MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

世界インフレの謎(渡辺努)

『世界インフレの謎』(渡辺努)

 著者は、東京大学経済学研究科教授。本書は、最近の世界的インフレの謎に迫る一冊。なんとなくニュースを見て、「ウクライナ情勢に端を発した世界情勢の変化によって小麦やエネルギーの不足に始まり、モノの値段が急騰してきている」というくらいに思っている方が多いのではないでしょうか。本章では、第一章の中で、「米国や英国、そして欧州のインフレは、実は2021年の春からすでに始まっていた。戦争が起こる前に始まっていたのだとしたら、それはすなわち、戦争が原因ではないことの明確な証拠になります」という話から始まります。では一体なぜ世界的インフレが起きたのか、世界的インフレにより日本では何が問題となるなのかといった点についてまとめられています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

中央銀行が2021年の物価上昇を無視した理由

・各国の中央銀行は、当時、この物価上昇は長続きしないと言い続け、特段の対応を行わなかった。

・当時は、新型コロナウィルス感染症対策のためのロックダウンからいかに経済再開を果たすかが課題となっていた。その取り組みを阻害することがないよう、金融引き締めをできる限り避けたいという考えがあったのだろう。

 

◯2020年に起こったこと〜グローバルなシステムの危機

パンデミックは、世界の生産設備や物流拠点といった、人が「密」になる場所を直撃し、ほうぼうでグローバルな供給を寸断させた。

・グローバルなモノの供給網が寸断されて、各地で様々な商品が品薄となってしまうと、何が起こるか。それは価格の高騰。

 

◯ありえない同期という現象

・通常人々の経済行動は同期しない。誰かがレストランに行かなくなると、その分空席ができ、もしかすると接客が丁寧になるかもしれない。そうすると、誰か別の人がレストラン行ってみようと考える。通常であれば、「捨てる神あれば拾う神あり」で、誰かが何かの行動を取れば、それとは真逆の行動を別の誰かが取ることになる。こうしたメカニズムによって、経済は全体としては安定が確保される。

パンデミックによって、人々の行動が同期した理由は明白。世界中のすべての人にとって、ウィルスが共通の敵だから。

 

◯「フィリップス曲線」の異変

フィリップス曲線とは、経済学者ウィリアム・フィリップスが英国のデータを使って1958年に発見した、失業率とインフレ率の関係を示したチャートのこと。横軸に失業率、縦軸にインフレ率をとって過去のデータを置くと、失業率が高いときにはインフレ率は低く、失業率が低いときにはインフレ率は高くなるという傾向が読み取れる。点の集合体は右下がりの曲線に見えるため、フィリップス曲線と呼ばれている。

・雇用が増えすぎると物価が上がってしまうので、Fed(米国中央銀行)は金融引き締めを行って景気を冷やそうとする。逆に、不況で失業率が上がるとインフレ率が下がり過ぎてしまうので、Fedは金融緩和を行なって景気を回復させようとする。

・2020年までは大雑把に、失業率を1%ポイント改善させるとインフレ率が0.1%ポイント上昇していた。しかし、2021年以降のデータでは、失業率が2%改善する間に、インフレ率が2%→5%と3%高まった。このデータが過去の傾向に乗っていないことは明らか。

・現在のインフレは、経済全体の需要が、供給を大きく上回っているという不均衡によるもの。今回のインフレの原因が、需要の過多ではなく、供給の過小であることを示している。

 

◯インフレ率を決める3つの要因

フィリップス曲線を数式で書くと次の通り。

 「インフレ率=インフレ予想ーα×失業率+X」

・インフレ率:実際に観察されるインフレ率

・インフレ予想:人々が先々インフレはどうなるのかと予想した数字

・α:定数で、この値がフィリップス曲線の傾きを表す。言い換えれば、失業率の変化がインフレ率にどれだけの影響を及ぼすかは、このαの値によって決まっている。

・X:インフレの供給要因。例えば、地震で工場の機械設備が壊れてしまうと、仮に労働者が無傷だとしても、工場の生産量は落ちてしまう。

・2021年以降、Xが何らかの理由で増加し、その結果、フィリップス曲線が上へ上へとシフトし、それが高インフレを産んだのではないかというのが著者の仮説。

・「中央銀行エコノミストは、需要サイドについては知見の蓄積が豊富だ。しかし、供給サイドについては知見の蓄積がなく、いまだにブラックボックスのままだ」(BIS:国際決済銀行のアウグスティン・カーステンス総支配人)

 

 この春から異動で業務内容がガラッと変わり、マクロ経済を学んでいく必要が生じました。普段新聞やニュースでよく見聞きするキーワードも理解を深めることでさらに読み方が変化し、現状や先行きについても想像を巡らせることができるようになっていくのだろうと思います。基本知識は基礎練みたいなもので、理解することはスタート地点。そこから先が問題ですが、まずはしっかりと知識習得(足場がため)をしていこうと思います。