MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

まず、ちゃんと聴く(櫻井将)

『まず、ちゃんと聴く』(櫻井将)(◯)

 私のお友達であり、エール(株)の代表取締役である著者。在り方、お人柄が尊敬できるだけでなく、ロジカルな面とのバランスが絶妙に素晴らしい方なのですが、その著者が本業であるコーチングの最も大切な技術、「聴く」ということにフォーカスした書籍を出版されたということで、即買いしました。

 本書を読み始めてすぐに気づいた良いところ。それは、コミュニケーションの書籍なのですが、ロジカルな解説と現場で結果を出すという現場感覚がちゃんと意識されているので腹落ちしやすいという点です。

 ビジネスの現場で管理職や経営陣といった「本当にコミュニケーションを学んで欲しい方」は、普段論理的に仕事を進めることに重点を置いている方が多いので、本書のような感性も大切にしつつ、きちんとロジカルに説明してくれる書籍は、納得しながら読み進めていけると思います。

 「まず」「ちゃんと」「聴く」の定義から始まり、その後に「伝える」を分解した章と「伝える」を分解した章があり、両者を踏まえて「聴くと伝えるの黄金比」という統合的な章へと続きます。

 本書は、タイトルは「聴く」にフォーカスが当たっていますが、内容は「聴く」と「伝える」から成るコミュニケーションの本質を理解し、スキルアップしていくための一冊というふうに理解しました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯「まず」

・「聴く」だけではうまくいかないことがあるが、聴いた方が相手に役立つアドバイスができる。

・聴く力は、何でも話してもらう力であり、解像度を上げる力でもある。

 

◯「ちゃんと」

・ちゃんと聞けているかどうかを決めるのは「やり方」ではなく「あり方」

・「聴く技術」は「あり方」×「やり方」

 

◯「聴く」

・「聴く」は、相手視点で解釈を脇に置いて、相手の関心に関心を持っている状態。寄り添い、受け止め、「何?」を問うので、横の関係になりやすい。

・「聞く」は、自分視点で解釈しながら、相手または自分の関心ごとに関心を持っている状態。同意(反対)、従う(従わない)、「なぜ?」を問うので、上下関係になりやすい。

 

◯「ちゃんと聴く」の分解・・この章だけで70ページ以上あります。

・聴く技術=あり方(信念)×やり方(非言語スキル×言語スキル)

・聴く力=聴く技術×コンディション

・聴く力=何でも話してもらう力×解像度を上げる力

 

◯「伝える」の分解

・フィードバック・マトリクス

 =他者への貢献度(高/低)×事象の発生度(高/低)で考える

①他者への貢献度(高)×事象の発生頻度(高)

→ポジティブフィードバックできちんと言葉にする。

②他者への貢献度(低)×事象の発生頻度(高)

→4つの伝え方

1)厳しく×不足を伝える

2)優しく×不足を伝える

3)厳しく×理想(ゴール)を伝える

4)優しく×理想(ゴール)を伝える

③他者への貢献度(高)×事象の発生頻度(低)

→貢献を見逃さない

 

◯「聴く」と「伝える」の黄金比

・テーマによる使い分け

①PIマトリクス(Positive Intention Matrix)をベースに考える・・詳しくは本書参照

②こだわりがある時は、まず聴く

・時間による使い分け

①最小の5秒は聴く

②時間を見極める

・人による使い分け

①ひとりでやろうとしない

・相手に応じた使い分け

①相手に確認する

②相手の興味・関心があるテーマを話題にする

 

 私の場合は、ずっとロジカルな世界で仕事をしており、若い頃から資格試験やロジカルシンキングに邁進し、その頂点がMBAでの学びだったわけですが、それらの経験や学びが本当に生かされたのは、実はその後に学んだコーチング&コミュニケーションでした。

「ロジカル・豊富な知識×コミュニケーション」

 コミュニケーションは、プレゼンテーションでもなく、ネゴシエーションでもない。相手を理解し、そして理解されるということ(これは『7つの習慣』の習慣の一つでもあります)。

 コミュニケーション力が掛け合わされることで、ロジカルな部分や知識・経験が何倍にも、何乗にも増幅していきます。一方、コミュニケーション力がマイナスであれば、ロジカルな部分や知識・経験があればあるほど大幅なマイナスとなって部下や周囲の方を直撃してしまいます(本人は悪気はなく、無意識だったり、良かれと思っていたりします)。

 ロジカルとコミュニケーション、どちらも学んだ方なら肌感覚で感じられる世界なのですが、この感覚を伝えるのは本当に難しいなぁと思います。

 私も道半ばではありますが、コーチングを学んでから丸7年、延べ700〜800名ほどとのコーチングセッションの時間を通じて、ようやく少しずつですが、コミュニケーションの理解が深まっているように思います。そして、同時に、できてない自分や、自分の在り方の反省材料も山ほど見つかります。。。

 本書が人に影響を与える立場にいらっしゃる方に手に取っていただき、良い影響を周りの方に与える一歩になると嬉しいなと思います。