MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

静かに退職する若者たち(金間大介)

『静かに退職する若者たち』(金間大介)

 著者は金沢大学教授、東京大学客員教授。雑誌『Voice』に連載された「考えさえたい大人、答えが欲しい若者」に書き下ろしを加え、加筆修正されたものです。1on1ミーティングではうまくいっているように思えたのに、突然退職代行業者から電話がかかってくる。そんな状況が珍しくないなか、部下との1on1の前に知っておいて欲しいことがまとめられた一冊。上司や先輩の課題に寄り添いつつ、徹底的に若者目線で語られています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯1on1に対する若者の本音

・47人の若者に対して実施されたアンケート結果。6段階評価で「当てはまる」度合いが4〜6の回答率上位は次のとおり。

①1on1が終わった後も、特に変化はない。

②1on1がある日はちょっと気が重い

③1on1ではなるべく相手に話してもらい、自分はそれを聞く時間にする

④1on1では、だいたい事前にどんな返答をするか決めている。

⑤1on1で何かを要求したことはない。

・若者の1on1に対する6タイプ

①積極志向(有効活用します、ないと困ります)

②日常志向(普段から話してますから)

③合理志向(業務伝達やすり合わせのために)

④表面志向(お互いやらされ感ありますよね)

⑤最低限志向(どうしても必要なことがあれば)

⑥回避志向(なるべくやりたくないです)

・特徴的な3タイプの若者との1on1

①積極志向の深層心理

 「普段話していないこととかを話せる、いい機会だと思っている」。上司や先輩がアドバイスをくれる成長の場。やりたいことをアピールする場。上司や先輩と仲良くなれる場。困っていることや不平不満をぶつける場。

→提案:上司・先輩としてできる限りの行動を

②表面志向の深層心理

 「要するに業務ですよね。上司側のノルマみたいな」。上司が部下を気遣うための場。上司が部下のモチベーションを上げようとする場。上司が部下の問題探しをする場。上司が部下を味方につけようとする場。

→提案:まずはあなたの武装解除から

③回避志向の真相心理

「逃げられない状況を作っての探りの場じゃないでしょうか」。上司の中での自分評価(キャラ)が確定する場。十分な予習をして臨む場。忙しさをアピールする場。頑張ります風の姿勢を示す場。期待値調整の場。

→提案:若者を理解し、変えようとしない。

 

◯退職代行サービスを使う若者たち

・退職代行サービスを使うメリット

①面倒で煩雑な退職手続きを代わりに処理してもらうこと

②スムーズかつ円満に退職すること

・若者に退職代行サービスが人気の理由

 若者の立場からすれば、ストレスコストが年々高まっている。そのコストが退職代行サービスに支払うコストを凌駕するがゆえに、退職代行サービスが人気を集める。赤の他人を挟むと、簡単に言えてしまう。

 

◯別の会社で通用しなくなると考える若者の心理

・上司も部下も仕事もやさしすぎて辞めたい

リクルートワークス研究所の調査によれば、「自分は別の会社や部署で通用しなくなるのではないか」と感じるかという質問で、強くそう思うが10.6%、そう思うが34.7%、合わせて45.6%が自分のスキルや知識の汎用性に不安を抱えている。

・先輩世代の皆さんは、まず彼らのことを理解してあげよう。そして決して矯正しようしてはいけない。それよりもとにかく理解してあげよう。深く、真摯に受け止めるというよりは、楽しく、柔らかく受け入れる。なぜ今の若者は、そのような強くなってきたのか。それを考えるポイントは2つ。

①昨今の知識やスキル、能力の獲得に対するファスト化

②同世代と比べて、自分だけ知らない、自分だけできない、という、いわゆる平均値からの脱落に対する強い恐怖心。

 

◯若者にとっての理想の上司とは

・20代に人気なのは「具体的な助言をくれる上司」

・仕事の成果にこだわる上司は不人気

→今日の日本社会は、①じっとしている方が得、②できないふり、忙しいふりの演技バトル、③やらないを選ぶ方が合理的、やった者負け、言った者負け、④ゼロメリット社会

・部下のために働いてくれる上司・先輩が急上昇

日本能率協会「2022年度新入社員意識調査」における「理想的だと思う上司や先輩」上位3つ

①仕事について丁寧な指導をする

②言動が一致している

③仕事の結果に対するねぎらい、褒め言葉を忘れない

 

◯上司・先輩世代に向けた5つの提案

①傾聴のススメと3つのポイント

1)興味を持って楽しむ、2)共感する、3)なるべく素でいる

②時には熱い思いや努力の必要性を語ってみる

③これまでの非合理を見直す姿勢と勇気を持つ

④泥臭く前に進む姿を見せる

⑤「ちゃんとした上司」をやめる

 

 「◯◯世代」などとラベルを貼られ、世代間ギャップを感じるということはありがちだと思います。人と人の関係性ベース。世代が違えば、育った時代背景も違う。人だから個性や価値観がバラバラであるのが普通であり、違いを前提として接すること。一方で給料をもらって働く者としては、期待に応える働きをするのは当たり前であり、本書でも書かれていたような「仕事の成果にこだわる上司は不人気」みたいな流れがあっても迎合するのはどうかと思います。始まりは人と人との関係。年齢が違い、経験値が違ったとしても、同じ目線で(上から目線にならず)、まずは聴いて、話して関係を作っていくことからではないかと思います。そういう意味でも、1on1は形やテクニックではなく、在り方が問われるように思います。