きがちだ。従って、人より優位に立ちたいという思いが強いのに、現実にはなかなか優位に立てない自信のない人物が、相手の上から目線を過度に気にする。

・目上の人間から注意を受けたり、アドバイスを受けたりしたときに「上からですね」と非難がましい反応をする若者は、自信のなさゆえに、攻撃的な反応に出るのであろう。「上から」として相手を非難する姿勢そのものが、不自然に偉そうで攻撃的な印象を与える。もし本当に自信があれば、人の意見に耳を傾ける心の余裕があるはずである。アドバイスを取り入れることで、仕事のやり方を改善することができるし、もっと有能な自分になれる。

 

◯直接的なアドバイスはなぜ響きにくいのか

・「目線の位置」が上からなのが問題なのではなく、「言い方」が問題なのだというケースがある。若手から「その上から目線、やめてくれますか」と反発されるケースの大半は、言い方に問題があるようだ。

 

◯上下、勝ち負けでものを見る人々

・「上ー下」「勝ちー負け」で世の中を見るスキーマを持つ人は、絶えず他人と自分を比較する。そのようなタイプにとっては、相手と自分のどちらが上か、どちらが勝っているかが問題。

 

◯比較意識が「見下され不安」を生む

・「上から目線」が気になる人は、過剰な比較意識を持つために、優劣に敏感になり、相手の優位を突きつけられるたびに、「見下され不安」に脅かされる。そのせいで、相手の何気ないそぶりや言葉が、こちらを軽んじているように感じられ、攻撃的な感情が湧いてくる。それが「その上から目線、やめてください」の一言になって表れる。

 

◯同期の業績に一喜一憂しない方法

・理想自己とは、こうありたい自己のこと。人から尊敬される人間になりたい。周囲の人たちを幸せな気分にさせられる人になりたい。仕事のできる人間になって世界を駆け巡って活躍したいなど。

・この理想自己を自己評価の基準として取り入れることで、社会的比較による縛りを多少なりとも緩めることができる。「人は人、自分は自分」ということ。

・自分の理想とする姿と彼は違う。目指すところが違うのだから、比較しても意味がない。彼には彼のやり方がある。自分には自分のやり方がある。そう思えば、同僚の活躍や挫折に一喜一憂するようなちっぽけな自分から抜け出すことができる。

 

◯自己像を組み立てるのは他人である。

・人からどう見られるかによって自己像が作られて行く。そこでわかるのが、人間関係の希薄化が言われるようになるとともに、「自分がわからない」という人々が増えてきたことの理由である。人間関係が稀薄化すると、他人を鏡とする機会が少なくなる。故に自分がわからなくなる。

・人間関係の希薄化によって、他人が得体の知れない存在になり、「他人が怖い、他人がわからない」という心理が広まった。それと同時に、アイデンティティの拡散、つまり「自分がわからない」という心理が蔓延してきた。実は、この「他人が怖い、他人がわからない」心理と、「自分側かときもない」心理は、表裏一体をなすものである。引きこもりの増加の背景にもこの両者の心理があると考えられる。

 

◯空気を読まなくてはならないという呪縛

・キャラを演じ、キャラに縛られ、親しさを演じ、本音を抑える。全ては空気を読むという一点に収束していく。

 

◯上下のコミュニケーションの原点とは

・子供時代、遊び経験を何年も積み重ねることによって、自分より年上の子に対する態度や自分より年下の子に対する態度が身についていく。いわば、目上の「上から目線」に従ったり、甘えたり、頼ったりする姿勢を身につけるとともに、目下に対して面倒見良く保護的に接したり、教え導いたりする「上から目線」の姿勢を身につけるのである。

 

 ビジネスの世界でも起こりがちな「上から目線」。お願いする側とされる側。関係性が出来上がり、そこに心理が働き「当たり前」が出来上がる。もうほとんど思い込みに近い世界が「上から目線」の世界かもしれません。人は、完全にフラットな関係で居続けることは難しいのかもしれません。だからこそ、「上から目線」な自分も意識しておくことで、止めることもできるのだと思います。

「上から目線」の構造<完全版> (日経ビジネス人文庫)

「上から目線」の構造<完全版> (日経ビジネス人文庫)

 

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