『幸せのメカニズム』(前野隆司)(◯)
著者は慶応大学教授で、もともと工学を専門とされ、現在は、幸福学、感動学、共感学など感情にまつわる幅広い専門を持たれています。「幸せは多様だが、基本メカニズムは単純なのではないか」。「幸せ」という漠としたもののメカニズムを科学的にアプローチした本書。見所、気づきが満載で、久しぶりに本格的に掘り下げたい欲求が高まった一冊でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯「幸せ」
・もともとは「し合わせ」。何か二つの動作をして、合わせること。「めぐり合わせ」に近い。何かをしている自分に別の何かが重なり合うこと。
◯地位財と非地位財
・地位財:所得、社会的地位、物的材
⇨個人の進化・生存競争のために重要。
⇨幸福の持続性:低い
・非地位財:健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情
⇨個人の安心・安全な生活のために重要
⇨幸福の持続性:高い
◯カレンダー◯×法
・手帳を用意し、毎日寝る前など1日の終わりに、今日はいい日だったかどうかを振り返る。幸せな日だったら◯、不幸せだったら×、中くらいだったら△を手帳に書く。
・できれば、その理由を簡単に書き添えておく。これを毎日繰り返す。
◯ピークエンドの法則
・苦痛・快楽の評価はその活動の「ピーク(絶頂)」と「終わった時の程度」で決まるのであって、「どのくらいの期間続いたか」は無視される。「終わりよければすべてよし」。辛いときも諦めずに、しつこくしぶとく続けた方が幸福を得る可能性が高い。
・人間は過去の出来事を均等に思い出すようにはできていない。
・人が感じる価値の大きさは客観的な数値に比例しない。
・幸福は小さめで満足し、不幸はリスクテイクしがち。
・人間の認知は、杓子定規な数学的解釈では表せないような癖のある特徴を持っていて、それを意外と自分自身がわかっていないもの。
◯幸せの4つの因子
①「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
⇨自分に向かう幸せ
・コンピテンス(私は有能である)
・社会の要請(私は社会の要請に応えている)
・個人的成長(私のこれまでの人生は、変化、学習、成長に満ちていた)
・自己実現(今の自分は「本当になりたかった自分」である)
②「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
⇨他人に向かう幸せ
・人を喜ばせる(人の喜ぶ顔が見たい)
・愛情(私を大切に思ってくれる人たちがいる)
・感謝(私は、人生において感謝することがたくさんある)
・親切(私は日々の生活において、他者に親切にし、手助けしたいと思っている)
③「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
・楽観性(私は物事が思い通りにいくと思う)
・気持ちの切り替え(私は学校や仕事での失敗や不安な感情をあまり引きずらない)
・積極的な他者関係(私は他者との近しい関係を維持することができる)
・自己受容(自分は人生で多くのことを達成してきた)
④「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
・社会的比較思考のなさ(私は自分のすることと他者がすることをあまり比較しない)
・制約の知覚のなさ(私に何ができて何ができないかは外部の制約のせいではない)
・自己概念の明確傾向(自分自身についての信念はあまり変化しない)
・最大効果の追求(テレビを見るときはあまり頻繁にチャンネルを切り替えない)
◯ポジティブ心理学との違い
・4つの因子は、過去の幸福研究から、幸せに関連する項目を徹底的に洗い出し、それをアンケートにして日本人1500人に回答してもらい、その結果をコンピュータにかけて多変量解析によって求めたもの。この点がこれまでのポジティブ心理学と異なる点。
・ポジティブ心理学では、幸福の心理学について熟知した心理学者たちが、幸福の要因を導き出し、それをもとに幸せになるためのコツを解いたもの。しかし、幸福の要因を導く方法は、熟練したエキスパートの知識と直感に基づかざるを得ない。
◯たくさんの友人よりも多様な友人を
・「親密な他者との社会的なつながりの多様性(多様な人と接すること)と接触の頻度が高い人は主観的幸福が高い傾向がある一方、つながりの数(接する人の数)は主観的幸福にあまり関係しない」という結果がある。
・友達(親密な他者)が多いかどうかはあまり幸福に関係ない。多様な友達がいることは、幸せと相関がある。同じような友達がたくさんいる人よりも、多様な友達がいるということは、幸せと相関がある。
・だから仕事のつながりだけ、とか地域のつながりだけ、ではなく、多様な他者と親密になることが幸せの第一歩。
◯「普通の人」より「変人」になろう
・「人の目を気にしない」人は、人との比較によって得られる幸福の持続性が低い地位財(金、モノ、名誉など)を目指さない傾向があるため、相対的に非地位財を目指す人が多く、結果として、持続する幸福を手に入れている確率が高いのかもしれない。
・幸福な人は、すでに満ち足りているので、自分のやり方に自信があり、その結果として人の目が気にならなくなるのかもしれない。
・ささやかでも自分だけの成長と自己実現による充実感を手に入れ、多様な友達を持ち、楽観的によく笑い、人の目は気にせず、楽しく生きた方がいい。その極限が変人。
この後の巻末にある「幸せカルタ」と「幸福に影響する要因48項目」が、これまたいいんです。幸せの定義は人それぞれですが、そのアプローチを押さえておけば、汎用性が高まり、人にも伝えやすくなります。幸福を目指すのではなく、プロセスにおいて視点や発想を多様化し、気がついたら、「なんだか幸せ!」って思えるようになったらいいと思いませんか〜。そんな、人に伝えたくなる一冊でした。