MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

革命のファンファーレ(西野亮廣)

『革命のファンファーレ』(西野亮廣)(◯)

 ベストセラーになっているキングコング西野さんが執筆された本書。クラウドファンディングで1億円調達し、絵本『えんとつ町のプペル』を32万部売った裏側、特にマーケティング視点にフォーカスが当たっています。著者の個性も全面に出ていて、読んでいておもしろく、ヒントも多い一冊でした。一読の価値ありです。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯世代ギャップ

・動物であろうと、植物であろうと、いつの世でも種として優秀なのは、”年下”で、これは抗いようもないし前回のルールだ。若者世代への批判は、そのほとんどが”進化への乗り遅れ”に他ならない。

・多くの大人は「職業は永遠に続く」という前提で話を進めてくる。だから、すぐに、「お前は何屋さんなんだ!?」と肩書きを付けたがる。上の世代には申し訳ないが、今はそんな時代ではない。

 

◯分業制の絵本が存在しない理由

・1万部売れれば大ベストセラーと言われる絵本市場。極端に市場が小さいものだから売上が見込めない。売上が見込めないということは、制作費を用意することができない。つまり、業界の構造上、絵本は「一人で作る」以外に選択肢がない。

・絵本を一人で作らせている原因のど真ん中に「お金」という問題があった。ならば、お金さえ集めてしまえば「分業制」という選択肢を取ることができる。

・というわけで、絵本『えんとつ町のプペル』の制作で一番最初にやった作業は「資金調達」であった。

 

◯『えんとつ町のプペル』の無料公開

・インターネット上で『えんとつ町のプペル』の全ページを無料公開した。直後日本中から避難の声が上がった。先に結果を言っておくと、この無料公開により『えんとつ町のプペル』の売り上げは上がり、アマゾン総合売り上げランキングで再び1位に返り咲き、23〜24万部で落ち着きかけていた発行部数は一気に31万部まで伸びた。

テレビアニメーションは無料公開の形をとっているが、しかしお金の流れは止まっていない。一部の視聴者が、そのアニメの映画や有料イベントや有料放送やグッズ、さらには番組スポンサーが流したCMの商品を購入する。ここがポイント。価値のないもの(ゴミ)を無料で提供してもお金は発生しない。価値があるもの(無料ではないもの)を無料公開しているから、ファンが生まれ、巡り巡って、その声優さんにお金が落ちている。

・一見無料のようだが、その実、マネタイズのタイミングを後ろにずらしているだけの話。「全てのサービスには、利用したその瞬間にお金を支払うべきだ」ということが常識となっている人からは、当然、入り口が無料のツイッターやグーグルーやヤフーやテレビというアイデアは出てこない。

・本屋さんで売られている紙の絵本の”付加価値”は「物質である」という部分。絵本『えんとつ町のプペル』は、この部分に料金が発生している。「紙の絵本を買いたい」となってもらうには、まずは、とにもかくにも内容を知ってもらわねばならない。なのでWebで無料にした。そして僕は、「スマホで読み聞かせはやらない」と読んだ。個人では満足できても、複数人で読むには不便になるようにデザインした。「縦スクロール」だ。

・無料公開することで実力が可視化されて売り上げが上がる人間と、無料公開することで実力不足が露呈して売り上げが落ちてしまう人間の2種類が存在する。無料化に対する拒否反応の根底にあるのは、「僕を置いていかないで」だ。無料公開が常識になった今、実力が可視化されるようになった今、一番の広告は「作品のクオリティーを上げること」だ。

 

◯人は「確認作業」にお金を払う

・「人が時間やお金を割いて、その場に足を運ぶ動機は、いつだって「確認作業」で、つまりネタバレしているものにしか反応しない。ルーブル美術館モナリザを見に行く人は、テレビか教科書ですでにモナリザを見ているし、グランドキャニオンに旅行に行く人は、テレビかパンフレットで、グランドキャニオンを見ている。

・これが、「お金を払ったら、有名画家の素晴らしい絵を見せますよ」だったり、「お金を払ったら、ものすごい場所までお連れしますよ」という、「袋とじ」や「福袋」的な、”入場料を払ったら中をお見せします商売”をしていたら、モナリザやグランフォキャニオンはここまでヒットしなかった。「人はけっこう冒険をしないものですよ」という話。とにもかくにも、僕らは”すでにある程度の実力が測れているもの”にしか反していない。

・どうやらお客さんを動かす(モノを買わせる)には「後悔の可能性」を取り除いてあげることが重要だ。

 

◯「体験×おみやげ」で作品を売る

・著名な彫刻家の作品は買わないのに、シンガポールに行った際の、作者不明の「マーライオン」の置物には手を伸ばす。本を買うのにあれだけ渋るくせに、演劇を観に行った際、「パンフレット」には手を伸ばす。どうやら僕らは「作品」にはお金を出さないが、「思い出」にはお金を出すようだ。「おみやげ」となると途端に財布の紐が緩む。「おみやげ」が売れるのなら、自分の作品を「おみやげ化」してしまえばいい。「おみやげ」に必要なのは「体験」。「おみやげ」は必ず「体験」の出口にある。個展に合わせて、本体である絵本の販売時期をずらすほど、僕は「おみやげ」に重きを置いている。

 

セカンドクリエイター

・クリエイターに軸足は置かないまでも、時々趣味で作り手に回ろうとするセカンドクリエイター(ラジオでいうハガキ職人)の層が増えに増えた。お金を払ってまで『えんとつ町のプペル 光る絵本展』をやりたがるような人たちのことだ。これからの時代は、このセカンドクリエイターのクリエイター心をいかに揺さぶるか。いかに「作ってみたいな」と思わせるか。そこがヒットの鍵になってくる。

 

 などなど、マーケティングのヒントになる視点が多数ある事例本として秀逸な良書でした。ヒットしている理由が読んでみてやっと感じられました。何となく、「芸人さん×流行本×ビジネス」ということでなんとなく食わず嫌い的でした。。。

 ところで、この本自体が、『えんとつ町のプペル』をサラリーマン層に広める(客層を拡大する)ための刷り込み戦略だと感じましたが、いかがでしょうか。本文にうるさいほど繰り返して『えんとつ町のプペル』という言葉が出てきます。私も本屋の絵本コーナーで探して買おうと思ったくらいですから。リアル本で買った方は、ぜひ本のカバーを外して見てください。紙の表紙に描かれた素晴らしい絵が登場します。

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

 

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