MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

地銀と中小企業の運命(橋本卓典)

『地銀と中小企業の運命』(橋本卓典)

 著者は、共同通信社編集委員。2016年に刊行された『捨てられる銀行』がベストセラーになったことでも有名です。本書は、地域が持続可能であるために行動する事業者と、企業を「自分事」として支える地域金融機関という、地域の未来のために行動する「当事者たち」の話を追った一冊。これからの地域金融機関と企業の関わり方、あり方を考えることに役立つ内容です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯「地銀再編」では解決しないこと

・「真に頼りにする銀行」を選ぶ時、重視しているのは貸出金利の低さではない。好調な時には、成長のための的確な助言を与え、気づかぬ課題に対して注意を喚起し、苦境に陥っても経営改善に向けて親身になって相談に乗ってくれる銀行。これこそが、本来銀行が提供すべき「付加価値」。

・人口減少が進む地域の生産性向上に必要な手段とは、銀行・企業に真の変革をもたらす経営者の数を増やすこと。銀行の数を減らすための「地銀再編」を手段化(≒目的化)してしまうと、付加価値や生産性向上のために変革する意志も能力もない、いわば半ゾンビの銀行や企業を残存させるだけの中途半端な結果を招きかねない。

・金融機関が最も苦手とするのが、「多種多様な中小企業の課題解決」。そのためのうってつけの参考資料となるのが、2022年12月に金融庁が公表した「業種別支援の着眼点」。

 

◯ゼロゼロ融資40兆円という時限爆弾

・「ゼロゼロ融資」の融資実績は40兆円超にも積み上がった。「ゼロゼロ融資」の1〜2割でも回収不能となれば、単純計算で4兆〜8兆円が公的負担として跳ね返る。

金融庁が2021年4月に行った中小企業アンケートでは「今後金融機関から受けたい支援」として、全体の5割が「取引先・販売先の紹介」を求めていた。多くの企業が「収益力改善」を望んでいる。そのような企業に対し、地域金融機関は実効的な支援ができていないのが現状。

・「ゼロゼロ融資」によって、今や中小企業の実質的な最大債権者は「国、国民」となった。一方、「企業支援の担い手」であるはずの地域金融機関は「プロパー融資」を減らし、企業支援が「他人事」となりかねない。この「ねじれ構造」にこそ、「ゼロゼロ融資」問題の本質がある。

 

◯事業承継問題

中小企業庁に寄れば、2025年までに、平均引退年齢の70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に達する。約半数の127万人は、「後継者未定」。「日本企業全体(367万社)の3分の1が消滅する未来」が現実を帯びている。

 

ゾンビ企業などない

・「経営改善をやってきて言えるのは、『ゾンビ企業』など見たことがないということ。改善余地があるのに経営支援を行なっていないだけ。特に取引金融機関は、経営改善支援を行えば、債務者区分のランクアップによる引当金の戻り益が発生するにも関わらず、どうして傍観しているのかと申し上げたい」(板橋区立企業活性化センター長兼経営改善チーム長)

 

◯経費削減の着手について

・「粗利は最後の最後に手をつけるもの。粗利をいじるということは、つくるもの自体を変えることになる。つまり、取引先の社長をいじる(調達先を変える)ことで『味が変わる』かもしれない。これまでの馴染みの客をいじる(販路を変える)ことで『固定客が変わる』かもしれない。粗利をいじるということは、リスクの大きい影響を及ぼしかねない。だから、下の経費から手をつけるんだ」「数字の先にいる人との関係、人の動きがどう変わるのかまで考えぬけ」(山梨中央銀行小淵沢支店長)

 

◯自分事の企業支援

・どうしたら中小企業の行動変容につながる企業支援ができるのか。「現場で私たち地域金融の人間が同じ空気を吸うこと」(浜松いわた信用金庫職員)

 

 地域の企業があっての金融機関ということを考えると、共存共栄。世の中の環境は、時と共に変化していきますが、環境に関わらず、ともに成長し続けられる関係を続けていくことが大切ということなのでしょうね。