『対立の世紀 グローバリズムの破綻』(イアン・ブレマー)
地政学が注目されて脚光を浴びている著者。『「Gゼロ」後の世界』などの著者としても有名です。本書は、単に問題を理解するためだけではなく、先に進んでいくために一緒にできることがあるというという点を明らかにすることを目的とし、ポピュリズムの原動力になっている様々な力、そしてそれを軽視する政治家たちを痛い目に遭わせかねない力に対して先手を打つ方策を示している。未来に対する支配権をめぐる闘いの物語です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯経済的不安:苦境に立つ中間層
・グローバル化は、生産およびサプライチェーンを資源(原材料と労働力)の安い地域へと動かし、新たな経済性を生み出す。豊かな国からの資本流入は、発展途上地域に真にグローバルな中間層を初めて生み出した。先進国では、このプロセスにより手頃な価格の商品が店頭に並ぶことになり、一般消費者の購買力が高まる。しかし、同時に、企業が貧しい低賃金労働者へのアクセスを得ることにより、生計が立てられなくなり、生活を脅かされる人々も出てくる。
・AIが職場に導入されることは、未来の働き方にとってどういうことを意味するのだろう。中間層にとってはどうか。これはつまり、仕事がなくなっていくということであり、中間層が減っていくということ。技術的変化が生み出す雇用がそれによりなくなる雇用をいずれは上回ることになっていくとしても、解雇された人々が、技術的にさらに複雑になるであろう将来の職業に就くために必要な教育とトレーニングを受けられる、と自信を持って言う理由が見当たらない。
・生活を脅かされた人々は、自分たちの問題の責任を押し付ける対象を探し、その対象を厳しく批判する。そしてこうして経済的恐怖心からは、また別の種類の恐怖心が生まれる。
◯文化的不安
・グローバリズムが恐怖心を作り出す2番目のケースは、アイデンティティが核となるもの。グローバル化は、単に工場で作られた製品を動かすだけではない。人をも動かし、コミュニティ内の人種・民族・言語・宗教の構成に変化を加えることにより、国民の不安を煽る。
◯経済発展の軌跡
・成功する新興国は、似たようなパターンをたどって発展を遂げる傾向がある。まず人口の大部分が田舎に住む貧しい国として始まる。
・次に、若者たちが自分自身と家族の生活を支えられる収入を求めて都市部へと移り住む。その時彼らは、働く準備はできているが、高収入を要求できる立場にはない。
・安価な労働力が急増すると、労働者に対する賃金がはるかに高い国に工場を所有している製造業者たちからの注目が集まる。新しい工場が建てられ、新しい仕事の噂は田舎まで広まり、さらに大勢の貧しい若者たちが都市部へと押し寄せることになる。これも今ではおなじみとなった話だ。
・問題は、人口増加の重みに都市がたわみ始める時に起こる。あまり財政が豊かではない政府は、新たに増えた人口時対応するような新しい道路、橋、公共交通機関、そして公立の学校や病院を建設できるような資金を持っていない。
・そうした支出に耐えられる政府も、インフラ整備への投資は都市部のさらなる人口増加を誘い、一層多くのインフラが必要になることに気づかされる。うまく統治されている国は繁栄するが、統治がうまくいっていない国は犯罪や汚職の巣窟となり、国民の怒りと抗議活動を惹起することになる。
・国の発展の次のステージは、貧しい労働者たちが賃金の引き上げと労働条件・生活環境の改善を求め始めた時にスタートする。今までそれらの国には存在しなかった消費者階層が現れる。賃金が上がれば、外国の企業にとってその国の魅力が失われる。
・だが、政府が有能で改革志向の国は、適応できる。買ったものであれ、発明したものであれ、盗んだものであれ、新しい技術が労働者一人ひとりの生産性を高め、そのことが付加価値の高い洗練された財・サービスの提供につながり、賃金がさらに押し上げられることになる。そして低コストの製造業に始まった大転換が真の中産階級の誕生により完成する。
◯注目すべき12の途上国(詳細は長くなるので本書にて)
①南アフリカ:若年僧に溜まる不満
②ナイジェリア:人口の60%が貧困に苦しむ
③エジプト:人口急増が招く食糧危機
④サウジアラビア:「ビジョン2030」は成功するのか
⑤ブラジル:ブーム去りし後に残された対立
⑥メキシコ:汚職、犯罪、そしてトランプへの不満
⑧トルコ独裁色を強めるエルドアン政権
⑨ロシア:停滞する経済、上昇する貧困率
⑩インドネシア:「ジョコウィ」の改革は成功するか
⑪インド:機械化・AIで7割の仕事が消える
⑫中国:サクセスストーリーの裏にある陰
◯技術革新が消す「移民のメリット」
・この先、雇用の創造がセンシティブな問題になっていくのにつれて、発展途上国においてすら移民が争いのもとになっていくはずだ。ちょうど同じ危機に苦しむベネズエラからの人々の流入が、ラテンアメリカにおいてすでに問題となっているように。
・1つの重要な点として、将来の移民論争は、これまで耳にしてきているものとは違うものになるだろう。これまでは、移民制限に対する明らかな反論があった。例えば移民を支持するアメリカ人は、道徳的な議論より現実的な関心事項や経済的な動機の方に動かされやすい人々がいることを知っているので、ほかのアメリカ人が嫌がる単純労働を引き受けるのに移民が必要だと主張してきた。
・今の議論は、多くはラテンアメリカからの移民からなる低賃金の建設労働者のおかげでアメリカの産業活動が底上げされている、というものだ。しかし、我々はすでに、1台の3Dプリンターがほんの数時間でビルの土台をこしらえることができる世界に住んでいる。この種の技術へのアクセスがある国では、どんな産業にせよ、より単純で、より低賃金な労働への需要がこの先何年かのうちに急速ちのに減少するだろう。
・移民へのより開放的な姿勢を保つことに賛同する道徳的かつ文化的見地からの議論はいささかも力を失ってはいないが、経済的見地からの意見は破綻をきたしつつあり、それは経済の推進力として外国人移民労働力を取り入れることが必要なドイツやイタリアのような、急速な高齢化が進む国においてさえ言えることだ。
ちょっと難しいところも多いのですが、視野が広がり、未来を世界規模で考える視点を与えてくれる一冊です。私も一読では掴みきれず、とりあえず最後までたどり着いたというレベルです。また、読み返す必要性を感じました。たまに、世界規模で広く、そしてこの先長い未来を考える時間も大事だと思いました。
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