『田坂広志 人類の未来を語る』(田坂広志)(◯)
田坂広志さんの最新刊。めちゃくちゃ役立つ良書でした。
フランスのミッテラン大統領の国家顧問や欧州復興開発銀行の初代総裁を務めたジャック・アタリ博士から届いた、著者の『未来を予見する「五つの法則」』(2008年発行)の話をもっと詳しく聞きたいという手紙をきっかけにまとめられた一冊。
①未来の大きな流れを予見する十二の洞察、②その元となる考え方であるヘーゲルの弁証法の「五つの法則」、③これから起こる十二のパラダイム転換、④人類が直面する「五つの危機」についてまとめられています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯未来を予見する十二の洞察
ヘーゲルの弁証法の「五つの法則」による未来の予見方法について、ジャック・アタリ博士の要請に応えてメールレクチャーを行った十二のテーマ。
①ヘーゲルの弁証法
②SFの想像力
③複雑系社会
④パンデミック時代
⑤人工知能革命
⑥遺伝子工学
⑦経済の未来
⑧資本主義の未来
⑨民衆主義の未来
⑩宗教の未来
⑪アートの未来
⑫不死の可能性
①「螺旋的プロセス」による発展の法則
・世界はあたかも、螺旋階段を登るように発展する。
・「競り」→「ネットオークション」、「集団購入」→ギャザリング、寺子屋→eラーニング、手紙→e mailなど
・「合理化」や「効率化」が進むと、「重要度の高い機能」は十分に実現されていくため、これまで「重要度の低い」と考えられていた機能に重点が移っていき、それを実現する動きが生まれる。
②「否定の否定」による発展の法則
・現在の「動き」は、必ず将来「反転」する。
・「コスト・サービス」の競争は、必ず「知識サービス」への競争へとリバウンドを起こす。
・「価格競争」はある段階で必ず「付加価値競争」に反転する。
・ハイテクへの動きは、必ず、「ハイタッチ」へとリバウンドする。
③「量から質への転化」による発展の法則
・「量」が一点の水準を超えると、「質」が劇的に変化する。
・シェアが一定水準を超えると、自然に「事実上の標準」が生まれる。
・ユーザー数が一定水準を超えると「自己加速」が始まる。
(無料配布のフリーミアム戦略など)
④「対立物の相互浸透」による発展の法則
・対立し、競っているもの同士は、互いに似てくる。
・「リアル・ビジネス」と「ネット・ビジネス」は必ず融合する。
・「営利企業」と「非営利企業」は、互いに「社会貢献企業」へと進化する。⑤「矛盾の止揚」による発展の法則
・「矛盾」とは、世界の発展の原動力である。
・マネジメントの本質は「矛盾のマネジメント」。
・「矛盾のマネジメント」とは、「対立し、矛盾する二つの価値観の間で、「振り子」を振り続けながら、短期的には、その状況に最も適した「全体バランス」を取っていき、長期的には、個人の成長、組織の学習、社会の成熟を実現することによって、その矛盾を「止揚」していく営み。
◯これから起こる十二のパラダイム転換
①「貨幣経済」に対して、「善意の経済」が影響力を増していく。そして、新たな経済原理が生まれてくる。
②多くの消費者や生活者が、社会の変革とイノベーションのプロセスに参加するようになる。
③「政治」の分野だけでなく、「経済」と「文化」の分野でも、直接民主主義が実現する。
④言葉を使ったコミュニケーションではなく、言葉を使わないイメージ・コミュニケーションが広がっていく。
⑤「考える」ことを重視する文化と、「感じる」ことを大切にする文化が融合していく。
⑥誰もが、自分の中に眠る幾つもの才能を開花できる「ダ・ヴィンチ社会」が到来する。
⑦誰もが、自分の中に隠れている「複数の人格」を表現できる「脱ペルソナ社会」が実現する。
⑧単一価値の「イデオロギー」の時代から、さまざまな価値観を受容する「コスモロジー」の時代に向かっていく。
⑨排他的な「一神教」の時代から様々な宗教が共生する「新たな多神教」の時代が始まる。
⑩「機械的世界論」に基づく科学ではなく、「生命論的世界観」に基づく科学が主流となっていく。
⑪現代文明の「科学技術」と古い文明の「生命論的な叡智」の融合が起こる。
⑫東洋文明と西洋文明が互いに学び合い、21世紀の「新たな文明」が生まれてくる。
◯人類が直面する「五つの危機」
「否定の否定」による発展のプロセス(=反転)が起こっている。
①「民主主義」に向かった振り子が、「専制主義」に戻っている。
②「経済平等」に向かった振り子が、「経済格差」に戻っている。
③「世界平和」に向かった振り子が、「戦争危機」に戻っている。
④「世界経済」に向かった振り子が、「一国経済」に戻っている。
⑤「科学技術」に向かった振り子が、「宗教倫理」に戻っている。
田坂さんが他の書籍でも述べられている、世の中は螺旋階段上に進歩していくという考え方が詳しく理解でき、ものすごく参考になりました。確かに、人類は片方に触れるとどこかの時点で逆方向の大切さがクローズアップされ、いつの間にか、正反合わせて昇華して、新たな価値観を生み出していくように思います。「正反合→正反合」とどんどん昇華していく様は、まさに螺旋階段。思い当たるいろんな出来事を本書に当てはめて考えてみると、腹落ち感があると思います。