MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

2040年の日本(野口悠紀雄)

『2040年の日本』(野口悠紀雄)(◯)

 日本政府の多くの予測は、内閣府による「財政収支計算」におけるマクロ経済の予測(一般的にザクっと「2%成長」とか言われているもの)に基づいているが、実際にデータ分析を行っていくと到底難しいだろうというところから始まり、20年後はどんな日本になっているのか?ということについて掘り下げた一冊。とてもよくまとまっており、未来を考える上で参考になる一冊です。特に、エビデンスを求める方には、適していると思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

内閣府「財政収支計算」による経済成長率

・成長実現ケースでは、2023年度を除き2026年度まで2%を超える高い水準、その後も2%近い成長率が想定されている。

・ベースラインケースでは、2026年度までは1%を超える水準、その後も1%程度の成長率が想定されている。

・日本政府の多くの予測が、これをそのまま利用したり、外挿したりする形でなされているので、この予測は重要なもの。

 

◯成長を規定する3つの要因

・実質経済成長率=「労働の成長率」+「資本ストックの成長率」(1-α(労働分配率))+「技術進歩率」

・2020〜2030年の期間についていえば、労働力率が変わらなければ、人口の高齢化によって、労働力人口は減少。平均年齢で言えば△0.7〜1.0%程度。これを女性と高齢者の労働力率の向上で△0.5%程度に抑えることができるだろう。

・資本のストックの増加率はほぼゼロだろう。

・技術進歩率の大きさをどのように想定するかによって、将来の経済成長率の値が大きく変わる。技術進歩のいかんでプラス成長化、マイナス成長化が決まる。技術進歩が決定的に重要。

OECDの予測では、2020年〜2030年までの平均実質成長率は0.9%、日本政府の収支試算は2%を超える成長率を予測している。

→技術進歩、主としてデジタル化の進展ができれば、実質1%程度の成長ができるだろう。ただし、2%の実質成長は、難しいと考えられる。

 

◯未来の日本の地位

・人口は2040年には2020年の88%、2050年には81%になる。

・2060年、中国のGDPは日本の約10倍になる。

・今は、日本のGDPを米中と比較することに意味がある。しかし、2050年、2060年には日本のGDPは米中・インドのGDPに比べると、取るに足らない規模になる。

・一人当たり潜在GDPはほぼ韓国と同程度の水準で増加を続ける。イギリス、ドイツ、OECDの平均などのもほぼ同じ傾向。アメリカは、これより一段高い値で成長を続けるが、相対的な関係(2020年にはアメリカは日本の1.46倍→2060年は1.45倍)はほとんど変わらない。

 

◯医療介護

社会保障給付として、内閣官房内閣府財務省厚生労働省が2018年5月に作成した資料によれば、「現状投影ケース」では、2040年度の給付も負担も、2018年度の約1.60倍になる。

・15〜64歳人口は、2018年→2040年までに0.795倍になる。

・65歳以上人口は、1.101倍になる。

・負担は、全体で1.130〜1.139倍になる

→一人当たり負担は、低くて42%増加(1.130÷0.795)、高くて43%増加(1.139÷0.795)

社会保障の負担を一定にするには、給付を4分の1にするか、4割の負担増の必要がある。政府の見通しは、明確に負担調整型。一人当たり給付は、現在とほぼ同じレベルを維持し、それに必要な財源を調達すると考えられている。

・負担が4割増えるとは、112,573円→157,602円になり、勤め先収入に対する比率が、20.4%→28.6%になること。

2037年には、医療・福祉の就業者数が卸売・小売業を抜き、日本最大の産業となる。

 

 などなど、本書では、他にも、医療介護技術の進歩、メタバース、自動運転、再生可能エネルギー核融合発電などのテーマについて、掘り下げられています。データの裏付け、そして政府や省庁の発表した資料をどのように考えるのかという点がとても参考になる一冊でした。未来の財政は高齢化社会と人口減少により想像以上に厳しいと考えられますが、一人当たり潜在GDPで見れば、それでも豊かさはあまり変わらないように感じます。ただし、働き方、収入の得方は大きく変わっていくので、この変化についていかないといけないですね。