『問い続ける力』(石川善樹)
「◯◯では・・」の「では派」(出羽の守<かみ>)。「◯◯とは・・」の「とは派」。あなたはどちら派?前者は他人の意見を持ってくるタイプ、後者は自分の意見を求め続けるタイプ。本書では、もちろん後者の「◯◯とは・・」と問い続ける力について深掘りした一冊です。前半は著者の解説、後半は「◯◯とは・・」を探求するその道のプロたちとの対談という構成。解説にも対談にも学びがあり、スッと読める一冊です。考える力を磨きたいと思う方には、入りやすい内容だと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯「イノベーションを起こすために、どのような問いを立てるのか?」という質問に対するイーロン・マスクの回答
・「僕らは普段の生活では、いちいち基本原理に立ち戻って考えることはできない。そんなことをしていたら、精神的に参ってしまうからだ。だから、僕らは人生のほとんどを、類推や他人の真似をするだけで過ごしている。だが、新しい地平を切り開いたり、本当の意味でイノベーションを起こそうとしたりしている時には、基本原理からのアプローチが必要になる。どの分野にせよ、その最も基本的な真理を見つけ、そこから考え始めるしかない・・・まぁこれは、とても精神的に疲れることだけどね」
◯演繹と帰納
・「基本原理に立ち返る」というイーロン・マスクの発想は、もともと科学からヒントを得ている。というのも科学者は伝統的に「演繹」か「帰納」のどちらかに従って問いを組み立てるのだが、「基本原理に立ち返る」というのは前者の発想。
・この二つの発想法は、どちらか一方が優れているというものではなく、目的に応じて使い分けることが重要となる。例えば「演繹」という発想は、イーロン・マスクが言うように、「新しい地平線を切り開く問い」に辿り着く。一方で「帰納」と言う発想は「困難を乗り越える問い」を生み出してくれる。
◯イノベーションの種となる問い
・「大きな視点」と「小さなディテール」を高速で行ったり来たりすることでしか生まれない。
◯考えるとは何か
①いかにして考え始めるか?
②いかにして考えを進めるのか?
③いかにして考えをまとめるのか?
◯長沼伸一郎氏(数学者)との対談より
・「巨匠は制限のうちにおいてのみ現れる」(ゲーテ)
・例えばシンセサイザーとヴァイオリンを比べた時に、出せる音色はシンセサイザーの方がはるかに多い。ところがヴァイオリンのように制約のある音しか出せない楽器を使った方が、かえって名曲を生み出すことができる。広すぎる問題を考える時には、一旦制約のあるところで考えてみて、そこで得られたものを拡大するのがいい。
・「考えろ」と命令する人は、制約を与えるべき。
・自分が漠然とした問題を考えようとしていることに気づくこと。多くの人は「自分が何を目的としてものを考えるべきか」を省みる必要を、あまり感じていないんじゃないか。
◯出口治明氏(立命館アジア太平洋大学学長)との対談より
・じっくり詳細を詰めていくと、問題がどんどん複雑にややこしくなっていく。「要するに何や?」という全体像が見えなくなってしまう。
・統合が必要。一旦広げて、どこかでまとめてシンプルにする。素人から見ると、学問世界が広がりすぎ、細分化されすぎて、要するに何だったのかということが誰もわからなくなっている。
◯御立尚資氏(ボストンコンサルティンググループシニアアドバイザー)との対談より
・物事を対局的に見るためには、視点、視野、視座の3つを行き来しないといけない。視点がなく、視座だけ持っていても誰も説得できない。
・例えば時間軸で言うと「この人はいい経営者だな」と思う人は、1000年の感覚、100年くらいの感覚、30年ぐらいの業界の栄枯盛衰、5年ぐらいの中期ビジョン、今年の予算という様々な時間軸を行ったり来たりしている。
「◯◯とは・・」を問い続けると、禅問答的な感じにもなりそうですが、そもそも自分の頭で考えるということは、そういうものなのだと思います。答えのない世界、永遠に問いが続く世界。その考える力が、情報に流されずに自分の頭で考え、本質を自分で捉えることができる力に結びついていくのでしょう。お仕事も同じ。与えられたものをきちんとこなすステージを卒業したら、次は、答えのない世界へ。問い続ける力を持つということは、マネジャーや経営者に必要な要件のひとつになると思います。