MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ポジショニング(アル・ライズ、ジャック・トラウト)

『ポジショニング』(アル・ライズ、ジャック・トラウト)(◯)<2回目>

 著者は、フィリップ・コトラーと並ぶ世界屈指のマーケティング戦略家。著者の書籍は実務を踏まえた核心的な内容の書籍揃いで、日本語訳されているものはほぼ読んでいますが、本書は『フォーカス』『売れるもマーケ、当たるもマーケ』と並び読みやすく、内容も濃い良書だと思います。2008年発売ですが、今でも十分活用できる内容、いやむしろ今のような情報が加速で的に増え、情報を発信しても埋もれる時代の方が本書の内容は生きてくると思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯ポジショニングとは

・「情報が溢れかえる現代社会で、人々にメッセージを届ける」という難題を解決する最も有効的な考え方。

・ポジショニングは商品から始まる。商品そのものに手を加えるわけではなく、消費者の頭の中に商品を位置付けること。基本手法は、「消費者の頭の中にあるイメージを操作し、それを商品に結びつける」こと。

・情報社会でベストなコミュニケーション法、それは、メッセージを単純にすること。

・物事を「反対から」見る習慣をつけること。発信する側ではなく、受信する側、相手の頭の中に求める。

 

◯頭の中に忍び込む

・消費者の頭の中に入り込む簡単な方法は「一番乗り」すること。

・情報社会では、人の頭脳は「容れ物として小さすぎる」。

・あらゆる広告が目指す目標の一つは「期待をかき立てる」こと。

・独自のポジションを見つけるには、既成の論理を無視するのがコツ。既成の論理は、「何らかのコンセプトを見つけるには、自分の内面や商品の内容をとことん見つめよ」というが、それは真実ではない。見つめるべきは消費者の頭の中。

・成功したいなら、ライバルのポジションを無視してはいけない。

 

◯業界リーダーになる必勝パターン

・平均的に見て、人の脳に最初に刷り込まれたブランドは、二番手のブランドの2倍、二番手は三番手の2倍のシェアを獲得する。これが歴史の常。優位性のほとんどはリーダーに集中する。

・リーダーのポジションにある限り、「私たちはナンバーワンです」といった自明の事実を繰り返す広告は必要ない。重要なのは、その市場全体を消費者に強く印象付けること。

・リーダーのポジションを確立するには、なんとしても「最初に」消費者の頭の中に入り込むことが重要だが、リーダーのポジションを維持するには「オリジナル」のコンセプトを強調することが不可欠。

 

◯追いかける側の勝ち方

・フランス語には、ポジショニング戦略を一言で表す表現がある。「穴を探せ」。穴を探してそこを埋める。

①「サイズ」という穴。フォルクスワーゲンのビートル、「シンク・スモール」。たった二語のシンプルなコピーでポジションを明確にし、「大きい方がいい」という人々の常識をつく替えした。

②「高価格」という穴。高価格はウリになる。最初にその穴を射止めた場合は。この戦略のポイントは、1)高価格のポジションを掲げ、2)説得力のあるストーリーを用意し、3)消費者が高価格ブランドを受け入れるような市場で展開すること

③「低価格」という穴。新しく登場した商品には、この戦略が向いている。

④「性別」という穴。タバコ市場で最初に「男のタバコ」というポジションを確立した「マルボロ

 

◯「工場の穴」は落とし穴

・穴探しをしていると陥りがちな誤りがある。消費者の頭の中ではなく、工場の中で穴を探してしまう。

・研究部門がどんなに素晴らしい技術を開発しても、消費者の頭の中に入るべき「穴」がなければ失敗する。

 

◯「ネーミング・パワー」

・ポジショニングの時代にあって、最も重要なマーケティング上の決断とは、ネーミング。

・まだ商品が少なかった昔は、名前はさほど重要ではなかった。だが今は違う。何気なくつけられた無意味な名前では、消費者の頭の中に切り込むことはできない。

・求めるべきは、ポジショニングを優位に進められる名前であり、消費者に何がその商品の最大のメリットかが伝わる名前。

・イニシャル(音声の省略表現、英語二文字・三文字表現など)は、一般的には、有名になるまではイニシャルは使わない方がいい。世間がイニシャル表記に反応するようになるためには、まず普通表記の社名が十分浸透することが不可欠。

 

◯シーソーの原則

・二つの異なる商品に同じ名前はつけられない。片方の売上が上がれば、もう片方が下がる。かつて、「ハインツといえばピクルス」だった。ピクルス最大手のハインツは今度はケチャップにハインツという名前を冠し「ハインツといえばケチャップ」になり、ケチャップのナンバーワンブランドとなった。しかし、シーソーの片側では、ピクルス市場トップの座を奪われた。

 

 本書では考え方とともに多数の事例が紹介されており、考え方のイメージが捉えやすい、つまり読みやすい内容になっています。実際実務で新たなポジショニングを!と考えても、すでに競合多数ひしめく中でどうすれば良いか?という点は悩ましいと思います。皆が同じように新しい切り口を探す中で、なかなかオンリーワンとは行かないようにも思いますが、それでも自分のマーケットエリアの中で独自色を出していく。そして、消費者・利用者の頭の中に自社を刻み込んでいく。ビジネスの難しさでもあり、そこがおもしろさでもあると思います。