MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

イーロン・マスク(上)(ウォルター・アイザックソン)

イーロン・マスク(上)』(ウォルター・アイザックソン)(◯)

 ようやく発売されたイーロン・マスク氏の公式伝記。生い立ちから現在までを描いた上下巻約900ページの大作。ボリュームはありますが、全体が95章に分かれており、1章あたり平均10ページ弱。すぐに区切りが来るので、見た目以上にとても読みやすいです。上巻は、生い立ち〜2019年ごろまで。割と最近までが詰まっています(ということは、下巻は2019〜2023年まで)。世界のビジネスに大きな影響を与えている人がどんな人か知っておくことは、興味がほとんどで学びが少しという感じで読んでいます。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯序章(幼少期)

・だがそれほどの傷も、父エロール・マスクから受けた心の傷に比べれば大したことはない。

・「私は苦しみが原点なのです、だから、ちょっとやそっとでは痛いと感じなくなりました」

・「危険に生きる〜ただし慎重に〜」が家族のモットーとなる。

 

◯第4章(探求者 プレトリア1980年代)

・本の虫だったマスクは、本から答えを得ようとした。最初に手を出したのは、ニーチェ、ハイデッガ、ショーペンハウアーなどの実存哲学である。図書館もSFの棚は全巻制覇した。

 

◯第8章(ペンシルバニア大学 フィラデルフィア1992〜1994年)

・専攻は物理学。父親と同じく工学に興味があったからだ。

・当時のマスクは、のちのキャリアにつながる3つの分野に興味を抱いていたという。引力の測定でも物性の分析でも、その物理法則がロケットの建造にどう役立つか。

・電気自動車にも強い興味を示していた。お昼はバッテリーの論文を読みながら食べることが多かった。

・1994年当時、ようやく実用段階に入りつつあった太陽電池こそ、持続可能エネルギーの本命だとマスクは考えていた。卒業論文も「太陽エネルギー活用の重要性」。

 

◯第9章(西へ シリコンバレー 1994〜1995年)

・「人類に大きな影響を亜が得ることがしたいと考えた。思いついたのは3つ。インターネットと持続可能性エネルギーと宇宙旅行

 

◯第12章(Xドットコム パロアルト 1999〜2000年)

・1999年友達のハリス・フリッカーをスコシアバンクから引き抜き、Xドットコムを立ち上げた。Xドットコムのコンセプトは壮大。銀行業務、デジタル決済、小切手の決済、クレジットカード、投資、融資と金融系の全てを満たすワンストップのエブリシング・ストア。

・新会社は電子決済システムを統合し、ペイパルという名前で展開。このシステムを中心に急成長が続く。マスクはペイパルを再編し、独立のエンジニアリング部門を無くした。設計と製造の分離は機能障害をもたらすという、マスク一流の哲学。

・ペイパルは2002年に株式を公開し、15億ドルでイーベイに買収された。マスクは約2億5000万ドルを手に入れたことになる。

 

◯第18章(ロケット建造のマスク流ルール スペースX 2002年〜2003年)

・ほんの数年で、スペースXは、ロケット用部品の70%を内製するようになる。

・大手の航空宇宙企業は、使用や要件をきっちり守る。マスクは逆で、要件はすべて疑えと指示する。製品開発でマスクが口癖のように繰り返し「例のアルゴリズム」と社内で呼ばれるようになる5項目のチェックリストができるのだが、その第1項目がこれ。

・マスクは反復型のアプローチを採用した。ロケットもエンジンも試作品をサッと作ると試験して爆発させ、改良してまた試験をするという形で完動品に持っていく。サッと作って失敗するを繰り返す。

 

◯第32章(モデルS テスラ 2009年)

・「ほんと、きっついんですよ。報告書を責めるのが好きなんです。必ずしもいいやり方だとは思えないんですけどね。私もだいぶやられました。イーロンがいる会議にはもう出たくありません。」(ドリュー・バグリーノ談)

・マスクは規制を目の敵にする。他人の定めた規則に従うの嫌なのだ。

 

◯第40章 人工知能 OPEN AI 2012〜2015年)

人工知能で成功するには、現実世界のデータを大量に手に入れ、ポットに学ばせなければならないこともマスクは理解していた。そして、テスラがそういうデータの宝庫となり得ることにも気づいていた。何せ、さまざまな人がさまざまな状況でどう運転しているのか、毎日、信じられないほどたくさん撮影しているのだ。

・「テスラほど現実世界のデータを持っている会社は世界中どこを探してもないのではないでしょうか」

・もうひとつデータの宝庫があることにも、後に気づく。ツイッターだ。

ツイッター買収劇は下巻で詳細に書かれている)

 

 読んでまず驚いたのは、イーロン・マスク氏と自分が同い年だったこと。まったく違う世界で生きており、比べることも意味がないのですが、同じ年数生きてきているというだけで、本書を読む熱量が上がりました。読めば読むほど、一緒に働きたい人とは真逆の人に思えていますが、違う世界の偉大なイノベーターだと思って読むと、自分とは異なる点こそ学びが大きく、刺激になります。

 また、強烈なイメージが先行しますが、子供の頃から父親との関係では相当苦労されており、子供時代に人格を築いた原体験があると言いますが、まさにその通りのように思いました。下巻もどんな物語が描かれているのか、とても楽しみです。