座右の書『貞観政要』(出口治明)
著者は、ライフネット生命代表取締役から立命館アジア太平洋大学学長に就任され、最近は歴史に関する著者を多数執筆されています。本書は、普段は人に「この本を読みなさい」と勧めない著者が例外的にリーダーに勧められている帝王学の教科書とも言われる『貞観政要』を解説した一冊です。
■本書の学び
①器は大きくできない。中身を捨てて空にすること
②銅の鏡、歴史の鏡、人の鏡を使う
③事実で諫める、故事を引用する、共通点を示し同意を求める
④人の成長は読書、文章、人との交流
(印象に残ったところ・・本書より)
◯『貞観政要』とは
・唐の第2代皇帝、太宗・李世民の言行録。太宗と臣下の政治上の議論や問答が、全10巻40篇にまとめられている。貞観は元号、政要は政治の要諦。貞観の時代は、中国史上最も国内が収まった時代のひとつ。
・『貞観政要」はビジネスにおける最良のケーススタディ。この本を読めば、人間が作る社会はどのようなものか、皇帝と臣下の関係はどうあるべきか、理想のリーダーになるためには何をなすべきかを予行演習することができる。
◯古典を読む前に
・その古典が書かれた時代背景を知ることが大切。
◯『貞観政要」から得られる5つのヒント
①組織はリーダーの器以上のことは何一つできない
②リーダーは、自分にとって都合の悪いことを言ってくれる部下をそばに置くべき
③臣下(部下)は、茶坊主になってはならない。上司におもねってはならない。
④君は舟なり、人は水なり。水はよく舟を載せ、またよく舟を覆す(『荀子』)
⑤リーダーは常に勉強し続けなければならない
◯三鏡
・リーダーは3つの鏡を持たなければいけない
①鏡に自分を映し、元気で明るく楽しい顔をしているかチェックする(銅の鏡)
②過去の出来事しか将来を予測する教材がないので、歴史を学ぶ(歴史の鏡)
③部下の厳しい直言や諫言を受け入れる(人の鏡)
・「銅を鏡にすれば、衣服や身なりを整えることができる。歴史を鏡とすれば、人の世の興隆や衰亡を知ることができる。人を鏡とすれば、自分の行いを正すことができる。厳しいことを言ってくれる魏徴は、鏡のような存在であった。魏徴を失い、私は一面の鏡を失ってしまった」
◯十思九徳
・十思
①「誠に能く欲す可きを見れば、則ち足るを知りて自らを戒むるを思ひ」
⇨分相応に満足することを知る。
②「将に作す有らんとすれば、則ち止まるを知りて人を安んずるを思火」
⇨思い出して立ち止まって考え、人民を過度に働かせない。
③「高危を念へば、則ち謙沖にして自ら牧(やしな)ふを思ひ」
⇨謙虚になって自制すること。
④「満溢を懼るれば、則ち江海の百川に下るを思ひ」
⇨大海は小さな川の水が集まってできたことを思い出し、謙虚に振る舞う。
⑤「盤遊を楽しめば、則ち三駆以て度と為すを思ひ」
⇨自ら制限を設けて、節度を持って遊ぶこと。
⑥「懈怠を憂ふれば、則ち始を慎みて終を敬するを思ひ」
⇨初心を思い出すこと。
⑦「擁蔽を慮れば、則ち心を虚くして以て下を納るるを思ひ」
⇨下の者の意見を率直に聞くこと。
⑧「讒邪(ざんじゃ)を懼るれば、則ち身を正しくして以て悪をしりぞくるを思ひ」
⇨自分の立ち居振る舞いを正すこと。
⑨「恩の加はる所は、則ち喜びに因りて以て賞を謬(あやま)る無きを思ひ」
⇨恩賞を与え過ぎてはいけない。
⑩「罰の及ぶ所は、則ち怒に因りて刑を濫(みだり)にする無きを思ふ」
⇨感情に任せて怒りをぶつけてはならない。
・九徳
①寛にして栗
⇨寛大な心を持ちながら不正を許さない厳しさをあわせ持つ
②柔にして立
⇨柔和な姿勢を持ってむやみに争わないが、自分のなすべきことに対しては必ずやり遂げる力を持つ
③愿(げん)にして恭
⇨真面目だが、尊大なところがなくて丁寧。
④乱にして敬
⇨事態を収束させる能力がありながら、慎み深く謙虚。
⑤擾(じょう)にして毅
⇨威張ったりせず普段は大人しいが、毅然とした態度や強い心を持つ。
⑥直にして温
⇨正直で率直にものをいうが、冷淡でなく、温かい心を持つ。
⑦簡にして廉
⇨細かい点には拘泥しないが、しっかりしている。
⑧剛にして塞
⇨剛健だが、心が充実している。
⑨彊(きょう)にして義
⇨いかなる困難でも正しいことをやり遂げる強さを持つ。
◯上司の器は空っぽにする
・「その身を修めるには、必ずその習ふところを慎む」
⇨つならない自尊心や羞恥心を捨てて、器の無の状態に戻す。
・器は大きくはできない
・中身を捨てて空にすると、新しい価値観、部下からの直言、新たな考え方などを吸収できる。
◯権限
・自分の役割を忘れてはいけない。君主の機能は漁をすることではない。猟師の機能をみだりに奪ってはいけない。君主が夢中になって獲物を追いかけるのは、権限の感覚がないから。
・上司は部下の権限を代行できない。これが権限を付与するときの基本的な考え方。
一部しか紹介できませんでしたが、線引き箇所多数でした。古典は難しく感じますが、著者の解説はわかりやすいので、本書も読みやすいのではないかと思います。部下がいるポジションの方なら、一度は読んでおくと良い本だと思います。