MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

龍馬史(磯田道史)

『龍馬史』(磯田道史)(◯)

 龍馬は、書いた手紙が個性的であまり面白かったために、その人間的魅力が余すところなく、後世の日本人に伝わり、今日の龍馬人気になっている。だから龍馬を知るには、まず「龍馬の手紙」を読む必要がある。本書は、坂本龍馬が書いた手紙をもとに、龍馬の人柄に迫った一冊です。

 文庫本で読みやすいですし、内容がよくまとまっているので、「坂本龍馬ってどんな人だったの?」ということを知るのに適した一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯龍馬の人生の区分

①土佐時代

②江戸での剣術修行時代

③脱藩から勝海舟と出会い海軍に目覚め、亀山社中を結成した時期

④死までの最後の2年

 

◯大言壮語する性格

・黒船警備に当たり、刀を振り回して異国人の首を取る。幕末の素朴攘夷主義の中にいた。明るく豪快な人物だったことは間違いない。龍馬は一見粗暴に見えるが、繊細で優しく、気遣いの人だった。

・自分は強運で死のうと思っても死ねない。ここに早くも、龍馬最大の長所であり、同時に欠点が現れてしまう。運が良いから自分だけは死なないと過信している。龍馬は常に自分だけは死なないと根拠のない自信を持っていた。

勝海舟のことを「日本第一の人物」と表現し、その弟子になったと自慢げに書く。脱藩した龍馬が、自分が生きていく道をはっきり見つけた瞬間に書かれたものだと言っていい。

 

◯人を見極める力

・思うに、龍馬には、その藩や組織の中で、「あいつのいうことだったらしようがない」と言われるような人、誰もが納得させられてしまうような人を見つける能力があった。いわば、組織の中の”主軸”になる人間を見つけ、そういう人間と付き合っていく。勝、木戸、西郷、岩倉みな主軸の人間。龍馬が身分も立場もない一介の浪人でありながら、幕末史の中で重要な仕事ができたのは、この主軸になる人間と付き合うという行動パターンが影響しているように思う。

 

◯二面性

 二面性を持つことが、一介の藩士、あるいは一介の浪人に過ぎなかった龍馬が時代を動かす原動力となりえた大きな要因だったと言える。

①物事を自ら果敢に実行する実践家としての側面

②周りの環境に合わせて思想を変えてゆくという柔軟さ

 

◯龍馬の真価は「坂本海軍」の実現

薩長同盟の仲立ちと大政奉還は、必ずしも龍馬の独創ではない。

薩長同盟については、論者は他にも何人もいたし、当事者である両藩の人たちも、やはり我々が手を結ばなければダメだということは、薄々感づいていたと思う。

大政奉還についても、松平春嶽などが龍馬に先んじて提唱していた。

・こうした事績よりも重要視するのは、龍馬が誰よりも早く海軍の重要性を理解し、しかも実際に海軍を創設して自ら船を動かして実践を戦った、ということ。海軍が重要だということに気がついた人は、他にもいた。しかし、それを後先考えずに実行に移したのが龍馬。

・巨額の費用がかかる軍艦を手配して「坂本海軍」を創設し、それで商社のような形態に発展してゆく。さらには、この海軍力を持って長幕戦争においては、戦争の請負のようなことをまでする。こうした組織体を作ったのは、龍馬にしか実現できなかった掛け値なしの大きな仕事。

 

◯しがらみを越える

・龍馬は勝が直接、土佐の前藩主山内容堂に働きかけたおかげで脱藩の罪を許されている。一介の土佐藩士、しかも部屋住みの次男坊に過ぎない男が、大藩の前藩主に借金に行く。龍馬にはこうした常識や社会の旧弊、しがらみといったものを軽々と飛び越えてしまう突破力が備わっていたことは間違いない。

・こうした龍馬の「怖いもの知らず」の性向は、のちに薩長同盟を成し遂げることにもつながるが、見方を変えれば、龍馬を死に至らしめた一つの要因になったのかもしれない。

 

◯いろは丸の沈没

・長崎を出港したいろは丸は、瀬戸内の内海を航海中の明光丸と讃岐の箱ノ岬沖で衝突。龍馬は、自己の責任は明光丸側にあるとして、御三家の一つ、紀州藩を相手に損害賠償交渉を行う。

・龍馬は交渉を有利に運ぶため、「船を沈めたその償いは、金を取らずに国をとる」という歌を作り、長崎の街に流行らせて世論を味方につけようとしたとされている。龍馬のしたたかな交渉術を感じさせる逸話。

・龍馬は結果的に、83,526両198文もの巨額を賠償させることに成功する。この金額は、いろは丸が積んでいた鉄砲類の金額を加えた額なのですが、近年、鞆(とも)の浦沖でいろは丸とみられる船体の引き上げ調査がなされたところ、積荷とされていた鉄砲類は発見されなかったそうです。おそらく交渉を有利に運び、少しでも多くの賠償金をせしめるための龍馬の「はったり」だったのでしょう。これもまた、龍馬の商人的な手練主管や、権力や武士を恐れない精神を如実に表している話だと思う。

 

 今回、個人的に作っている読書会コミュニティで「坂本龍馬」をテーマにした勉強会を開催し、その勉強会にあたり、本書を読んだのですが、『竜馬がゆく』(司馬遼太郎)は8巻あり、全部読むのに相当の時間がかかりましたが(こちらは2回目)、本書は、エッセンスが数時間で読めるので、ありがたい存在でした。しかも、手紙から紐解く当たりが、論拠があって納得感があるところも腹落ちしていいですね。

龍馬史 (文春文庫)

龍馬史 (文春文庫)

 

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