『勉強法の科学』(市川伸一)<2回目>
認知心理学を専門とする東大教授による「勉強のしかた」の基礎になるような心理学の理論や知見を解説した一冊。一見ばらついたものに何らかの関係を見出せば、覚えやすくなる。ただし、それが分かるためには知識が必要。丸暗記する力は大人と子供ではほとんど同じ。違いは持っている知識にある。知識があれば、言葉の意味が分かる。物事の間の関係が付く。それによって覚えることができる量が違ってくる。そんな、勉強法の基本とは。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇メモリースパン(一度に思い浮かべられる量)
・短期記憶:今頭の中に意識としてあること。大体7個前後。
〇記憶の貯蔵庫モデル(繰り返しの効果と限界)
・外から情報が入ってくると、まず短期貯蔵庫に入る。短期貯蔵庫は容量が小さく、ここに入ったことは、忘れてしまうという性質がある。忘れないようにするためには、頭の中で何べんも繰り返す必要がある。
・一方で、人間は長期貯蔵庫というメカニズムも持っている。長期貯蔵は容量が大きく、無限といってもよい。ところが、情報がいきなり長期貯蔵庫に入る訳ではなく、何回も反復することが必要。
〇チャンク化
・短期記憶には7つくらいの項目鹿情報をとどめておくことができないので、情報をひとまとまり(チャンク化)して記憶する(例:答えではなく、法則を記憶する)。
〇有意味化
・長期記憶としてものを覚えようというときには、覚えようとしているものがどんな意味を持っているのか、ということが大事な働きをする。
〇構造化
・情報を関連付けるための構造やルールを見出す。長期記憶の中に、例えば文章の内容を知識として入れてくる、あるいは見た映像を知識として入れてくるというときには、必ずすでに持っている知識をうまく使っているということ。逆に知識がないと、構造が見えてこないし、長く覚えることもできない。
〇情報を取り込む(上からと下からと)
・ボトムアップ処理
あり得る特徴をずらりと並べておいて、どの特徴を持っているかということを分析してみていく。
・トップダウン処理
ある程度仮説を立てておいて、そしてきっとこれだろうと探っていくやり方。
〇知識は使うためにある(スキーマによる文章理解)
・「〇〇とはどういうものか?」という一般的知識を認知心理学では、「スキーマ」という。
・文章には、普通はタイトルがついているか、仮にタイトルがなくても、最初の部分を読めばうまくスキーマが引き出せるように書いてあるもの。そうでない文章は悪い文章。
〇数学の問題解決のプロセス
■問題理解
①問題⇒文単位の表象
「言語的知識」‥必要な情報の抽出推論
②文単位の表象⇒問題全体の表象
「問題スキーマ」‥文の表象の関係づけ推論。日本語としては分かるけれども、一体何の問題なのかが分からないでは、その先に進みようがない。問題スキーマをどれだけ豊富に持っているかが一つのポイントになる。
■実行(計算)
③問題全体の表象⇒計算
「行為スキーマ」‥解決のためのプラン。こういう問題のときは、このようなやり方で解いていくのがいいという知識。こういうやり方でやれそうだとなれば、式が立てられる。
④計算⇒答え
「行為スキーマ」‥演算操作
〇素朴概念
誤った知識を持っているために、かえって間違った推論や判断をしてしまうこと。
〇固着と制約
もっとずっと簡単なやり方でできるものがあるのに、そのことになかなか気づかない。決まったやり方に慣れすぎると、ほかのうまいやり方が見つからなくなってしまう(固着)。一種の固定概念が制約となって、かえって問題解決を妨げてしまう。
〇教訓帰納
問題を解いたとき、あるいは解けなかったとき、どういう教訓をそこから引き出してくるかが重要。これをするかしないかで、学習がスムーズに進むかどうかが全然違ってくる。自分の思い違いや自分のしやすいミスに気が付くことも、やはり教訓なる。テストが返されたとき、問題集をやっているとき、失敗や減点はつきもの。そのときこそ、教訓を引き出し、次に生かせる知識が生まれるチャンス。
〇動機づけ(内発と外発)
・外発的動機づけ:生理的欲求、社会的欲求など、他の欲求を満たすための手段として喚起される意欲。
・内発的動機づけ:新しい刺激や情報を求めるという知的好奇心、ものごとの原因・理由や知識同士の関連を知りたいという理解欲求、技能に習熟してうまくできるようになりたいという向上心など。
・内発的動機づけの減退効果:もともと内発的に行っている行動に、むやみに報酬を伴わせると、かえって内発的な意欲が低下してしまうこと。外からの報酬は学習にとって諸刃の剣。
〇結果期待と効力期待
・結果期待:自分がある行動をとれば良い結果を得られるだろういう期待。
・効力期待:自分はそのような行動を実際に取れるかという期待。
⇒「やれば成功するはずだが、とてもやれない」と感じてしまえば、やる気にはつながらない。「これをやればいい結果になる」という確信をもって内容にすると同時に、「これなら自分でも出来そうだ」という実行可能性の高いものにしないと、やる気は出てこない。
あらためて理論的に知ることで、自分が取り組んだり、工夫していることが、「そういうことか」と腑に落ちました。問題を問題と気づいたり、関連性を持って知識を呼び起こしてきたりするために、知識をストックしていること。法則を貯めこむことで、ものごとを括って覚えやすく、かつ、適応範囲を広げていること。経営のフレームワークや歴史から学び取ることなんかは、とても効率よくエッセンスを吸収できている気がします。ふわっとしたものは、時々、整理して納得感を得るという点で、役立った一冊でした。