MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

デイトレード(オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ)

デイトレード』(オリバー・ベレス、グレッグ・カプラ)(◯)

 YouTubeで紹介されているのを観て購入しました。株式のデイトレーダーのメンタル面について述べた一冊。デイトレードでの儲け方という感じではなく勝負師の心の処し方という「勝負の場における心のあり方」がとても学びになる内容です。厳しい勝負の世界の中で、参加者も強者・弱者さまざまな人たちとどう戦うのか。技術面もあるのでしょうが、その技術を活かすには、心の部分が大きいということだと思います。企画を立て、検討して、決断するという一連の流れに時間的な余裕はなく、刻々と変化する状況下で瞬時の判断が迫られる世界なので、よりメンタル面が大切なのだろうと感じた、興味深い内容でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯疑問を持つことの危険性

・トレーディングの最中に「なぜ」を問うことは、自らが悩み、そしておそらくは困惑し、結果として行動をとることができないという罠にハマっている兆候である。

・その意味で「なぜ」は危険なものである。我々は社内のトレーダーが「なぜ」と言い始めたらそのポジションを即座に半分にさせる。それでも「なぜ」が消えない場合、残りのポジションを手仕舞わせる。

・疑問を持ち出した瞬間が退場の瞬間。理由を探し回ることは、自分が負けたこと、そして、自分の行動に責任を持てなくなったことを意味する。「なぜ」を問いかけるべきは、取引を開始する前、あるいは取引が終了した後である。

 

◯自分の過去を好きになれるか

・過去は、いわば自らのネジを巻き、自らを引き締めるためのものであり、いったん自らのネジを巻くことができたならば、用済みの道具として扱われるべきである。

・新たなトレードを開始した時には、トレーダーは、過去を捨てることを学ばなければならない。過去をもって現在の無数の要素を扱うことはできない。余計な荷物は置いていこう。

 

◯欲

・大儲けを狙うことは初心者の証でもある。

・トレーディングの成功は数字を積み上げていくこと。

・熟練したトレーダーは、1回で1万ドルを狙うのではなく、1,000ドルを10回狙うだろう。1,000ドルの利益は1万ドルの利益よりは短期で低リスクで、確実に手に入るだろう。

 

◯希望

・希望は大敵である。この場合、希望はまさに行動が必要な時に行動を起こさせないように仕向けられるものである。何もしないことがその時点で最も避けなければならない選択肢である時に、希望は快適さと自己満足を与えてくれる。

 

◯熟練したトレーダーの証

・負けをコントロールすることが勝者と敗者の差。プロの指標はただ一つしか存在せず、それは少額の損失である。勝者の証はいかに勝つかではなく、いかにうまく負けるかということにある。

 

◯トレーディングにおける7つの大罪

①すぐに損切りできないこと

 すべての損失は当初は少額である。その時が損失をコントロールする時、あるいは完全に損切ってしまう時。損失が大きくなってしまうと、トレーダー自身もトレーダーの行動能力も弱まってしまう。

②利益を勘定すること

③時間軸を変更すること

 1つの時間軸で買って別の時間軸で売るという失敗。時間軸の「変更」は損切りを無視することを正当化することに他ならない。

④より多くを知ろうとすること

⑤過度に自己満足に陥ること

⑥間違った勝ち方をすること

 希望を持つことと保有を継続することは、しばしば間違った勝ち方につながる元凶となる。

⑦正当化

 

 自分の読みが失敗した時には、素直に損失を出して、損切ってしまうこと。そこで自分の当初の判断を正当化するあまり、事態をずるずると悪化させてはいけない。これが本書の言いたかったことのように思います。

 同時に多数の参加者と競っていて、刻々と状況が変化する中で決断が迫られるという場面において、いろいろな思いがよぎり、感情も変化していく中で、デイトレーダーはどのような発想で平静を保っているのか。そもそも疑問を持つことは、株式市場の取引時間の始まる前と終わった後に限り、市場取引が開始した後に疑問を持ったら取引を縮小し、手仕舞うというのも印象的でした。株式売買だけでなく、いろいろと応用が効く内容ですね。