マネジャーの実像(ヘンリー・ミンツバーグ)
『マネジャーの実像』(ヘンリー・ミンツバーグ)(◯)
大判単行本で400ページ超と読むのエネルギーが必要ですが、内容は素晴らしい一冊です。1973年に発行された『マネジャーの仕事』が元になっており、2003年にこのテーマを掘り下げる形で本書が執筆されました(日本語版は2011年発行)。29名のマネジャーの日々を観察した研究結果であり、机上のマネジャー論に物申す内容でもあります。タイトルどおり、マネジャーの実像はこうなんだ!という実像が描かれています。太字箇所だけ読んでもエッセンスが掴めて学びになります(これは読者に優しい配慮です)。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯マネジャーの定義
・組織の全体、もしくは組織内の明確に区分できる一部分に責任をもつ人物のこと。
◯マネジメントの三角形
・マネジメントは実践であり、主として経験を通じて習得される。
①アート(ビジョン、想像的発想)
②クラフト(経験、現実に即した学習)
③サイエンス(分析、体系的データ)
→かなりの量のクラフトに、ある程度のアート、それにいくらかのサイエンスが組み合わさった仕事、それは実践の行為と呼ぶのが相応しい。
・アートとクラフトだけでサイエンスがない→無秩序型
・クラフトとサイエンスだけでアートがない→無気力型
・サイエンスとアートだけでクラフトがない→現実遊離型
・アート:洞察型はアートが自己目的化する「ナルシスト型」になる危険がある。
・クラフト:関与型は、マネジャーが自分の経験の範囲内に閉じこもる「退屈型」になる恐れがある。
・サイエンス:頭脳型は、サイエンス過剰の「計算型」に成り下りかねない。
◯マネジメントという仕事の特徴
・神話:マネジャーは内省に基づいて、体系だった計画を立てる。
・現実:いつも時間に追われている。さまざまな活動を短時間ずつ、互いに関連性のない業務を細切れに行なっていて、頻繁に自分自身で物事を実行している。マネジメントとは、永遠に、一時たりとも解放されることのない仕事。
・神話:マネジャーは正式なシステムを通じて、すでに集約済みの情報を入手して活用する。
・現実:マネジャーは非公式のコミュニケーション初段を好む傾向が強い。中でも、電話や打ち合わせなどの口頭のコミュニケーションと電子メールによるコミュニケーションに頼っている。
・神話:マネジメントは主として、「上司」と「部下」の上限関係に関わるものである。
・現実:マネジメントとは、組織階層のタテの関係だけでなく、対等な人物同士のヨコの関係に関わるものである。
◯マネジャーのフレームワーク
①情報の次元
・基本設定
・コミュニケーション
・コミュニケーションコントロール
・スケジュール
②人間の次元
・(組織外、他部署には)関わること
・(組織内、部署内には)導くこと
③行動の次元
・(組織外、他部署には)取引すること
・(組織内、部署内には)実行すること
→以下このフレームワークについて、各項を掘り下げて記載されています。
◯緩衝装置になる
・マネジャーは、影響の流れをコントロールする門番と緩衝装置の役割を担う。
・5つの失敗パターン
①ザル型マネジャー:あまりにやすやすと、外部からの影響を組織内に流れ込ませすぎる。
②ダム型マネジャー:外部からの影響を自分のところでとどめすぎる。
③スポンジ型マネジャー:重圧をほとんど自分自身で受け止める。
④ホース型マネジャー:ホースで水を撒き散らすように、外部の人たちに強烈な圧力をかける。
⑤水滴型マネジャー:水がポタポタ滴り落ちる程度の弱い圧力しかかけようとしない。
◯マネジメントの基本姿勢
①業務の円滑な流れを維持する
②組織を外部環境と結びつける
③すべてをブレンドする
④リモートコントロールする
⑤組織文化を強化する
⑥戦略的に介入する
⑦ミドルマネジメント層の枠内でのマネジメント
⑧ミドルマネジメント層の枠外に踏み出すマネジメント
⑨側面から助言する
→これ以外に期間限定の姿勢として「新人マネジャーの基本姿勢」と「不承不承のマネジャーの基本姿勢」が論じられている。
◯マネジメントの13のジレンマ
(1)思考のジレンマ
①上っ面症候群
どうすれば、目の前の仕事を片付けなくてはならないと言う強烈なプレッシャーの中で、ものごとの理解を深められるのか。
②計画の落とし穴
多忙を極める仕事の場で、どうやって未来を見据え、計画を立て、戦略を練り、ものを考えれば良いのか。
③分析の迷宮
分析によって細かく分解された世界をどのようにして一つにまとめあげれば良いのか。
(2)情報のジレンマ
④現場との関わりの難題
マネジメントという行為の性格上、マネジメントの対象から乖離することは避け難い。そういう状況で、どうすれば現場の情報を途切れなく入手し続けられるのか。
⑤権限委譲の板挟み
関連する情報の多くが私的なもので、文書化されておらず、マネジャーの地位のおかげで入手できるものである場合、どのように権限委譲を行えば良いのか。
⑥数値測定のミステリー
数値測定に頼れないとき、どのようにマネジメントを行えばいいのか。
(3)人間のジレンマ
⑦秩序の謎
マネジメントそのものが極めて無秩序な活動である中、組織のメンバーの仕事に秩序をもたらすために、マネジャーはどのように振る舞えば良いのか。
⑧コントロールのパラドックス
自分より地位の高いマネジャーが秩序を押し付けてくるとき、マネジャーはどうやって「統制された無秩序」を維持すればいいのか。
⑨自身のワナ
傲慢への一線を越えることを避けつつ、適度の自信を保ち続けるためには、どのように振る舞えば良いのか。
(4)行動のジレンマ
⑩行動の曖昧さ
ややこしくて、微妙な差異が大きな意味を持つ環境でマネジャーはどのようにして決断力を発揮すればいいのか。
⑪変化のふしき
継続性を保つ必要がある状況で、どのようにして変化をマネジメントすればいいのか。
(5)全体的なジレンマ
⑫究極のジレンマ
マネジャーはどのようにして、数々のジレンマに同時に対処すればいいのか。
⑬私のジレンマ
マネジャーが直面する数々のジレンマは、すべて個別に論じられる半面、どれもねが同じように見える。この点をどう説明すれば良いか。
マネジャーの地位にある方、地位にあった方は、体験と重ねあわさえて考えされられる内容が満載です。また、マネジャーでないがマネジャーを目指す方は、マネジャーの実態を垣間見て心の準備をすることに役立つと思います。マネジャーでなくマネジャーを目指さない方も、上司であるマネジャーがどのようなことを体験しているポジションなのか、理解を示すことにもつながると思います。私個人的には15年ほどのマネジメント経験の中で、「マネジャーは矛盾をマネジメントし、人と会社の成長に貢献する人」という印象があります。完璧なマネジメント像はなく、その人の人間性と一体となり、価値観が表れる、十人十色のマネジャー像があるのだと思います。