MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

田中角栄という生き方(別冊宝島編集部編)

田中角栄という生き方』(別冊宝島編集部編)(◯)

 本書は、昭和を代表する総理大臣の一人、田中角栄の思想と人間哲学をまとめた一冊。ロッキード事件以降、刑事被告人となった角栄のイメージは地に堕ちてしまった。しかし、周辺諸国との対立構造が鮮明になっている現在の日本においては、角栄の目指した平和主義に再び待望論が集まっていると言って良い。政治家の目的とは何か、そして人間にとって大切なものは何か。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

田中角栄10台伝説より

①学歴なき庶民宰相

・父角次は競走馬を保有し全国各地の競馬場で出走させていたが、借金を作ると、母が親類に頭を下げて、その金を角栄が角次に届ける。雪深い村の生活母の苦労は、角栄の原体験として意識の奥底に刷り込まれていく。

・生まれつき吃音があった角栄は、漢詩やお経、法律書などを手当たり次第に音読することで、その「どもり」を克服する。そのとき覚えた知識は、その後の角栄を大いに助けることになる。

・母の3つの教え

1)人間は休養が必要である

2)悪いことしなければ住めないようになったら、家に帰って来なさい

3)金を貸した人の名を忘れても、借りた人の名前は絶対に忘れてはならない

 

角栄と3人の女

・3人の女性を切り捨てることなく最後まで面倒を見た。

・正妻であるはな夫人は、戦後、飯田橋角栄が構えた田中建築事務所の家主の娘であった。結婚にあたり、はなは3つのことを求めた。

1)出て行けと言わぬこと

2)足蹴にしないこと

3)将来、田中が二重橋を渡る時には私を同伴すること

・2人目の妻は、神楽坂の花柳界に生きた女、辻和子だった。戦後まもなく知り合った2人は、2男1女をもうけ、角栄は息子たちを認知する。

・もう一人、角栄に生涯寄り添った女性が佐藤昭子である。角栄との間には1女をもうけている。

 

田中角栄の仕事術

角栄は困難な仕事を前にしたとき、よくこのような話をした。

「政治家っていうのは、結果なんだ。多少、文句を言われてもやり通す。終わり良ければすべて良し。その覚悟がないと政治などできない。政治家が褒められるために一番良いのは何もしないことだ。何もしなければ苦情もない。しかし、川の真中に橋を作れば、上流と下流の人間から文句を言われる。仕事をするということは文句を言われるということだ」

・葬儀を経験して一人前

 世の中というのは何をもって二代目を一人前とみるか。それは葬式だ。親父の葬式をきちんととりしきれるか。それを見て判断する。情の厚かった田中角栄は、冠婚葬祭、特に葬儀を大切にした。「祝い事には遅れてもいい。ただし葬儀は真っ先に駈けつけろ。本当に人が悲しんでいるときに寄り添ってやることが大事だ」

・金は心して渡せ

 「渡すお前が頭を下げるんだぞ。少しでもくれてやる、という気持ちが相手に伝われば、その金は渡しても意味がない」「貸した金は忘れろ、借りた金は忘れるな」

 角栄は必ず自分が見ていないところで心付けを渡せと命じた。

「いいか、運転手がいる。車が着くと、運転手が降りてドアを開ける。SPが降りる。オレが降りる。最後に降りるのが秘書だ。オレが降りたとき、みんなの目が集中する。運転手を見ている者は誰もいない。そこで素早く渡すようにしろ」

・結論をはじめに言え

 用件は便箋1枚に大きな字で書け。そしてはじめに結論を言え。理由は3つまでだ。この世に3つでまとめきれない大事はない。

 

◯「人生の師」の教え

 あの「角福戦争」の時代。当時を知る議員はよく角栄と福田の違いをこう語った。「福田先生に選挙資金をお願いしに行くと、あれこれ別の話をされたうえに、最後、金額は値切られる。田中先生の場合はいきなり必要以上の金額を渡される」

 

◯小学校の恩師(校長先生)の教えた校訓

 「私という人間のすべては、この3つの校訓に親しんだ8年間に作り上げられたものだと思っている」

①「至誠の人、真の勇者」

 真心を尽くす人こそ、本当の勇者である。

②「自彊不足(じきょうふそく)」

 常に努力し怠ってはいけない。

③「去華就実(きょかしゅうじつ)

 何ごとも飾らずに実直にせよ。

 

◯選挙の神様の至言

・「戸別訪問3万軒、辻説法5万回、これをやりなさい。それをやったら改めてオレのところにこい」。ひたすら愚直に、基本を繰り返す。当選に近道はない。

・「汗を流して人様の心を頂戴しろ」

・「流した汗は決してウソをつかない」

 

◯回想録(堀田力:弁護士)

・私はもし田中さんが今の世の中にいたら、きっとうまく「調整型」の政治ができたのではないかと思います。これだけ多岐にわたる問題を調整するには昔の何倍もの勉強が必要ですが、実は田中さんはその部分も得意としていた、勉強家でしたからね。そして、調整には「説得する力」が必要になりますが、これも田中さんは抜群でした。違う価値観の人間、ときには対立する人間をも仲間に引き込み、物事を前に進める。

田中角栄さんが今もなお根強い人気を誇っているのは、今の日本人が見失いがちな大切な部分が田中さんの精神性にあるからだと思います。なぜ政治家になったのか。新潟の貧しい人たちを豊かに、幸せにしてあげたいという原点、志があの人にはあったわけですよね。

 

 読むだけでエネルギッシュな人柄が伝わってきます。人と人の心がどうやって繋がるかを知って、実践して、心をつかむ天才だなと思いました。偉人探求の読書会でテーマにしてほしいという声が多い、田中角栄さん。読んでみて、なるほどー、それはおもしろそうって感じました。

田中角栄という生き方 (宝島SUGOI文庫)

田中角栄という生き方 (宝島SUGOI文庫)

 

f:id:mbabooks:20180724072443j:plain