MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

異文化理解力(エリン・メイヤー)

『異文化理解力』(エリン・メイヤー)(◯)

 ダイバーシティの中でも特に国の違いからくる意思疎通のすれ違いにどのように対処すれば良いのかがまとまっている一冊。そのためには、8つの領域について、相対的に自分の国と相手の国がどこに位置しているのかを把握する。そして、そのズレを意識してコミュニケーションを取ること。この意識化しておくプロセスにとても意味があり、外国の方とお話しする時には、押さえておきたいポイントが盛りだくさんです。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯8つの指標(カルチャー・マップ)

①コミュニケーション

 ローコンテクストvsハイコンテクスト

②評価

 直接的なネガティブ・フィードバックvs間接的なネガティブ・フィードバック

③説得

 原理優先vs応用優先

④リード

 平等主義的vs階層主義的

⑤決断

 合意志向vsトップダウン

⑥信頼

 タスクベースvs関係ベース

⑦見解の相違

 対立型vs対立回避型

⑧スケジューリング

 直接的な時間vs柔軟な時間

 

◯コミュニケーション

・ローコンテクスト(アメリカ・カナダ・オーストラリアなど)

 良いコミュニケーションとは厳密で、シンプルで、明確なもの。メッセージは額面通りに伝え、額面通りに受け取る。コミュニケーションを明確にするためならば繰り返しも歓迎。

・ハイコンテクスト(日本・韓国・インドネシアなど)

 良いコミュニケーションとは繊細で、含みがあり、多層的なもの。メッセージは行間で受け取る。ほのめかして伝えることが多く、はっきりと口にすることは少ない。

 

◯評価

・直接的なネガティブ・フィードバック(ロシア・イスラエル・オランダなど)

 同僚へのネガティブ・フィードバックは率直に、単刀直入に、正直に伝えられる。ネガティブなメッセージをそのまま伝え、ポジティブなメッセーで和らげるようなことはしない。顕著な例では、批判する際に「間違いなく不適切だ」や「まったくもってプロフェッショナルとは言えない」と言った言葉が使われる。批判はグループの前で個人に向けて行われもする。

・間接的なネガティブ・フィードバック(日本・タイ・インドネシアなど)

 同僚へのネガティブ・フィードバックは柔らかく、さりげなく、やんわりと伝えられる。ポジティブなメッセージでネガティブなメッセージを包み込む。顕著な例では「やや不適切だ」や「少しプロフェッショナルじゃない」と言った言葉が使われる。批判は1対1のみで行われる。

 

◯説得

・原理優先(イタリア・フランス・ロシアなど)

 各人は最初に理論や複雑な概念を検討してから事実や、発言や、意見を提示するように訓練されている。理論的な議論を元に報告を行ってから結論へと移るのが望ましいとされている。各状況の奥に潜む概念的原理に価値が置かれる。

・応用優先(アメリカ・カナダ・オーストラリアなど)

 各人は事実や、発言や、意見を提示した後で、それを裏付けたり結論に説得力を持たせる概念を加えるように訓練されている。まとめたり箇条書きにしてメッセージや報告を伝えるのが望ましいとされている。議論は実践的で具体的に行われる。理論や哲学的な議論はビジネス環境では避けられる。

 

◯リード

・平等主義的(デンマーク・オランダ・スウェーデンなど)

 上司と部下の理想の距離は近いものである。理想の上司とは平等な人々のなかのまとめ役である。組織はフラット、しばしば序列を飛び越えてコミュニケーションが行われる。

・階層主義的(日本・韓国・ナイジェリアなど)

 上司と部下の理想の距離は遠いものである。理想の上司とは最前線で導く強い旗振り役である。肩書きが重要。組織は多層的で固定的。序列に沿ってコミュニケーションが行われる。

 

◯決断

・合意志向(日本・スウェーデン・オランダなど)

 決断は全員の合意の上グループでなされる。

トップダウン式(ナイジェリア・中国・インドなど)

 決断は個人でなされる(たいていは上司がする)

 

◯信頼

・タスクベース(アメリカ・オランダ・デンマークなど)

 信頼はビジネスに関連した活動によって築かれる。仕事の関係は実際の状況に合わせてくっついたり離れたりが簡単にできる。あなたが常に良い仕事をしていれば、あなたは頼りがいがあるということになり、私もあなたとの仕事に満足し、あなたを信頼する。 

・関係ベース(サウジアラビア・インド・ナイジェリアなど)

 信頼は食事をしたり、お酒を飲んだり、コーヒーを一緒に飲むことによって築かれる。仕事の関係はゆっくりと長い時間をかけて築かれる。あなたの深いところまでを見てきて、個人的な時間も共有し、あなたのことを信頼している人たちのことも知っているから、私はあなたを信頼する。

 

◯見解の相違

・対立型(イスラエル・フランス・ドイツなど)

 見解の相違や議論はチームや組織にとってポジティブなものだと考えている。表立って対立するのは問題ことであり、関係にネガティブな影響は与えない。 

・対立回避型(インドネシア・日本・タイなど)

 見解の相違や議論はチームや組織にとってネガティブなものだと考えている。表立って対立するのは問題で、グループの調和が乱れたり、関係にネガティブな影響を与える。

 

◯スケジューリング

・直接的な時間(ドイツ・スイス・日本など)

 プロジェクトは連続的なものとして捉えられ、ひとつの作業が終わったら次の作業へと進む。一度にひとつずつ。邪魔は入らない。重要なのは締切で、スケジュール通りに進むこと、柔軟性ではなく組織性や迅速さに価値が置かれる。

・柔軟な時間(サウジアラビア・ナイジェリア・ケニアなど)

 プロジェクトは流動的なものとして捉えられ、場当たり的に作業を進める。様々なことが同時に進行し邪魔が入っても受け入れられる。大切なのは順応性であり、組織性よりも柔軟性に価値が置かれる。

 

 最近は、人手不足の課題対応のひとつとして、外国人材に注目が集まっています。いかにうまく意思疎通を図れるかで、仕事の質も大きく変わってくるはず。コミュニケーションの裏側にある国の特徴、文化の特徴を押さえておき、日本の特徴も踏まえた上で対話できると、誤解が生じることも未然にある程度防げそうです。