MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

勉強法の科学(市川伸一)

『勉強法の科学』(市川伸一)<2回目>

 認知心理学を専門とする東大教授による「勉強のしかた」の基礎になるような心理学の理論や知見を解説した一冊。一見ばらついたものに何らかの関係を見出せば、覚えやすくなる。ただし、それが分かるためには知識が必要。丸暗記する力は大人と子供ではほとんど同じ。違いは持っている知識にある。知識があれば、言葉の意味が分かる。物事の間の関係が付く。それによって覚えることができる量が違ってくる。そんな、勉強法の基本とは。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇メモリースパン(一度に思い浮かべられる量)

・短期記憶:今頭の中に意識としてあること。大体7個前後。

 

〇記憶の貯蔵庫モデル(繰り返しの効果と限界)

・外から情報が入ってくると、まず短期貯蔵庫に入る。短期貯蔵庫は容量が小さく、ここに入ったことは、忘れてしまうという性質がある。忘れないようにするためには、頭の中で何べんも繰り返す必要がある。

・一方で、人間は長期貯蔵庫というメカニズムも持っている。長期貯蔵は容量が大きく、無限といってもよい。ところが、情報がいきなり長期貯蔵庫に入る訳ではなく、何回も反復することが必要。

 

〇チャンク化

・短期記憶には7つくらいの項目鹿情報をとどめておくことができないので、情報をひとまとまり(チャンク化)して記憶する(例:答えではなく、法則を記憶する)。

 

〇有意味化

・長期記憶としてものを覚えようというときには、覚えようとしているものがどんな意味を持っているのか、ということが大事な働きをする。

 

〇構造化

・情報を関連付けるための構造やルールを見出す。長期記憶の中に、例えば文章の内容を知識として入れてくる、あるいは見た映像を知識として入れてくるというときには、必ずすでに持っている知識をうまく使っているということ。逆に知識がないと、構造が見えてこないし、長く覚えることもできない。

 

〇情報を取り込む(上からと下からと)

ボトムアップ処理

 あり得る特徴をずらりと並べておいて、どの特徴を持っているかということを分析してみていく。

トップダウン処理

 ある程度仮説を立てておいて、そしてきっとこれだろうと探っていくやり方。

 

〇知識は使うためにある(スキーマによる文章理解)

・「〇〇とはどういうものか?」という一般的知識を認知心理学では、「スキーマ」という。

・文章には、普通はタイトルがついているか、仮にタイトルがなくても、最初の部分を読めばうまくスキーマが引き出せるように書いてあるもの。そうでない文章は悪い文章。

 

〇数学の問題解決のプロセス

■問題理解

①問題⇒文単位の表象

 「言語的知識」‥必要な情報の抽出推論

②文単位の表象⇒問題全体の表象

 「問題スキーマ」‥文の表象の関係づけ推論。日本語としては分かるけれども、一体何の問題なのかが分からないでは、その先に進みようがない。問題スキーマをどれだけ豊富に持っているかが一つのポイントになる。

■実行(計算)

③問題全体の表象⇒計算

 「行為スキーマ」‥解決のためのプラン。こういう問題のときは、このようなやり方で解いていくのがいいという知識。こういうやり方でやれそうだとなれば、式が立てられる。

④計算⇒答え

 「行為スキーマ」‥演算操作

 

〇素朴概念

 誤った知識を持っているために、かえって間違った推論や判断をしてしまうこと。

 

〇固着と制約

 もっとずっと簡単なやり方でできるものがあるのに、そのことになかなか気づかない。決まったやり方に慣れすぎると、ほかのうまいやり方が見つからなくなってしまう(固着)。一種の固定概念が制約となって、かえって問題解決を妨げてしまう。

 

〇教訓帰納

 問題を解いたとき、あるいは解けなかったとき、どういう教訓をそこから引き出してくるかが重要。これをするかしないかで、学習がスムーズに進むかどうかが全然違ってくる。自分の思い違いや自分のしやすいミスに気が付くことも、やはり教訓なる。テストが返されたとき、問題集をやっているとき、失敗や減点はつきもの。そのときこそ、教訓を引き出し、次に生かせる知識が生まれるチャンス。

 

〇動機づけ(内発と外発)

・外発的動機づけ:生理的欲求、社会的欲求など、他の欲求を満たすための手段として喚起される意欲。

・内発的動機づけ:新しい刺激や情報を求めるという知的好奇心、ものごとの原因・理由や知識同士の関連を知りたいという理解欲求、技能に習熟してうまくできるようになりたいという向上心など。

・内発的動機づけの減退効果:もともと内発的に行っている行動に、むやみに報酬を伴わせると、かえって内発的な意欲が低下してしまうこと。外からの報酬は学習にとって諸刃の剣。

 

〇結果期待と効力期待

・結果期待:自分がある行動をとれば良い結果を得られるだろういう期待。

・効力期待:自分はそのような行動を実際に取れるかという期待。

⇒「やれば成功するはずだが、とてもやれない」と感じてしまえば、やる気にはつながらない。「これをやればいい結果になる」という確信をもって内容にすると同時に、「これなら自分でも出来そうだ」という実行可能性の高いものにしないと、やる気は出てこない。

 

 あらためて理論的に知ることで、自分が取り組んだり、工夫していることが、「そういうことか」と腑に落ちました。問題を問題と気づいたり、関連性を持って知識を呼び起こしてきたりするために、知識をストックしていること。法則を貯めこむことで、ものごとを括って覚えやすく、かつ、適応範囲を広げていること。経営のフレームワークや歴史から学び取ることなんかは、とても効率よくエッセンスを吸収できている気がします。ふわっとしたものは、時々、整理して納得感を得るという点で、役立った一冊でした。 

 f:id:mbabooks:20170903212811j:plain