MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

河合隼雄スペシャル(NHK100分de名著シリーズ、著:河合俊雄)

河合隼雄スペシャル』(NHK100分de名著シリーズ、著:河合俊雄)

 河合隼雄さんは、人々の悩みや病に寄り添い、半生をかけて心の深層を見つめ続けた臨床心理学者。臨床での経験や知見を礎として、日本人の精神構造や日本の文化を独自の視点で洞察した。実に200冊を超える著作があることでも、その功績の大きさがわかります。本書は、第1〜2回は「ユング心理学入門」、第3回は「昔話と日本人の心」、第4回は「ユング心理学と仏教」に分けてまとめられています。

 

(本書より・・印象に残ったところ)

◯「ユング心理学入門」

・1966年に京都大学で行なった全13回の講義を骨子としている。

・(例)恋人が交通事故死した場合

1)自然科学「How」

 どのように死んだのか?⇨「頭部外傷によって」「出血多量により」・・解答を与える⇨質問者を満足させない

2)心の医者「Why⇨What」

 なぜ死んでしまったのか?⇨「私たち2人を引き裂いた死とは何か?」・・解答を与えるのではなく、「解決」を共に探る⇨質問者の心が鎮まる

・科学的な理論や哲学的な真理に当てはめて考えるのではなく、目の前のクライエントの心理現象と向き合い、その人の「素朴にして困難なWhy」に答えていくつかの心理学であり、ユングの目指した心理療法だということ。

・クライエントの心を縛り付ける「Why」の鎖を共に辿り、その人を揺り動かしている情動が収まって心のバランスを取り戻していく過程を”共に歩む”のがセラピスト(心理療法家)の本領。

・解決に至る道をクライエントと共に探し、歩んでいくには、相手を客観的に「観察」するのではなく、主体的に関わり、その人の心に起きている現象を共に「経験」する必要がある。

 

ユングがたどり着いた「タイプ論」

・人間には異なる2つの一般的態度がある。ある人の関心や興味が外界の事物や人に向けられ、それらとの関係や依存によって特徴づけられている時、それは外向的と呼び、この逆に、その人の関心が内界の主観的要因に重きを置いているときは、内向的といい、両者を区別した。

 

◯無意識は意識を補償する

・外向型の人は常に適当に行動できるのに対し、内向型の人はどこか、ぎこちない感じがつきまとう。

・外向型の人は、それほど深く考えないのに、適当に話しかけ、適当に黙り、まるでその場面に前からずっといたかのように、全体の中に溶け込んで振舞うことが出来る。

・内向型の人は、当惑を感じ、こんなことを言っては笑われるかもしれぬと思って黙り、ときには「こんなときは、賑やかにしなければならない」などという考えにとらわれて、馬鹿げた行為をしてしまって、あとで一人後悔してみたりする。

・重要なのは、すべての人が、外向、内向、両方の資質を備えていると指摘している点。

・意識の態度が一般的に外(内)向的な人は、その無意識の態度が内(外)向的で、もし意識の態度が強調されすぎると、後者がそれに対して補償的に働く。

 

◯自我とは

・自我は意識の中心である。

・一方で自己は意識と無意識とを含んだ心の全体性の中心であるとユングは考えた。

・人間の心には3つの層がある。

①自我を中心とする「意識」の層

②個人的な経験から成り立つ「個人的無意識」の層

③心の最も奥深くにある「個人的ではなく、人類に、むしろ動物にさえ普遍的」な無意識な層。

・価値体系において、「悪」とされてきたものがその人の影であり、人間にはそれを無意識の中に封じ込めようとする傾向がある。「影」とは、「個人の意識によって生きられなかった反面、その個人が容認しがたいとしている心的内容」。

・自分の影と直面するというのは、想像以上に辛いもの。影を肯定していくことは、ある意味で今までの自分を否定することでもある。その耐え難い苦痛から逃れるため、大抵は影を抑圧し、影との交流を務めて避けようとする。しかし、抑圧を強めれば強めるほど、影はより暗く、より強くなり、やがて自我への反逆を企てるようになる。

 

◯心の中の「異性像」が語りかけるもの

・男性であれば女性像(アニマ)、女性であれば男性像(アニムス)が心理的に大きな意味を持ち、これは、私たちが社会に対して見せる顔「ペルソナ」と一対を成している。

・社会に適応して生きていくには、男性は男性らしく、女性は女性らしく、また教師は教師らしく振る舞うことが、明に暗に求められます。こうした「外」の世界に対して私たちが見せるペルソナに対し、自分の「内」的世界で見せる態度がアニマ・アニムス。

 

◯東洋の心と西洋の心

ユングは、西洋の意識が外交的なのに対し、東洋の意識は内向的で外界よりも”心の中の現実”に強い関心を向けていると指摘している。また、西洋人が「心」という場合には「意識」を考えるのに対し、東洋人は「無意識」をさしているのではないか。

ユングは、意識の中心である「自我」に対し、無意識を含めた全体としての心の中心を「自己」と呼んで区別していた。つまり、西洋では自我に、東洋では自己に心の中心点があるのではないかと考えていた。

・自我を中心として意識が明確な輪郭を持つと、そこには無意識との対決や統合の苦難が生じますが、境界が曖昧な東洋的意識構造ではシビアな対立は起こりにくく、あらゆるものを、ありのまま受け入れていく態度に結びついていく。

 

 今回は、第1〜2回の「ユング心理学入門」の気になったところを抜粋しました。私にとっては、それでもまだ「ユング心理学」は難しい領域ですが、100分de名著シリーズは、さらにそれを易しく解説しているので、かなり入りやすくなっています。この100分de名著シリーズはいい本が多いので、「気になるけど、読んでいない本」を読むきっかけとして秀逸だと思います。

河合隼雄スペシャル 2018年7月 (100分 de 名著)

河合隼雄スペシャル 2018年7月 (100分 de 名著)

 

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